第9話

今日は正彦さんと組み手をしております。

初デートで組み手とはと思うかもしれませんが、私達は「武を極める」と言うお互い共通の目標があります。

最初はやっぱり組み手でしょとお互いがお互いに思っていたようで、今日は彼と組手デート。

香子姉からは「最初のデートが組み手?訳分んない」と言われたが、人は人、私達は私達である。

流石に現役最強と言われる男性なので柔道では中々勝てなかった。

彼は「まさか女子に一本取られると思わなかった」と言いつつニコニコであった。


「そう言えば華さんは合気道がメインでしたね?」

「そうですよ」

「空気投げとか出来ます?」

「教えましょうか?」

「是非!!」


柔道では空気投げ《隅落》は伝説の技となっており、柔道の神様と呼ばれた三船久蔵みふねきゅうぞうの必殺技の一つで憧れの技らしい。

私自身は普通に使っていたので大技と言う感覚も無かった。

確かに手の崩しで投げる技なので難しい?のかもしれない。

彼に教えるとまるで子供が初めての玩具で遊ぶようにキャッキャと喜んで試していた。

「今度試合で使いたいな~」と言っているのでさらに磨きをかけてその内使うのかもしれない。

柔道は足を掛けたり背負ったりが多いので空気投げが中々使われないのは仕方のない事なのかもしれない。

逆に合気道だと足を掛けたり背負ったりしないので崩しが重要となる。

だから、手だけで崩しを行う空気投げは正に合気道らしい技の1つだよね~


「試合内容が決まったぞ」


ジムに行くと来て早々に代吾井かごい会長は渋い顔で私に試合内容を説明していく。

内容は総合格闘技と言うよりも空手VS合気道といった感じで、私は合気道の技を使う事が求められる。

如何いう事かと言えば、相手選手は空手家として空手の技で戦い私は合気道の技で戦うと言う事である。

合気道は護身術なので相手にダメージを与えることを主目的としていない為格闘技としては不利な条件と言える。

会長が渋い顔をするはずである。

しかし、私としては望むところである。

合気道で相手を無力化するとか武道の極致だよね~これは燃える!!


上崎かみさき阿音あおとは呆れていた。

妹の音奈ねなが私のコネと父のコネを使い試合内容を私有利の物に変更させた。

空手VS合気道という構図は素人目には面白い異種格闘技戦だと思うが、両方とも護身術だと言えば聞こえはいいが、空手は打撃を特化させた護身術ではあるが、投げや関節技も存在するある種の総合格闘技である。

それに対し合気道は同じ護身術でも投げを主体としており相手を無力化することが主目的な為、打撃はあるが殆ど当身と言える程度で相手を破壊するような技ではない。

また、空手は足技もあるのに対し合気道は蹴りなどが殆ど無い。

相手を倒すと言う目的では空手が圧倒的に有利なことはよく知られていることである。

しかし、対戦相手の武神ぶしん選手には気の毒ではあるが、既に決まったことで妹が望むので仕方ないこととして諦めて貰おう。


多分、相手選手がこの内容聞くと合気道に不利と思うだろな~

合気道の開祖様は「合気道の実践は当身7割」と言ったとか言わなかったとか。

実際に合気道が実践で使うのは正拳突き、裏拳、手刀に足技も回し蹴りに膝蹴り、前蹴り等々の、え?合気道なの?と思うような技も多々ある。

護身すると言う事はそういう事であるのだが、今回求められるのは投げで勝だよね~

その期待を裏切らないこともまた一つの面白味ではある。

ハンデ戦?上等ではないか!!ハンデ与えても投げ勝つからこそ武の極みなのだ。

相手は上位ランカーなので試すにもお手頃である。

普通のお手頃と私のお手頃は意味が違うが、まぁ私にとって好都合なのは間違いない。

正彦さんに私の思惑を話すと「面白そうだ」と目をキラキラさせて喜んでいた。

試合は観に来るそうなので楽しみにしてほしいと思っている。


早い物で大晦日、試合の日を迎えた。

相手選手との事前顔合わせは体重測定の時だったが、私は軽量なので体重など気にしないで普通に朝食を食べて臨んだ。

相手選手の顔は何となく見たことあるような・・・

何処で見たかは今一思い出せないが・・・凄く思考に引っかかる。

「お互いにベストを尽くしましょうね」と言われたが、知っている様で知らない人だったので気のせいだろう。

試合前に香子姉や正彦さん、朱里さんが会いに来てくれたので少し話した。

今日は投げのみしか使わないことを言うと驚いていたが、私らしいと笑われた。

どこら辺が私らしいのかは分からないけど、楽しんで欲しいものである。

私は楽しめる自信がある。

縛りプレイでのゲームは面白いのと同じく自分に枷を与えて挑む戦いと言うのは燃えるのである。

相手を舐めているという訳ではなく自分を戒めているのである。

今回はそれを望まれているのでお望みどおりに投げだけで行くだけである。

試合は何とファイナルの試合の1つ前と中々に良い感じの時間帯である。

最後の試合前に会場を温めてあげようではないか!!

そんな中で面会者が来た。

誰かなと思えば元カレ君とあの女狐。


はな、久しぶりだな」

「え?何でここ入って来れたの?」


関係者以外立ち入り禁止の文字の書いた扉を見るが関係無いとばかりに女狐が答えた。


「姉が今日あなたと闘うのよ」

「姉?」

「そう、上崎かみさき阿音あおとは私の姉よ」


これは何という巡り合わせなのだろうか。

何処かで見たと思っていたのはこの女狐の姉だから何となく似ていたのである。

言われれば名字も同じだしな~気が付かなかった私って完全にこの女狐の事忘れてたわ・・・

それにしても、タイムリープ前は面識があったが、タイムリープ後は面識が出来る前に祐平ゆうへいと別れたので彼女とは面識無い筈なんだけど、何か恨まれてない?

間違いなく敵意を持った目で私を見ているんだけど。

まぁ良いか、復讐のチャンスが向こうからやって来た。

これって確か鴨葱かもねぎって言うんだよね?

凄くラッキーである。

黙り込んでいる私を見て女狐は勝ち誇ったように続けて言う。


「何でも空手VS合気道だったかしら?ハンデ戦を強いられたらしいわね」

「ハンデ戦?」

「そう、私がコネを使ってそうなる様に仕向けたのよ」


祐平ゆうへいは驚いた顔をしているので知らなかったようであるが、この女のやりそうなことの様に感じた。

私を殺す為に用意周到に計画を練ったと考えると今回は試合で私がボロ負けするように仕組んだと言う事なのであろう。

そんな事を考えていると、言い負かしたとでも思ったのであろうか、勝ち誇った顔で「では、健闘を祈ります」と言って祐平ゆうへいと共に姉の方へ向って行った。

祐平ゆうへいは何か言いたそうな顔をしているが、もう私は彼に関わるつもりは全く無い。

かける言葉とすれば、「」である。

それにしても、試合前に良い話が聞けたものだ。

凄くテンションが上がり燃えて来た。

最高の激励でしたよ、上崎音奈女狐さん!!

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