サレ妻は武を極める(仮)

生虎

第1話

私は世の中で言うところのサレ浮気された妻である。

そして、逆恨みから浮気相手の女から包丁で刺され死亡した・・・はずなんだが、目が覚めるとどうやら生きているようだ。


「あれ?死んだと思ったんだけど・・・」


刺された時の痛みはまだ残っているような気がするが、傷跡きずあとを確認すると刺された箇所には何の痕跡こんせきもなし。

あの時、あの刺された瞬間、脇腹に激痛が走り、力が抜け、寒く感じたかと思うと意識が遠いて行った。

寒く感じた辺りから「こりゃ駄目だ」と思っていたので生きているだけ丸儲けである。

しかし、あの状態で生きているとか信じられない。

ふとそんな事を考えて周りを見渡すと、部屋の風景が違う。

病院ではない様である。

よく見ると覚えのある風景。

これって結婚する前の私の部屋だと気が付いた。

スマホを探すとさっきまで私の寝ていたベッドの横のサイドテーブルの上に充電された状態で置いてあった。

日付を確認すると、結婚する5年前。

刺されたのが結婚5年目なので10年前に戻っているのだ。

これはちまたうわさのタイムリープと言うヤツだろう。

特に何かの宗教に所属して信心深く神を信じていた訳ではない。

私の信じるのは武のみである。

最後は自分の武力で乗り切ると言う世紀末思想の下、結婚する少し前まで武力を磨いて来た私。

とっさのこととは言え不覚にもあの女狐に不覚を取ったのが非常に許せない。

あの女も許せないが、ブランクがあったとはいえ不覚を取った自分の未熟さが一番許せない。

ではこのタイムリープ幸運と言うものを得たのでリベンジが必要だ。

私は次にあの女が包丁で襲って来た時に、いや、あの女が拳銃を持ち出しても勝てるだけの武の積み重ねをすることで、あの女を返り討ちにすることを心にちかった。

一つ気になるのはタイムリープ前の死ぬ寸前に何者かの声で「死なすには惜しい才能だ」と聞こえた気がするが、その存在Xが私をタイムリープさせてくれた存在なのかもしれない。

神か仏か悪魔かどんな存在かは知らないが感謝しておこう。


★~~~~★

彼女が死ぬ寸前、武の神は才能豊かな自身の末裔まつえいたる彼女の死をしんだ。

武に関しての才能は現世の今の時代では最強と言える彼女。

鍛えれば歴史に名を残すのではないかと思える才能を無くすのを惜しんだこの神は彼女の時間を巻き戻した。

しかも、記憶はそのままにである。

彼女はどう判断しどう動くのか、神すらも分からない。

しかし、神は知っている。

彼女の武に賭ける情熱を!!

★~~~~★


武神たけみはな、タイムリープした私の名前だ。

浮気した彼は今の時点で既に付き合っている。

小さい頃から一緒に居た、所謂いわゆる、幼馴染と言うヤツである。

浮気の原因は、私が武道に力を入れ彼をないがしろにしたことらしいが、言っていることが解らない。

ないがしろにしたって元々私は武道女子なので武道大好きで道場に通っていたが、彼が嫌がるので結婚前には全てを辞めていたのに浮気されたのだ。

まぁ実際は結婚前からあの女狐と密かに付き合っていて、結婚後もその関係が続いていたことは調べて証拠は上がっていたので私が武道に入れ込んでいた時期の事を指しているのであろう。

しかし、結婚前に彼から辞めてほしいと言われ全てを辞めた私にそれを言っても結婚後の浮気した理由にはならない。

タイムリープした今の現状では彼の言い分が正しいのかもしれないが、未来を知る私としてはもう彼の言い分を信じるほど浅はかではない。


「よし決めた、これは2度目の人生だ、今度はとことん武道を満喫しよう!!」


早速、私は現在通っている道場へ武道家として生きる為にどうすればいいかを相談することとした。

一番力を入れて通っている合気道の道場で聞くこととした。


「師匠、私、武道家になりたいのですが如何すればいいんですか?」

「お前は何時も唐突とうとつだな・・・それは強くなりたいと言う事か?」

「え~と・・・出来れば職業として武を極めたいと思っているのですが・・・」

「それは武道家ではなく格闘家と言う事になるな」

「格闘家?・・・どう違うのですか?」


師匠曰く、武道家は基本的な考え方として防御主体で、暴漢ぼうかん強盗ごうとうなどの実践じっせんにおいて如何いかに自分を守るか、相手を無力化するかを主体としていて、精神性や道徳と言った教育的な要素をふくむ生活に根差した武の道とのこと。

格闘家は闘技者として基本的に同じ土俵で戦う選手、つまりスポーツ選手の様なものらしい。

職業として金銭を稼ぐ目的とするなら格闘家となるが、線引きは中々に難しいらしく、武道家が格闘家であっても問題ないし、逆も同じとのこと。

そんな単純なことも知らないで今までやっていたことにつくづく自分にあきれた。


「格闘技をするにはどうすればいいですか?」

「格闘技と言っても色々あるが、それを職業としたいんだよな?」

「はい」


格闘技で有名になりたいのであればオリンピックを目指すというのも手らしいが、お金を稼ぐ、ファイトマネーが発生するもので稼げそうなものは限りがあるとのこと。

特に女子となると男性より稼げないと言われた。

とりあえず女性で稼げるものを教えてもらう事とした。


総合格闘技そうごうかくとうぎかプロレスかボクシングだな」

「総合格闘技・・・名前が良いですね!!」

「名前で決めるのもどうかと思うが、はなには合っていると思うぞ」

「それはどうしてですか?」

「お前は柔道、空手、それに合気道の3つの道場に通っているんだよな?」

「そうですね。後、古武術も独学ですけどかじってます」


柔道に関しては先生から「オリンピックを目指さないか?」と言われたが断った過去がある。

実際オリンピック強化選手と戦って普通に勝つので「勿体ない」と言われるが、寝技あまり好きではないんだよね~出来ない訳ではないが好きではない。

何故と言えばスッキリしないからだ。

投げて勝つのが気持ちいのである。

空手も「国際大会とか目指すか?」と言われたがピンと来なくて断っていた。

話がそれたな。

私向きと言うのは、色々な武道をかじっているので総合向きらしい。

そして、師匠の知り合いの総合格闘ジムを紹介してもらいそこに在籍することとなった。


代吾井かごい総合格闘ジム、私の恩師の紹介でこれから所属するジムである。

代吾井かごい剛志つよし会長が総合格闘技に魅了されて立ち上げたジムで、その業界内ではある意味有名なジムらしい。

まぁ世間一般的に言う弱小ジムなのだが、名前からヨワイ代吾井ジム等と言われる最底辺のジムである。


「紹介で来ました、武神たけみはなと言います。よろしくお願いします」

「おう、合川あいかわさんの紹介の子か、よろしくな」


言うのを忘れていた。

合気道の師匠は合川あいかわまもると言う。

師匠の紹介で今日よりこのジムに入門することとなりその挨拶に今来ている。


「大分出来るそうだな?」

「何がですか?」

「合気道、柔道、空手は道場に通っていて逸材だと聞いているが?」

「自分の事はよく解りませんが、武道全般が大好きです」


とりあえず実力を見たいと言う事で、ルール説明の後に男性の指導員とスパークリングをすることとなった。

総合格闘技、名前の如く総合何でもありなのである。

ただし、反則は勿論ある。

目突き等の目潰し行為が駄目とか頭突き、引掻ひっかき、等々の禁止事項はある程度把握はあくできた。

キックやパンチの打撃、投げ、関節、絞めなど肉体のみを使用した殆どの行為が許されている。

先生が言っていたが成る程私向きではあるなと納得した。


「じゃあ早速やるか、ゴング鳴らすからそれから好きにしてくれ」


「カァン」とゴングが鳴ったと同時に私は男性の指導員のふところに潜り込み顎にかする様なパンチを1発放った。

「ドサリ」と音がして指導員の男性は白目をき倒れて起き上がらない。

会長は一言もららした。


「嘘だろ・・・」


代吾井かごい剛志つよしは考える。

確かに合川合気道の先生さんからは逸材中の逸材と聞いていた。

しかしここまで凄いとは予想だにしなかった。

総合格闘技の指導員の男性は曲がりなりにもプロとしてリングに立つ者で、素人ではない。

うちのジムは弱小ではあるが1発のパンチで沈むような者は居ないはずである。

それを1発のパンチで意識を奪う女性・・・

その後、指導員を変えてパンチ以外も見せて貰うが、レベルが高いと言うか普通に世界狙えるんじゃないの?と言える程、彼女の技の切れや動きは常軌じょうきを逸していた。

逸材?・・・天才?・・・・・いや彼女を表すとすれば天才を超えた怪物だ。

これはうちのジムが躍進する契機となるかもしれない!!

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