SG4 小惑星からのメッセージ

星空 駆

飛来したもの

【デブリ接近】

第1話 衝突警報

この小説はSG4シリーズ第二弾となります。ここからでもお読みいただけるよう

書くつもりですが、第一弾との関連ストーリーも多く含まれますので、第一弾に

興味のある方は下記をご参照ください。

 第一弾「SG4 宇宙防衛隊 火星部隊 トロヤ・イーストの戦い」

https://kakuyomu.jp/works/16817330657096695773/episodes/16817330657096774424

登場人物の設定などは、第一弾の【付録】SG4 設定集にもあります。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657096695773/episodes/16817330666162864981


--------(以下 本編)-------------------------------------------------------------------------



「緊急警報! 緊急警報! 高速で何らかの宇宙デブリ接近中」

火星の宇宙ステーション<マーズ・ワン>に、

地上の指令本部基地の航空管制室からの警報が轟いた。


「<マーズ・ワン>との衝突コース! 宇宙デブリは一つのみ。

 推定、約1.7メートル。質量約六十キロ。 材質不明!」


「こちらマリー・クローデル。第一中隊第二分隊 四機で出ます!」


 その時、宇宙防衛隊の火星部隊(SG4)の第一中隊長

ケンイチ・カネムラは<マーズ・ワン>の副司令官室にいた。


 三ケ月半前にトロヤ・イーストでテロ事件が起きた起きた時、

ジェローム・ガルシア副司令官は、月で行われるSG方針会議に

参加するために出発したばかりだった。

 このため、あの時、現地で何が起こり、どの様に解決したのかを

詳しく知りたいとケンイチを呼び出していたのだ。


 副司令官室の壁の大モニターに、ステーション全体の映像が自動で映る。

<マーズ・ワン>のエアロックが開くと、白いパイロットスーツ姿の

第二分隊の四人が飛び出していく。

 リング状の宇宙ステーションのリング部の内側面に駐機していた

宇宙防衛機のマーズ・ファルコンに乗り込むのが見えた。


マリー、アレクセイ、ハリシャ、ダミアンの乗った四機が

次々に発進して迎撃ポイントへに向かっていく。


「なるほど、君の中隊のメンバーははさすが出撃も早いな」

 とガルシア副司令官が呟く。


ケンイチは腕の通信端末を叩くように押す。

「こちらケンイチ。ソジュン。第三分隊も出撃準備できるか?」


「ソジュンでーす。りょーかい。もうみんな待機室にいますよぉ。

 これからエアロックに入って、マーズ・ファルコンに乗機して待機する」


ほぼ同時に、別の通信も入って来た。

「こちら<マーズ・ワン>コントロール。こちらでもフォローできる

 ように迎撃準備をする」

<マーズ・ワン>の軌道調整などを行うコントロール室の、

トリスターノ・チェレッティーの声だ。


 宇宙防衛機での迎撃が失敗した時のために、<マーズ・ワン>からも、

ビーム砲で迎撃ができるように、リング状の宇宙ステーションの

中央にある宇宙港の上面と下面にはビーム砲を備えている。


「副司令官。念のため私も待機室に戻ります」

ケンイチはガルシア副司令官に言いながら、ヘルメットをかぶった。


「航空管制室が、デブリは一つだと言っておったではないか。

 君の中隊の第二、第三分隊の八機た出たら、もうそれで十分だろう」


「だから、です」


 ケンイチは副司令官室を出ると、ステップ・ムーバーを飛ばして、

パイロット待機室に急ぐ。

確かに推定質量六十キロのデブリたった一つなら、普通は第二分隊の

四機だけでも十分過ぎる。だが何かが引っ掛かった。


—— 材質不明ってことは、ミサイルの破片じゃない —— 


 隕石でも金属主体の物でも無いとしたら、何だと言うのだ。

今の時代、宇宙デブリ禁止法によって、投棄したゴミのような人工物が

飛来することは滅多にない。


—— 宇宙船が事故で爆発でもして、内装品か何か飛んできたか? ——


 パイロット待機室に入ると、すでにヴィルヘルム・ガーランド隊員が、

到着していた。少し髪の毛が乱れている。

三十分前ぐらいに当直交代してパイロット用休憩室に戻っていたので

一休みしていたに違いない。


「ヴィル。クリスはまだか」

ヴィルに質問している後ろから、クリスの声が聞こえた。

「ケンイチさん。今来ました」


 振り返ると、クリスティーン・ライムバッハーが濡れた髪にタオルを

巻いたまま待機室に入って来る。シャワーでも浴びていたのだろう。

今はフェルディナン・ンボマ隊員が育休中なので、第一分隊はこの三人

だけである。


「ああクリス。シャワー浴びてたのか。申し訳ないな。第一分隊は

 まだここで待機だから、休憩室に戻って髪を乾かしてきたらどうだ」


「大丈夫ですよ。この待機室のラバトリーにもドライヤー有りますから」

クリスはそう言って、ラバトリーに向かった。


 ケンイチは通信を指令本部基地の航空管制室につなぐ。

「こちらカネムラです。デブリが何なのかは、分かったんですか?」


「こちら航空管制室。まだだ。何か樹脂製の物ということしか分からん。

 もうすぐ、探査機の映像が取れる範囲に来るから待て」

「了解」


出撃した第二分隊から中隊内通信が入る。

「こちらマリーよ。ケンイチ聞こえる?」

「こちらケンイチ。ああ聞こえてる。もう待機室に戻った」


「いま、『樹脂製の物』って聞こえたけど、そんなデブリは珍しいわ」

「俺もそう思う。映像が届いてからでも迎撃は十分間に合うよな。

 レーダーに捕らえたら、照準だけ合わせて映像を見るまで待機だ」


「マリー了解」


「こちらケンイチ。第三分隊のソジュン聞こえるか? 念のために

 例のTNSコントローラーで、デブリ回収する用意もしたほうがいいな」


「ソジュン了解。俺っちだけ発進する。レオ、ジョン、シンイー、三人は

 このまま駐機したまま待機だ」


(注:TNSはトライアングル・ネット・システムの頭文字

   詳細はSG4シリーズ第一弾の付録の設定集を参照の事)

https://kakuyomu.jp/works/16817330657096695773/episodes/16817330666373997125


 パイロット待機室内の壁の大モニターにはソジュン・パク機が

<マーズ・ワン>から急発進するのが映った。


 その大モニターの前では、ヴィルヘルム・ガーランドが、

探査機からの映像を表示させようとして、別ウィンドゥを開いている。

まだ探査機の映像は受信前のようだ。


少し待った。


「もうすぐ映像が入ります!」とヴィル。

モニター画面は少しちらついたあと、デブリを自動ズームアップ表示した。

「中隊長。あれ何でしょう?」


—— 速い! ——


 白く反射する樹脂製のやわらかそうな袋に包まれたものが、

ぐるぐると激しく回転しながら高速で飛んでいる。


第二分隊の通信が聞こえる。

「こちらアレクセイ。マリーさんいつでも撃てます」

第二分隊アレクセイ・マスロフスキーの声だ

「アリョーシャ。まだ待って。あれが何か確認出来てからよ」とマリー。


 ケンイチは、ヴィルと並んで壁のモニターを凝視する。

すぐにラバトリーから出てきたクリスもそれに加わった。


指令本部基地の航空管制室は何も言ってこない。

まだ、あれが何なのか判断がつかないのだろう。


通信が入る。

「こちら<マーズ・ワン>コントロール。衝突まで二分を切った。

 第一中隊が撃たないなら、こちらで先に撃つぞ」


第二分隊の返信。

「第二分隊マリーです。もうちょっと待って下さい」


「おい。ハリシャ、ダミアン……」アレクセイの声だ。


 アレクセイはそれ以上は言わなかったが、壁のモニター映像には、

第二分隊のハリシャ・ネール機とダミアン・ファン・ハーレン機が、

上と下にすすっと動いて、<マーズ・ワン>の宇宙港のビーム砲の

射線を塞ぐ場所に移動した。


「こら! そこの二機、邪魔をするな。どけ!」


 パイロット待機室では、ケンイチがその動きを見て笑っていた。

<マーズ・ワン>コントロールのチェレッティーは血の気が多いから、

カンカンだろうが、隕石やデブリ防衛時の指揮権はこちらにある。


 ヴィルヘルム・ガーランドがモニターの映像をさらに拡大表示させる。

「ヴィル。何かが見える。スロー再生にしろ」とケンイチ。


 ヴィルが映像をスロー再生にして、デブリの映像をさらにアップにした。

「ここ見て!」クリスが叫んだ。


 樹脂製の袋の一部が破けて、何かが少しはみ出している。

ヴィルが映像を止めて、ストップモーションで少し戻し、拡大した。



明らかにが映っていた。




次回エピソード>「第2話 やわらかな棺(ひつぎ)」 へ続く


 





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