第49話

 ラボに到着すると、受け取るよう頼まれていた薬を求めて薬品班に出向いた。

 厳重なセキュリティを突破し、ゲンダのいる薬品室へ行くと相変わらず死んだ魚の目をした人間ばかり。黙々と作業を続けており、誰一人サツキを見ない。サツキが部屋に入ってきたことに気付いるだろうに、話しかけるなと言わんばかりに各自手を動かしている。

 ラボにある他部署へ赴いたことはないが、きっとここと同じようなのだろうと勝手に想像している。特に解剖班。


「ゲンダさん」


 サツキに背を向けて作業していたゲンダに向かい、声をかけると鬱陶しそうに振り向いた後、サツキと分かった瞬間表情を戻し、「あれですね」と言って奥の部屋へ入っていった。

 サツキでなかったならば鬱陶しそうな表情を隠しもせずに対応するのか。

 幹部の専属であると態度がころっと変わるのだな。


「サツキさん、ここが薬品班ですか」

「そう、薬品を作るところ」

「なんか態度悪い人らですね」


 こそっと聞こえない程度の声で耳打ちしてくる新人に頷くことで肯定する。

 薬品臭に慣れたタイミングでゲンダが戻って来た。

 黒い箱と白い箱を二つサツキの前に差し出した。


「黒い箱が脳機能を破壊する薬で、白い箱が廃人になる薬です」

「ありがとうございます」


 こんな薬を誰に飲ませるのだ、恐ろしい。

 品名を言っても理解できないサツキに、効能で薬の紹介をしてくれる。


「効果の報告は不要です」

「分かりました」

「ではサインを」


 パネルにサインを書き、箱二つを持って部屋を出る。

 壁も床も天井も、すべて白で統一されていて方向感覚が狂う。

 新人がいる手前、迷うことは絶対にしたくないので記憶を頼りになんとかラボを抜ける。


 車に乗り込み、グローブボックスに箱を入れる。


「本当にやばいですね。そんな薬初めて見ました」

「すぐに慣れるよ」

「飲み物に混ぜられそうですし、気をつけよう」


 警戒するのはいいことだ。

 腕時計を見ると、マルクを回収しに行かなければならない時間になっていたので急いで山奥から下りる。

 夕方とはいえ、まだ明るい。早く夜にならないかな、と小さく願いながら安全運転を心がける。


「運転手って銃を所持してないんですか?」

「私は持ってない。頼めば支給してくれるだろうけど、運転手如きに渡してくれるかは知らない」

「立場低いんですねー」

「まあ、替えがきくし何より特殊な仕事でもないし」

「ベレッタ92を持ちたいです」

「…詳しそうね」

「映画でよく出てくるやつですよ。警察や軍がよく使っている拳銃です」


 名前くらいは聞いたことがあるが、どんなものか知らない。

 映画はあまり見ないので、拳銃はマルクが常時持っているものの色や形をなんとなく知っているくらいだ。


「人を殺したいの?」

「そんなわけないですよー」

「拳銃が欲しいんでしょう?」

「護身用兼威嚇用ですよ。備えあれば患いなしと言うじゃないですか」


 ふむ、一理ある。

 人を殺したくはないが、何かあった時のために一つくらい持っておいた方がいいのかも。

 性能や構造について何も分からないので、マルクに聞いてみよう。

 初心者でも扱いやすいものがいいな。


 新人に感化され、自分が持つ銃を想像しながらマルクの迎えに行った

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