暗殺者LiE
窓際希望
第1話
辺りが暗闇に包まれ街灯だけが石畳をほんのりと暖める頃、1台の馬車が表通りを滑らかに進む。
巨大な屋敷へと向かう馬車の中には恰幅のいい男が一人。
男の名はテップス·ゴドフリー。
彼は最初、弱小な男爵家の次男でしかなかった。しかし長男が若くして病死し家督を継いだ彼は、そこから40年その手腕を余すことなく発揮した。
彼の功績により、大きく発展したゴドフリー家は莫大な資産を有する貴族となった。そして今、彼は王国内有数の貴族として強い発言力を持っている。
そんな彼を乗せた馬車は綺麗に整えられた庭を抜け、屋敷の玄関に着く。馬車から降りた彼を迎えたのは、メイド服に身を包んだ女性だった。
「お帰りなさいませ」
女性はそう言うと、綺麗なカーテシーをする。
テップスはそのメイドを一瞥すると“あとで寝室に来い”と声をかけ歩いていった。自慢の口髭を弄りながら歩く彼の顔には下卑た笑みが浮かんでいた。
歩き去る彼の背中を見つめるメイドの口角も僅かに上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
“コンコンコン”
ノックの音が鳴る。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入った彼女はチラリと部屋全体を見渡す。
豪華な家具や芸術品で飾られたその部屋はまさに成功した貴族の証であった。
今、その部屋は残された唯一の明かり―暖炉の火に照らされほんのりと輝いている。
そして、ベットの端に腰掛けるテップスがニヤリとした顔で彼女を舐め回すように見つめていた。
「こっちに来い」
テップスは自身の隣をポンポンと示しながら命じる。
「······はい」
僅かな躊躇のあと、静かに返事をしそっと腰を掛ける。
彼は手を伸ばすと、座る彼女の太ももをスカートの上からそっと撫でる。ピクリと肩を動かし目を瞑りながら俯く彼女を見ながらテップスは満足気に口角を上げる。
「――さい」
彼女が微かに呟く
「ん?」
「お止め、ください…」
そう言うと彼女は立ち上がろうと腰を浮かす。
「なんじゃと…やめろじゃと?」
メイドの肩をドンと押しベッドへと倒す。
「この屋敷では儂の命令は絶対じゃ。儂の命令に背こうというのか!」
彼女に覆いかぶさり、唾を飛ばしながら強く言う。
顔を横に向け視線を合わせようとしない彼女の頬をつかみ自身の方に向け、
「背けばどうなるか、分かって――」
彼の目が揺れた。強い眠気を感じ瞼が重たくなる。手足の力が抜け、バタンとベッドに崩れる。
薄れ行く意識の中、彼が最後に見たのは、スルリとベッドから抜け出し彼を見下ろすシニカルな笑みだった。
静かに眠る彼に彼女は毒針を刺す。
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