一粒の灯り(お題:ハロウィン)

天城らん

第1話 純白のドレスの乙女


 エヴァンゼリンは、待っていた。


 純白のドレスを身にまといながら、彼が来ることを……。



 ドレスは、今夜のために心をこめて縫ったもの。

 貴族の娘である彼女は、ドレスなど望めばいくらでもあつらえることができたが、これだけはどうしても自分の手で仕上げたかった。


 一年間、彼が迎えに来ることを待ちわびていた。

 いや、彼と出会った時からずっと『この日』が来ることを望んでいたのだ。


 暗がりに咲く可憐な薔薇に誘われ、色づいた木の葉が窓から一枚舞い込んだ。


 秋風が開け放たれた窓から入り、エヴァンゼリンの蜂蜜を流したような髪を優しく揺らした。

 遠くに見える家々にも、深夜だというのにオレンジ色の明かりが見える。


 今夜は、万聖節の前夜。


 ハロウィンだ。


 一年が終わり、新しい日が始まる。


 この日は、死者の霊や精霊がさまよい歩くと古くから言い伝えられていた。

 どの家々でも、魔よけのため窓や扉は閉じ、部屋もランタンで明かりを灯し続ける。


 しかし、エヴァンゼリンの部屋は真っ暗であった。

 窓も開け放たれている。

 彼女は、想い人を待っているからだ。



 

(ジェフリー、早く迎えに来て……)


 エヴァンゼリンは、胸元にあるアメジストのブローチを両手で包み込んだ。


 彼女は、人間であることを捨て彼と同じヴァンパイアになる。


 そう、心に決めていた。 


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