第2話 ハンターと鳳凰ギルド

見覚えのある相手ではあったが、流石に1000年前の記憶は薄い。弟は武林にいる時も心の依代にしていたから覚えていたけど...目の前にいる人は違う。

「ははっ。その様子だとやっぱ覚えてないんだね。」

笑いながらも少し残念そうに言った。

「まぁ座りなよ。」

相手はソファに座り、アタシにも座るよう促してきた。

「し、失礼...」

「まぁそんなに固くならないで!でもホントに覚えてないんだね。やっぱ武林転移者?」

「!」

驚きが隠せない。

「ど、どうしてその事を...?」

「まぁ僕もだからだよ。」

サラッと、目の前にいる人は言った。

「結構いるんだ。この世の中。でもまぁ帰ってきたばっかなら世界の情勢とか状況とかよく分かってないだろうからそれを説明したくて呼んだんだ。」

「そ、そうなのね...」

「ま、の前に僕のこと思い出して貰いたいからね。は記憶力がいいからこれで思い出してくれるかな?」

相手は手につけていた手袋を片方外した。

すると右手の甲に傷跡があった。まるで

「それ...まさか!アタシの付けた...」

「やっぱ思い出してくれたか。こんな手使いたくなかったけどね。でも優しい蓮なら思い出してくれると信じてたよ。」

そう言い手袋をつけ直した。

「朱一!ごめんなさい!その傷...まだ消えないのね...ホントに...」

朱一の手の甲にあった傷は正真正銘あたしの付けてしまった傷だ。

千...じゃなくて転移したのが13の時だからそこから4年前、初めて朱一と会った。確か隣に引っ越してきたから挨拶に来てたような気がする。それで父にうちに上がってと言われてリビングにいた。その時、朱一は獅音のことをバカにするような発言をした。それに腹が立ったアタシは怒りのあまり朱一を傷つけ近くにあった果物ナイフで手を刺してしまったのだ。

あまりにも酷い事だとは分かっている。

理不尽な事でサイテーで...でもその時はまるでアタシがアタシじゃないように感じた。きっとこれは言い訳なんだろうとは分かっている。自分の罪から逃れるための。

「ホントに...ホントにごめんなさい!!!」

アタシは深く頭を下げた。

「いいよ。僕にも非があったし。何よりそのことは昔にもう解決しただろ?僕ら親友なんだし!」

そう、アタシと朱一は親友。アタシにとってたった1人の親友。

「じゃあ僕のことを思い出してくれたようだし、世界の話をしようか。」

「そ、そういえばそう言ってたわね...」

「あぁ。蓮は“ゲート”が何か知ってるか?」

「え?あの...アタシを武林へ送った...」

「そう。それ。でも今世界にあるのはちょっと違うかな」

「待って!世界にあるって言った?!」

「うん。10年前の災害からゲートが世界中に出現するようになったんだ。そのゲートは“ダンジョン”と呼ばれるところに繋がっていて、中には“モンスター”と呼ばれる怪物がいるんだ。」

「怪物...」

「そしてそいつらは“マナ”を持っているんだ。ダンジョン自体にもマナが充満してる。そのマナの強さによってS〜F級までランクがわけられる。」

「そうなのね...でもそのゲートなんかあっても大丈夫なの?人を襲うなら危ないんじゃ...」

「そう。だからそんな被害が出ないようハンターがいるんだ。マナを持ち、属性を持ち、魔法を使い、固有スキルを使いダンジョンを攻略する。そしてダンジョンブレイクと呼ばれるモンスターがゲートの外に出ることを防ぎ、脅威から一般人を守るんだ。」

「それって凄く危ないんじゃない...?」

「危ないよ。ハンターの殉職者はあとを絶えないからね。でもそれだけ危なくても潜る価値があるんだ。」

「わざわざ命を危険に晒して?」

「モンスターは死ぬと魔石と言ってマナの宿った石を落とす。更にダンジョン内にも魔石が至る所に生成されている。その魔石は発電や魔剣などのマナの宿った装備、ポーションやマナの補填など幅広く使える。故に高く売れるんだ」

「結局...お金なのね。」

「まぁ人間だからね。でもそれだけじゃない。ハンターにもS〜F級まであって上になればなるほど強いし“ギルド”に加入することが出来れば効率よくダンジョン攻略が可能だ。」

「そのギルドって?」

「ハンターの集まりだよ。SかA級、企業などが開いたもので1つの会社みたいなもの。もしダンジョンブレイクとかのアクシデントが起きた時にもすぐ対処出来るしね。日本には結構ギルドはあるけど日本四大ギルドと呼ばれるギルドは<麒麟ギルド><青龍ギルド><玄武ギルド>そしてうちの<鳳凰ギルド>」

「ちょ、それって四神獣と四霊の名前じゃ...」

「ま、元ネタはそれだね。僕なんてあだ名か知らないけど朱雀って呼ばれてるし。」

なんか厨二病チックだと思ったのはアタシだけじゃないはず...まぁ下手に“ダークホール”みたいなの付けるよりは全然かっこいいけど。

「で、そのマナってのはみんな持っているものなの?」

「まぁだいたいね。ちなみに獅音君はうちのギルドの宣伝モデルをしてくれているハンターだね。」

「モデル?!獅音モデルしてるの?!」

アタシは朱一の肩を掴んだ。

「お、落ち着きなって!細かく言うと配信者。ダンジョン攻略の配信してるんだ。彼自身C級の結構強いハンターだからね。」

「結構って言い方何よ!あんたは何級よ!」

「S」

「1番上?それ」

「うん」

「チッ」

「いや舌打ちしないで?」

「で、話は終わり?」

「うん。今日のとこはね。また呼ぶかも。」

「そ、そう。てかずっと言いたかったのだけどそのモノクル何よ!オシャレしちゃって!」

「右目だけ視力悪いんだよ!コンタクト苦手だからこれしてるんだ!そっちこそその無駄に長い髪どうにかしたらどうなんだ!」

「帰ったばっかなんだから仕方ないでしょ!」

「そういえばこれ。プレゼント」

「何これスマホ?」

「必要だろ?とりあえず電話帳とLEINレインには僕と獅音君の電話番号入れといたからね」

「ありがと!助かる!」

そう言いスマホを受け取った。

「そろそろ時間だね」

腕時計を見るとそう言いイヤホンか何かからどこかに連絡をとっている。

「紅鳥を呼んだからそろそろ帰りな。獅音君ももう予定終わってるだろうし。」

「獅音が?!待たせる訳には行かないわね!じゃ!」

勢いよく席を立つと

「ちょ!紅鳥が来るまで帰れないって。」

ポーン

「お呼びですかマスター」

エレベーターから黒服の女性が出てきた。

「ちょうど良かった。蓮を1階まで送ってくれ。」

「承知しました。では白藤様、お乗り下さい。」

「分かりました。じゃあね!朱一!」

「あぁ。またな!」


────────

蓮が帰った。

(10年...か。って事は少なくとも1000年以上は武林にいたということか)

地球での1年は武林での100年。

10年前の大災害、初めてのダンジョンブレイクの時、実は武林に送られていたのは蓮だけじゃなかった。

多くの人が送られた。殆どが地球へ戻ってきた。

3年前、武林で孤挺花こていかと呼ばれる男に殺された。本人は白紫藤しらしふじだ!とは言っていたが。

(そういえば蓮、俺を殺した孤挺花こていかに似ていたような...)

そんな感じもしたが気にしないことにした。

(知らぬが仏というものもあるのか)

そう納得させて。

───────────────

「白藤様、着きました」

「ありがとうございます!」

外に出ると獅音が居た。

「あ!兄ちゃん!話し終わった?」

「終わったわよ!」

「じゃ、今から美容室行こっか!」

「え?どうしてよ?」

「いやその髪長すぎて邪魔じゃない?だから切った方がいいかなって」

「獅音がそう思ってるならそうするわ。」

「それダメじゃない?まぁいっか。俺の行きつけだしいいとこだよ!」

そう話しながら車に乗り込んだ。



───────────────

「お!兄ちゃん似合ってんじゃん!」

獅音が褒めてくれた。この髪型絶対キープする。

(でも結構切られたわね〜刈り上げまでされたし。)

「にしても兄ちゃんの黒髪綺麗だなぁ。俺金髪だから」

アタシを見ながらちょっと悲しそうに言う。

「そう?アタシは獅音の髪が羨ましいわ。」

「そう?」

「えぇ。じゃあ帰ろうか。」

「そうだね!」

「でもお金はどうするの?こういうとこだし結構するんじゃ...」

「大丈夫!朱一さんから借りたこのカードならなんでも買っていいって言われてるから!」

そう言い黒いカードを出した。

(まぁ朱一ならいっか)


──────────────────

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