第三章 物語は動き出す
3-1
そうして駆ける足音が玉座の間に響かなくなった頃。
黄金の声は大きな声で泣いた。泣き叫んだ。
悔しさを、悲しみを、嘆きを。
魔王の玉座の間で、一人ぽつんと冷たい床に蹲って咽び泣いた。
使命を果たしたことに後悔はない。
けれど、黄金の剣は知っていた。
魔王の元へと向かうため城内を歩いていると一つの中庭があった。
その中庭には色とりどりの花たちが季節も地域も関係なく美しく鮮やかに咲き誇っている。
あのとき、三人がそれぞれ好きだと言った花たちが自慢げに花びらを開かせていた。
植物など枯れ木くらいしかないこの魔王の森で、魔王はこの花たちを咲かせるために一体どれだけの努力をしたのだろうか。
黄金の剣は知っていた。
勇者は旅路の途中、様々な人間たちと出会い色々なことを知っていくうちに、使命とはまた別の意志を持ってしまったことを。
また三人で同じものを分かち合い、笑い合いたい。と望んでいたことを。
黄金の剣は悲愴に哀絶に慟哭した。
魔王と勇者、そして赤髪の弓使いとの旅の日々を想い涙を流し続けた。
三人の中で一番優しかった魔王が作った中庭。
勇者が灰色の空を眺めながらぽつりと零した言葉。
人間嫌いの人間である赤髪の弓使いと共に過ごした日々。
それらを、想い、愛し、黄金の剣は泣いていた。
一体どれだけ経っただろうか。
泣き続けても涙は枯れず、想いも消えず。
黄金の剣は立ち上がった。
勇者は言っていた。
「この世界の終わりを人間は繰り返すだろう」
魔王は言っていた。
「これは道導にすぎない」
黄金の剣は天を睨みつけ、玉座の間の中心で下肢をつく。
両手の指を絡ませ、祈る。
もう二度と、この悲劇を繰り返してはならない。 だから、せめて。
――「勇者」は人間に。「魔王」には仲間を。
黄金の剣はその想いを天に祈り続ける。
体力がなくなり、人の形がとれなくなっても、剣の姿で祈り続ける。
それは時にして、一体、何年、何十年、何百年のことだったろうか。
そして黄金の剣はとうとう意識が薄れゆく。
それでも黄金の剣は意識を失う最後まで、絶対の意志を持って祈り続けたのである。
果たして、あの祈りは正解だったのだろうか――?
山を勢いで登り、頂上に辿り着くと、当然のように黄金の剣が刺さっている。
イリーは理由もわからず涙が出た。
あの男は赤髪の弓使いだ。 イル・アスターだ。
このイリーが分からないわけがない。
なぜ、いるんだ。
君は人間だっただろう。 あれから、何年経ったと思っている?
千年だ。 人間は、千年も生きられない。 それどころか十分の一も生きられない。
それなのに、なぜ、存在している?
なぜ、なんで、なんで。
魔王さまの従者イリー ありこれ @arikore
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