第381話 刻まれた新たな歴史


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 両チームが蹴って誰もまだ成功者がいない、滅多に無いケースのPK戦となり1本の重みは増していくばかりだ。


 立見、牙裏も残すところは5番目のキッカーのみ。


『此処国立競技場で異常事態が起きています!なんと両チーム合わせて8人が蹴っても成功無し!我々は新たな高校サッカーの伝説、歴史を目撃する証人になるかもしれません!』


『最後まで0ー0って両チームのGKが神がかっているとはいえ、こんなPK戦は見た事無いですよ!』


『この状況で立見、5人目のキッカーは…神明寺だ!去年国立で伝説を作った彼はどんなキックを見せてくれるのか!?』


『神明寺君ですか…彼は前回のPK戦で外してますから、苦い記憶を払拭出来るかどうかですね』


 ボールをセットする弥一、国立で彼に注目する観客が四方八方から声援を送って来ていた。


 八重葉の時以来となるPKの場面、出来ることなら此処まで来る前に勝利を確定させるのが望ましかった。いや、それ以前に1点を取ってPK戦に突入させない事が最も理想だったはずだ。


「(日本の高校来てなかったらこういうの…多分経験してなかったかな)」


 目の前の五郎を見据えたまま弥一は振り返る、自分の経験した中でこんな場面は小学校時代の柳FC、留学時代のミランでも遭遇しなかった。


 日本に帰ってきてから2度のPK戦を経験、1度目は敗北を味わい2度目はどうなるのかという今、流石に連敗はしたくない。

 此処で負けたら本当にPKが苦手になってしまう。


「(もう、やってやる。今自分が出来る最高のキック…これが効かなかったらしょうがないって諦める)」


 今乗っている五郎を突破する為に蹴るキック、それを成功させない限り道は開かない。


 逃げ場など何処にも無い、道を自分で切り拓く為に弥一は意を決した。



 弥一はどんなキックを見せるのか、一度失敗している過去を振りきれるのかと様々な注目が集まる中だった。




 ボールから離れず弥一はそのまま助走無しで右足のキックを放つ。


「!?」


 弥一のその蹴る姿、春樹は驚愕する。一瞬見えた気がしたからだ。

 彼が憧れ崇拝する人物が。



「っ!」


 いきなり助走せず右足で蹴ったボール、ゴールの右上隅へと向かい五郎は一瞬反応が遅れてダイブ。懸命に左腕を目一杯伸ばす。


 五郎の指先が僅かにボールを掠め、球はゴールポストに当たる。


 ボールはポストに当たりながらもゴールへと入り、中のサイドネットへと突き刺さり揺らしていた。


 ついに決まった1本、国立競技場に大歓声が降り注ぐ。


「決まった…やったぁぁーー!!!」


 初めてPKを成功させた弥一はその場で飛び上がって大はしゃぎ。


「うおお弥一ぃぃー!!」


「でかしたぁー!!」


 大はしゃぎしたまま戻った弥一に立見の仲間達は祝福。



『決めてきた神明寺ー!過去の失敗を乗り越えてこの1本を成功させたぁー!!』


『助走無しで相当ギリギリのコースでしたねこれ!流石に三好君もこれは取れそうに無いですが、一歩間違えれば外れるリスクも大きかったはず…この土壇場、大舞台でこれを蹴れるとは…』



「っ…くそぅ!!」


 此処まで止め続けてきた五郎、何で今のを止められなかったんだと倒れながらフィールドを右拳で叩きつけ、悔しさを見せる。


 決められはしたが、まだ負けが確定してはいない。まだ牙裏も5人目が残っているのだ。


 この窮地を救えるかどうか、狼騎がゴールへと向かって歩きだしていた。



『牙裏、5人目のキッカーは酒井!大門がこれを止めれば立見の優勝で2連覇!酒井が決めればサドンデス突入です!』


「(あいつが決めて俺が外す…無ぇよ、絶対決めてやる!)」


 ギラッと狼が獲物を狙うような目で大門を、ゴールを睨みつける。

 だが大門も狼騎の鋭い眼光に怯まず真っ向から見据えていた。


「(何時も、弥一に助けられ続けてきた。いなかったら俺は此処までやれてなかったかもしれない…)」


 振り返ってみれば弥一には練習に付き合ってもらったり、緊張を解してくれたりと試合だけでなく色々と助けてもらい続けていた。


 その弥一が辛い重圧の中で決めてくれた1本、これを守って今度は自分が弥一を、立見を助ける番だ。


「(来い…!此処まで来たら何がなんでも止める!!)」


 大門が身構え、狼騎は助走を取った。



 雪が降る中で再び静まり返る国立競技場、全員が固唾をのんでPKを見守る。


 助走を取った狼騎がスタートして走ると、迷う事なく左足を振り抜きゴールど真ん中へと弾丸のような勢いでボールは飛ばされた。


「っ!?」


 大門は右へと飛んでしまっていた、狼騎がど真ん中に放り込むとは思っておらず此処に来て読みを間違える。



 だが、それでも諦めず咄嗟に伸ばす。


 大門の左足、彼のスパイクへと狼騎の放ったボールは当たっていた。


 当たったボールは弾かれて上へと向かい、ゴールバーにガンッと当たって跳ね返り転がっていく。


 転がった先はゴールから離れていた、つまり狼騎のキック失敗を意味する。


「あ…」


 一瞬何が起きたのか、大門は理解が追いついてなかった。

 だが聞こえてきた割れんばかりの大歓声、審判のPK失敗を下すジャッジ。


 脳に理解が及ぶと大門は立ち上がり叫ぶ。



「止めたぞぉぉーーーー!!!!」


「だ……大門ーー!!」


「うおおおーー!!」


 力の限り吠える大門に向かって弥一が、そして立見のチームメイト達が走って駆け寄って行った。



『止めたぁぁーー!牙裏PK失敗により1本を守りきった立見が選手権連覇ーー!壮絶なPK戦を乗り越えた!!またしても高校サッカーの歴史に残るであろう試合を見せてくれました!』



 立見の選手達やベンチ、応援席と皆が連覇に大喜びして歓喜の輪を作っていた。



「大門ー!マジでブラボー!いや、Bravissimoだよー!」


「何だよそれー!?」


「ブラボーよりもっと素晴らしいって事!」


 弥一からイタリア語での褒め言葉が思わず飛び出しつつ、大門を中心に皆が優勝に喜んでいた。

 一度負けたPK戦を乗り越えての優勝、去年とはまた違う嬉しさだ。



「勝った!勝った!立見勝ったよー!」


 応援席の皆が喜びを爆発させ、歓喜の輪の中に輝咲も居て喜び合っていた。



「うおおー!達郎!流石ワシの孫…!う、あたたた…!」


「爺さん!ほら、言わんこっちゃない…湿布貼り直しますから寝て寝て」


 孫が活躍して優勝し、自宅で喜んでいた重三は思わず腰を痛めてしまう。それに立江が重三を寝かせて湿布の用意をしつつも孫の優勝を嬉しく思い静かに祝福していた。





「(俺、初めてだよ!シュートを止めててこんな幸せで嬉しいって思ったのは!)」


 自らの力で今回立見を優勝へと導いた大門、これまで数々のシュートを止めてきたが今日ほどシュートを止めてこんな嬉しいと感じたのは初めて。


 皆が喜び合う中、大門は喜びの涙を流していた。




 表彰式が行われ、準優勝の牙裏は敗戦のショックもあって喜びは一切無い。その後で優勝の立見に優勝旗の授与、これは代表してキャプテンの間宮が受け取る。

 そして優勝カップの方は大門が受け取る事となった。


 大門はいいと言ったが弥一から「今日のヒーローがそれ受け取らなきゃ駄目だよー!」と言われたり、他のメンバーからの後押しもあって彼が手にする。



 立見の高校サッカー選手権2連覇、此処にまた新たな歴史は刻み込まれていくのだった。



 立見0ー0牙裏

 PK 1ー0



 2回戦 東豪 3ー0


 3回戦 桃城 10ー0


 準々決勝 鳥井第一 7ー0


 準決勝 最神 2ー0


 決勝 牙裏 0ー0(PK1ー0)



 優勝 立見高校


 得点22 失点0


 大会得点王 酒井狼騎(牙裏学園)


 大会最優秀選手 緑山明(立見高校)




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 此処まで見ていただきありがとうございます。


 立見と牙裏お疲れ様!と思ってくれたり、この作品を応援したいとなったら作品フォロー、☆評価ボタンをポチッと推して応援してくれると凄く嬉しくて力となってくれます。



 大門「今回俺、目立って良いのかな?優勝カップまで受け取っちゃって…」


 弥一「良いでしょ、GKがヒーローになっても♪日本のGK人気を此処から高めて子供達に取り合いしてもらおうよー♪」


 優也「確かにFW、MFと前線の花形ポジションが人気だな。それ思うとこの2年くらいで弥一や大門が活躍したのは…少し影響あるかもな」


 弥一「まあとにかくお祝いお祝いー♪2連覇達成のパーティーと行こうー!」

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