第380話 極限のプレッシャーに挑み戦う勇者達


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 選手権優勝、全国の頂点を決めるPK戦は影山、正二と1番手を務めたが共に両チームのGKによって防がれてどちらも失敗。


 これから2番手へと入り、立見は2人目のキッカーがゴールを守る五郎と対峙する。


『立見2人目は緑山だ!テクニックだけでなくシュート力も兼ね備えている、此処で決めて先行なるか!?』


 明はこの場に立つだけでドクンドクンと心臓が高鳴っていくのを感じた。

 緊張はどうしてもしてしまう。


 大舞台で初めてのPK戦、緊張しない訳が無い。


「(決める、さっきみたいな失敗はもう…!)」


 ボールから離れ、短く助走を取ると走り右足で球を飛ばす。


 ゴール左へと飛ぶコース、思いきり蹴った事でスピードが出ているが五郎も読んでいたか同じ方向へと飛んでいる。


 触れるか、ゴールか。答えはどちらでもなかった。


 無情にもボールはゴールの左ポストへと当たって跳ね返り、明の方へと返ってきて失敗。


『あー!ポスト!緑山思い切ったシュートでしたがゴールポスト直撃だー!』


『この失敗は大きいですね、また牙裏のチャンスですよ!』


「っ…!」


 PK失敗、五郎が拳を握り締めて喜び牙裏の面々も喜ぶ中で明は顔が青ざめる。


 立見の方へと力なく歩いて戻り、小声で「すいません…すいません…」と泣きそうな顔で何度も謝っていた。


 まだ負けていない、大丈夫と氷神兄弟が明に声をかけて励まし、立浪がベンチコートを羽織らせる中で牙裏の2人目が出て来る。



『牙裏、2人目はDFの但馬だ!再び巡ってきたリードのチャンスを物に出来るか!?』


 PK戦は初めてではないせいか、但馬は落ち着いた顔で大門と見合っている。


 大門は堂々と構え、前を見据えた。


 助走を取った但馬。ゆっくりとした走りから一気に加速し、右足のキックでゴール右下へと転がした。


 これに大門はそのコースへと飛んでおり、倒れ込みながら但馬の転がしたボールをキャッチ。


『止めたぁぁー!大門完璧に止めて牙裏失敗!まだ1本も決まらない!とんでもないPKになってきました!!』


「よぉぉし!!」


「良いよー!大門ー!!」


「凄ぇぞー!お前が主役!お前が大将だー!」


 シュートを止めて大門は喜び、弥一と間宮も揃って喜べばそれぞれ大門へと称賛の声を送る。


 但馬は決められず、肩を落としたまま牙裏の方へと引き上げて行く。



『立見、3人目は川田だ、立見随一のパワーシューターが此処で登場!』


 続いて立見から登場した川田、緊張気味でボールをセットしている。

 どちらも未だ成功無し、そろそろ此処で負の流れを断ち切らなければならない。


「(もっちゃんのパワーなら…ゴロちゃんが反応したとしても弾ききれなくて力で奪える可能性あるはず!)」


 弥一は1番ゴールが奪える可能性があるとしたら川田だと考えていた、彼のフルパワーによるシュートなら五郎の手を弾き飛ばして成功だと。


 先行しておかなければ牙裏が何時決めてリードされるか分からない、場合によっては弥一がキッカーを迎える時はリードされて迎えるパターンもあるだろう。


 出来ることなら先行して精神的優位に立ちたい、祈る思いで川田のPKを弥一は見守る。


 身構える五郎に対して川田はかなり長い助走、まるで得意のロングスローを投げる時を思わせるような距離だ。


 川田は走り込んで勢いをつけると、左足に渾身の力を込めて振り抜く。

 繰り出された球が剛球と化して勢いよくゴール正面、上の方へと浮き上がって飛ぶ。


 真正面の剛球に五郎は飛び上がり、上へと伸びていくボールを両腕のパンチングで当てる。

 力あるボールはこれによってコースが変わるとゴールバーへと当たって跳ね返り、川田のPKも失敗した。


『あー!バーに当たった!なんと川田も失敗だー!!』


『これは、三好君触れてますね!彼の腕に当たってそれでバーに当たってます!』


 一瞬の事で分からず、川田がバーに当ててしまったとなってたがリプレイの映像を見れば五郎のビッグセーブだと分かった。


「やった!やったー!!」


「五郎すげぇぇー!!」


「良いぞ牙裏の守護神ー!!」


 川田のPKを止めて五郎は両手を上げて喜び、牙裏の方も大喜びだ。


「何で…畜生…!」


 今のが何で決まらないんだと川田は悔しそうな顔をしたまま引き上げて行く。


「(嘘…!?今のでやったと思ったら…!)」


 今のは決まったと思った弥一、川田で決まらず自身にプレッシャーがかかってくる。


『牙裏、3人目はキャプテン登場!佐竹が来ました!3度目の正直でリードを奪えるか!?』


「(あんだけ五郎が止めてんだ、1本ぐらい決めなきゃ悪いだろ!)」


 強い決意と共に佐竹はボールをセット、キャプテンとしての責任を果たそうとしていた。


「(大丈夫だ、どんなに悪い流れになっても…決められなくても…俺が止める!)」


 再びゴールに立つ大門、相手が守り続けるなら自分も守り続ける。

 劣勢の中で彼は落ち着き、集中する。


 助走から佐竹は力ある右足のキックで狙い、ゴール左へと飛ばした。


 これを読んだ大門、ダイブと共に右手1本で佐竹のシュートを弾き出す。


『止めたぁぁーー!!大門なんと3本続けてストップ!未だ成功者0!なんというPK戦だーー!!』




「うおお!止めた!見ろ婆さん!達郎がまたやったぞ!!」


 腰を痛めて家で療養している重三、孫の活躍をテレビで見て興奮。国立のスタンドによる叫びがテレビでも充分聞こえていた。


「爺さん、興奮するとまた腰を悪くしますよ」


 重三の興奮も分からないでもない、立江も孫の晴れ姿を見られて嬉しいのだから。


「行けぇ!此処まで来たら何者も通さぬ男になってこい達郎!!」


 重三が見つめる先にはシュートを止めて立見の応援席へと両手を上げて喜ぶ孫の姿が映る。




『此処まで合わせて6人が蹴って成功者無し!後半のキッカーにより大きなプレッシャーがかかってしまう事でしょう、立見4人目のキッカーは歳児だ!』


 まだ1本も入っていない、先行が取れていないまま難しい状況で出番が回ってきた優也。だが彼は冷静にボールをセットすれば真っ直ぐゴールを見据えている。


 立見は祈り見守る、大事な時に彼なら決めてくれると信じて。


 助走を取り、走り出すと正確に右足でボールを捉えてゴール右上へと狙って飛ばす。


 だがまたしても五郎が素早い反応で飛び付くと、懸命に伸ばした左腕。その掌がボールへと触れて弾く。


『止めたぁぁーー!!立見4人目も決まらない!なんという1年GKだ三好ー!』



「ゴロちゃん最高ー!!もう凄い!凄いよー!」


「や、やった!優勝ある…!?あるよね!?」


 スタンドで共に大興奮の中で喜び合う愛奈と千尋、その先にいる五郎は飛び上がって喜んでいた。



『牙裏、4人目は天宮!此処で決めれば勝利に一気に近づくぞ!』


「(PKまでスコアレスが続くなんて…こんなの僕の知る限り初めてだよ…)」


 ボールをセットすればふぅ、と息をつく春樹。大舞台に何度も立った経験を持つ彼も此処までのプレッシャーは初めてだ。


 五郎のセーブに応える為にも、牙裏勝利に向けて春樹は助走を取って走る。


 そして右足でゴール左隅へと狙って蹴った、狙い通りの方向へとボールは向かい捉えていく。


「だああ!!」


 気合いと共に大門は同じ方向へとダイブ、隅への難しいボールに対して目一杯右手を伸ばす。


 恵まれた体格による長いリーチ、それがボールへと触れる事を可能として右掌で弾き出した。



『またしても止めた大門ー!!三好に負けじと4本連続セーブ!なんなんだこのPKはー!?』


『5人目まで来てまだ成功無しですか!?こんなPK戦初めてですよ!』


「うおおっしゃぁー!!」


 春樹のPKを阻止した大門、雪の降る空へと向かって猛々しく吠える。




「(なんというPK…!こんな成功者無しが続くPKは知らない…)」


 スタンドから見守るマッテオ、自分の知る限り此処までのPKは体験した事も見た事も無い。

 おそらくキッカーもGKも極限のプレッシャーを背負っている事だろう。


「(私が現役の時でもこのPKは蹴る自信が無い…これを蹴られて立ち向かえる彼らは勇者だ)」





「す、すげぇぇ大門ー!」


「こんな事あんのかマジでー!?」


 立見の面々は大門のビッグセーブ連発に興奮、そんな中で弥一にラスト5番手。出番の時が来る。




「(やっばぃなぁ…!)」


 最大のプレッシャーが重くのしかかる場面、以前敗れた夏以来の重圧が弥一に迫ろうとしていた。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます。


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 幸「あー!見てられない見てられないー!」


「せ、せんせえ…目が回る〜」幸に胸倉掴まれてガクガク揺らされている立見サッカー部員

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