第366話 天才の最後の意地
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『八重葉、後半に入って2点に点差が開き苦しい展開となってきました。早めに1点を返そうと猛攻に出る!』
八重葉が押される展開、一部でざわつきが場内で起こり牙裏応援サイドは押せ押せムードで応援に熱が入る。
リードされている八重葉にとっては悪い流れ、それを断ち切ろうと牙裏ゴールを目指して突き進む。
『右サイド、八重葉の笹塚が進む…立石、壁パス!中央へと折り返して中村だ!』
華麗な技と連携で繋ぎ、ゴール前チャンスとなる。
中村がシュートを放つがボールは五郎が真正面でキャッチ。
今度はすぐには出さず五郎は6秒ギリギリまで待って、八重葉の猛攻でバタつき気味のチームを落ち着かせようとしていた。
五郎が近くの但馬へとボールを出せば春樹へと渡し、佐竹へと速いパスが向かう。
「(させるかよこの野郎!)」
だが快足を飛ばし、死角から月城が現れてパスをこの位置でカット。
「ディレイ!ディレイ!」
戻りながら春樹は相手のカウンターを遅らせる意図で叫ぶ。
八重葉も此処で攻撃を遅れさせられないと、一気に前線へボールを運びに行っていた。
『牙裏、ピンチを脱したかと思えば八重葉がすぐに奪い返し再び防戦!八重葉はチャンスを作り続ける!』
『2点差がつきましたが八重葉、動きが良いですよ。今流れは白い軍団の方にありますね』
左サイドから月城が上がり、左足で高いボールを上げれば長身の笠松が頭で合わせてヘディング。
ゴールを捉えていたがまたしても五郎がセーブし、手の中にボールを収めていた。
「防ぎまくってるなぁゴロちゃん」
「あー…それ牙裏のGKで間違いないよな?」
熱戦が繰り広げられる試合をスタンドから見守る中、饅頭を食べる弥一から五郎のあだ名が言葉として出て来る。
「八重葉を相手に良いセーブを見せているけど、GKがそれだけ出番があるという事はピンチでもあるからな」
同じGKとして五郎のセービングは良いなと見ていた大門、同時に今の牙裏は危ないだろうと見ている。
実際後半に入り八重葉のシュートはもう2桁を超える程に撃っており、スコア的には劣勢だが勢いは今リードされている八重葉にあった。
この状況なら遅かれ早かれ1点が入る、皆がそう思う中で弥一は牙裏のゴールマウスを守る五郎に注目していた。
「(攻め込まれてるけど、何か笑ってる…だとしたら八重葉にとってむしろ不味いかも)」
攻め込まれて出番が多い中で五郎の顔には笑みがある、弥一が考えている事が当たってるとしたら流れの中で得点。
そのセオリーが通じない相手なのかもしれない。
「はっ…はっ…はぁ…」
後半も相当動き回った月城、だが彼のスタミナも無尽蔵とは行かず此処に、来て運動量が落ちてきていた。
真冬にも関わらず汗が滴り落ちて息切れも起こしている。
「(くそっ…攻めてるのに、点が取れねぇ…!なんなんだあの小せぇGKは!)」
何度かクロスを上げたり自らもゴールを狙っていた。
だがいずれも牙裏の守備陣に阻まれたり五郎に防がれたと無限ループに近い状況が続く。
特に五郎には何本も取られたりと月城は嫌なGKだと思ってしまう。
同じ頃、八重葉のベンチでは月城はそろそろ限界だと彼の動きを見ていて思った監督、交代の準備を進めるよう指示を出す。
だが動き始めたのは八重葉だけではない、牙裏も同時に交代準備へと入っていた。
『八重葉が動くようですよ、2番の月城君が下がるようです』
『あー、月城下がりますか。前半から動き回り八重葉の攻守を支えていた要の2年ですが運動量が落ちてきてましたからね』
『それと牙裏の方も動きがあって21番の風見君が準備を進めています』
後半の頭からは交代が無かった正二、八重葉が攻め込んで月城の体力が落ちたタイミングを狙ったかのような交代だ。
左サイドの若松に代わり、正二が入れば先輩の若松から頼むなと肩を叩かれて正二はフィールドへと立つ。
「佐竹先輩、皆さん。伝令っす、右を多く使って行くようにって」
「右…ああ」
正二からの伝令に佐竹は理解する、自分達から見て右には月城が立ち塞がっていて本来は厄介なサイド。
だがベンチからその指示があったという事は月城が機能停止に追い込まれたのだと。
今なら右から崩せるチャンスだ。
「なら正二…」
「…え?マジすか?」
「大マジ、行って来い」
そこに春樹は正二へと何やらボソボソと耳打ちして伝える。
『牙裏、丸岡のスローインから再開し佐竹へ。っと佐竹右へと出した!』
「!(あいつ左じゃないのかよ!)」
右サイドを走る選手が見えるとゴール前へと戻る政宗は驚いてしまう。
本来なら左サイドのプレーヤーであるはずの正二が右サイドを走っていたのだ。
それは月城がやったトリックプレーのお返しであり、佐竹から出された速いボールを正二は右サイドのラインギリギリでトラップ。
「やろ…!?」
月城が自らの足で飛ばし、追いかけようとするが彼の足は鉛のように重く感じてガクッとフィールドに片膝をついてしまう。
正二としてはこのままクロスと行きたい所だが、このまま蹴っては何時もと違う右足で精度は落ちてくる。狙いとしては切り返して中央に左足で折り返しだ。
しかしそうはさせんと政宗が正二に迫る。
その姿が見えて切り返しの余裕が無いと判断した正二は右足でゴール前へと蹴った。
「(あ!ミスった…!)」
低いボールが蹴られたがそれはGK小林のへ向かっている。
取れると小林はキャッチする構え。
だがそこに狼は飛び出していた。
マークする佐助の後ろに居たかと思えばクロスボールにいち早く反応、すぐにトップスピードへと乗って走り勢いのままに飛び込んで右足を伸ばす。
小林の前に狼騎の右足、スパイクの爪先がボールに当たればコースは変わり、ゴールの方へと吸い込まれて入った。
『酒井飛び込んだー!3点目!なんというダッシュ力!小林がボールを取る前に押し込んでしまった!!牙裏これで八重葉相手に3点差と勝利に大きく近づいたぁー!』
『あれに追いつきますか…!信じられない反射神経と瞬発力ですね彼は…』
「(すげぇ…あれミスキックだったのに)酒井先輩ナイスゴールー!」
まさかあれがアシストに繋がるとは、正二もビックリしつつ狼騎へと近づきナイスゴールと伝える。
「…ヘタクソだけど悪くねぇボールだった」
「あ、え…ど、どうも?(褒められてんのかこれ?)」
狼騎に睨まれて怒られると思った正二だったが、悪くないボールと言われて戸惑っていた。
月城は此処で交代、攻守の要が去る中で八重葉は諦めずに攻め続ける。
「うぉっ!?」
中盤で照皇と空中戦で競り合う佐竹だが、パワーと高さで勝つ照皇が佐竹を跳ね飛ばして競り勝つ。
「(流石天才ストライカーか、パワー自慢の佐竹を吹っ飛ばすなんてね…けど)」
ボールが溢れてセカンドボールを八重葉が拾い、中村がダイレクトで照皇へと返すがこれを読んでいた春樹。
『天宮インターセプト!照皇にボールを持たせない!』
「(人間苦しい時こそ一番強い奴に依存しがちなもんさ)」
苦しい時こそのエース、それが天才と呼ばれる程の存在なら尚更頼りたくなる。
今の八重葉がまさにそれだ。
春樹は照皇にボールを渡さないよう此処で徹底マークを行う。
「(このまま終わるのか、何も出来ないまま…!)」
終了時間は迫っている、3ー0と3点差をつけられて八重葉の中にはもう駄目だと心が折れる選手も出て来ていた。
だが照皇はこのまま終わるのを良しとせず、最後まで足掻こうと走り続ける。
弥一や立見が待つ決勝、高校最後の大会で彼と戦う事を望む照皇。
此処で終わってたまるかとDFラインでボールを持つ丸岡へと全速力で向かっていた。
「わっ…!?」
丸岡は目の前に鬼のような形相で迫る照皇に怯むとボールを出すのが遅れてしまう、その隙を突いて照皇が丸岡から奪取に成功。
『奪った照皇!これはチャンス!津川を躱して牙裏ゴールに迫る!』
「!不味い、戻れ!!」
照皇の執念、それが予期せぬボール奪取へと繋がってしまい、今から自分のマークは間に合わぬと春樹はDFへと叫ぶ。
ボールを大きく蹴り出し、自ら走り追い付くスピード重視のドリブルで照皇はボールと共に走る。
「(行かすか!)」
そこに守りの要である但馬も迫り、照皇を止めに行っていた。
照皇は右足を振り上げシュートに行く。
だがこれはフェイント、切り返して但馬を躱そうとするがキックフェイントは但馬も読んでいる。
照皇の進行方向に再び立ち塞がった。
この時に照皇は左足をボールに当てようとしていた、但馬はこれもフェイントだという読み。
照皇は右利き、左で撃たれたとしてもそこまでのシュートは無理だと見ている。
「!?」
次の瞬間、但馬の表情が驚愕に染まる。
『撃った照皇!強烈な左ー!』
但馬の右を抜く照皇の左足のシュート、予想に反してグンと伸びて勢いに乗ればゴール右へと向かい飛んで行った。
これに五郎がダイブし、両腕に当てればシュートは弾かれてボールは転がる。
弾いた球に渡辺が拾いに行くとその前に笠松が迫った。
「撃てー!!」
照皇の雄叫びに後押しされるかのように笠松が右足でこぼれ球をシュート。
これで1点返す。
そう思われた時、ゴール上へと飛んだ笠松のシュートを五郎が両手で弾き飛ばす。
ボールはゴールバーの上を超えてゴールならずだ。
『止めたぁー!照皇のシュートに続き笠松のシュートまで連続セーブ!!牙裏の小さな守護神、三好が反撃の1点を許しません!』
「五郎ナイスセーブー!」
「よく守ったぞー!」
五郎のスーパーセーブの連続、それに救われた牙裏の先輩達が喜び感謝の言葉が出ていた。
「(ふう…照皇の執念にやられる所だった、五郎いなかったら危なかったな…)」
まだ諦めない照皇の底知れぬ闘志、そこからのピンチにヒヤッとした。
八重葉の天才はやはり厄介な存在と感じつつこの危機を救った五郎に春樹は彼へと近づき労う。
セットプレーのチャンスも集中した牙裏の守備陣がこれを防ぎ、時間はアディショナルタイム。
もう時間はない、照皇が春樹とのデュエルに入り争いながらも最後に照皇は遠めから強引にシュートを撃つ。
最後に五郎がそれをしっかりとキャッチした瞬間、試合終了の笛は鳴った。
『試合終了ー!八重葉決勝進出ならず、牙裏が選手権決勝へと初めて進み立見との決勝戦が決まりました!』
八重葉が決勝に行けず途中で敗退するのは何時以来か、それぐらいに久々となる敗北。
牙裏の選手達が勝利して歓喜の輪を作る一方で八重葉の選手達は崩れ落ちてしまう。
ベンチで項垂れて泣く月城、泣き喚く政宗を慰めつつ自らも涙を流す佐助。
決勝に行けず敗退してしまった事に皆が悔いを残していた。
そんな中で気丈に振る舞う照皇、一人一人へと声をかけて立たせるキャプテンとしての姿を見せる。
「(照さん…無理しちゃって…)」
この中で唯一、弥一のみが彼の心を知っていた。だがその事は誰にも言うつもりは無い。
「終わっちまった…!畜生…!」
先にロッカールームへと戻りそのまま洗面所へと向かい鏡と向かい合った照皇、その瞬間に負けた悔しさ、弥一と決着をつける事が出来なかった思いが表に出てくる。
誰も知らぬ1人静かな所で照皇は涙するのだった。
牙裏3ー0八重葉
酒井2
天宮1
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弥一「サイコフットボール1周年ーーー!」派手にクラッカーをパーンと一気に鳴らし
摩央「どわぁ!」
大門「や、やっぱり盛大だな…1周年となると」
弥一「加えて150万PV達成もあるからねー、めでたいめでたい♪」
優也「とうとう1年か…来たんだなついに」
摩央「どっかでサボるとかあるかと思ったけど、毎日投稿ホントにやっちまうとは」
大門「見てもらう力はやっぱり凄いなぁ」
弥一「100万PVの時も企画やったけど今回は…何をしようか思いつかないのでコメントで何を企画してほしいか募集しよっか♪」
摩央「思いつかないから他力本願かよ」
弥一「という訳でコメントお待ちしてます♪出来そうだったら採用されて実行するかもなので♪」
大門「改めまして多くの方々に見ていただき感謝します」
優也「おかげで俺達は此処まで来れたし、応援の力は本当に凄いなと心底感じた」
摩央「1周年まで続けられたけど、この先もまた応援してくれるとありがたいです」
弥一「1周年は迎えたけどサイコフットボールはまだまだ続きまーす、これからの展開もお楽しみにね♪」
此処まで見ていただきありがとうございます。
1周年おめでとう!と思ってくれたりこの作品を応援したいとなったら作品フォロー、☆評価ボタンをポチッと押してくれると凄く嬉しいです。
改めましてサイコフットボール 〜天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!〜 は1周年を迎えました、沢山の方々に見ていただき感謝です!
物語は続きますのでお楽しみに!
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