第15章 2度目の選手権

第341話 冬に向けての合同練習


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










「っ!」


「行かせるかっての優也ぁ!」


 幼馴染2人によるデュエル、優也のキープするボールへと足を伸ばし取ろうとする冬夜に対してライン際で球を死守していく。


「おー、あそこバッチバチだねー」


「よそ見すんな神明寺!早く撃って来いー!」


「はいはい、今蹴りますよーっと!」


 FKを蹴ろうとしている弥一、優也と冬夜の2人がフィールドで繰り広げる真剣勝負を見ている所にゴール前で構える高山から早く蹴って来いと要求される。


 リクエストに応えて弥一は高山の守るゴールへと左足のインフロントでボールを捉え、回転をかけて蹴る。


 人の壁を越えてゴール左隅にカーブをかけたシュートが飛べば高山がそこに飛び、長い腕を伸ばすがボールは更に曲がり、ゴール左かと思えば弥一の狙いは最初から右。


 ボールは右へと命が宿っているように曲がって、高山のリーチを掻い潜りゴール右へと入って行った。


「くっそぉ、相変わらず滅茶苦茶な曲げ方しやがる…!」


「いやー高山さん反応良かったですよー、慣れたら取られますねー♪」


 弥一の超バナナシュートを取れなかった高山は悔しさを見せ、ゴールマウスから離れると次のGKがその前で立つと身構える。


 弥一のFK練習とGK練習を兼ねたトレーニングだ。



 今日立見は桜王学園まで足を運び、彼らと選手権に向けて合同練習をしている。


 桜王は決勝で立見に負けて今年の選手権に出る事は出来ない。

 来年の新たな1年に向けて、立見は選手権に備えて、それぞれ目的は違えど強豪同士の滅多に無い2校による練習だ。



「(桜王は女子マネージャー多いなぁ、あの子とかスタイル良いしレベルたっか!)」


 立見のマネージャーとして鞠奈は選手と共に桜王まで同行し、合同で桜王の女子とタオルやドリンクの用意などで忙しく動く。



「うお!?ちょ、パススピード速ぇって!」


「え、立見じゃこれ普通ですよー?」


「ねー」


 氷神兄弟が桜王の選手と組んでパスを回して動くと、桜王の部員が彼らの出すパスの速さに驚いていた。


 シュート並の速さで蹴られてトラップ出来ず、速いと注意するが立見じゃこれが当たり前と双子は共に首を傾げる。


 立見のサッカー部は高速で撃ち出されるサッカーマシンのスピードに慣れており、氷神兄弟みたいなシュート並の速いパスが来てもトラップ出来たりダイレクトで繋いだりする事が可能。


「うお!?」


 驚くのはパスのみならず、ぶつかり合いの時に相手の選手が翔馬を吹き飛ばそうと強めのショルダーチャージを仕掛けるが、ぶつかった瞬間スルリといなされてしまう。


 マシントレーニングを行いフィジカルを強化している桜王、その選手との激突を体格で劣るはずの翔馬が制していたのを見れば周囲が驚いてしまう。

 これも日々の合気道による稽古のおかげだった。


「あんな弾丸パスを捌けたり、こっちの当たりを躱せたりと…普段どんなトレーニングしてんだあいつら?」


 全国的に見ればあまりいないかもしれない、高額のサッカーマシンによるトレーニングと合気道。

 これらを真っ直ぐ取り組み当たり前のように練習してきた結果、他校の名門サッカー部を驚かせる程に地力を付けていた。


「いやはや…立見の選手達には驚かされる、緑山さんとんでもないチームを育てましたね」


「 いえ、私が就任する前から彼らはあれぐらい強かったので…大した事は何もしてません」


 監督同士の会話で薫から謙遜するような言葉が出る、薫からすればそういう事はなく事実を言っているだけだ。


 立見の練習スタイルは彼女が来る前から既に出来上がっていた、そこに薫は現役時代の経験を活かし試合前後のケアについて指導したぐらいだがおかげで厳しい総体の日程も乗り越えたと言える。


 極力疲れを残さない方法、これが無ければまた違っていたかもしれない。



「(あ、もうこんなん出来てるんだな)」


 スマホを摩央は操作し、チェックしているとSNSのタイムラインで高校サッカー選手権のPR動画がアップされているのを発見。


 公式で作られたもので動画だけでなくテレビの方でもCMで流れる予定だそうだ。


 動画を見てみれば前回の選手権の試合が流れ、室に照皇といったストライカー達が得点を決めるゴールシーンが次々と出て来る。その中で立見の得点シーンもあり、ラストは弥一が八重葉戦で決めた今や伝説となっているゴール。


 動画は此処まで。


「(やっぱ今年は王者として、挑むんだなぁ)」


 選手権も総体もタイトルを獲得、高校の2大タイトルを取っている立見。

 もう彼らはチャレンジャーではなく迎え撃つ王者だ。



「ねえねえー、この辺り何か美味しいオススメのご飯知らないー?」


「え?あー、飯だったら近くの弁当屋で済ませてるかなぁ」


「それか少し歩いた所に美味い醤油ラーメンの店あったりとか…」


 その王者の中心に立つであろう弥一、彼は桜王の付近に何か美味い店は無いかと選手達へと聞き込みをしていた。


 何も知らなければ彼が高校サッカー王者の一員だとは誰も思いそうに無いだろう。



「よし、じゃあ練習終わった後にラーメン行こうー♪」


「え、ええ?立見って特に厳しい食事制限とかしてないのか?」


「流石に大会中は制限あるけどね、それ以外は好きに食べるからー。まあ制限の中でも美味しいの結構あるからね♪豚丼とかお好み焼きとかカレーライスにー…」


 大会以外で食事制限は特に無い、それは何より弥一が耐え切れない。食が彼のモチベーションを支える。

 そういう考えなんだなぁと桜王の部員達は弥一の言葉を参考にしていく。




「っはぁ!疲れたぁ〜…」


「やっぱりおまえとのデュエルは骨が折れる…」


 優也と冬夜は共にフィールドで座り込んでいた。


 攻守交代で繰り返しのデュエルを行ったり走り合ったりと、存分に競い合った後だ。


「つか何時の間に優也そこまで守備上手くなったんだよ、前線でそれが大事とはいえ技術上げすぎだろ」


「そこはスパルタなコーチのおかげだな、守備に妥協が一切無い」


「あ、そういう事…」


 優也の視線がラーメン食べに行こうと話す弥一へ向き、その視線に気付いた冬夜は納得する。



「そういや牙裏の事はもう知ってるか?」


「聞いてる、10ー0で決勝を制したのはネットでもちょっとした騒ぎになったからな」


 牙裏の岐阜予選決勝、大差での結果に一気にレベルアップか?とか今回優勝候補筆頭だ、等と様々な声が上がっている。


「俺も驚いた、まさか正二まで牙裏サッカー部で今の一員として活躍とはな」


「正二?1年の風見か?」


「ああ、あいつ俺の一個下の従兄弟でさ。俺のやる事よく真似する奴だったんだよ、俺が走ってるの見て陸上始めたりボール蹴ってるの見てサッカー始めたりと…まあ格好良いと思ったから自分も、て感じだろうよ」


「そいつ、速くて上手かったのか?」


「足は速かった覚えあるけどサッカーはどうだったかな…今の牙裏で活躍してんの見れば相当力を付けたのはわかるけど、しかしあのお調子者がねぇ」


 牙裏の風見が冬夜の従兄弟、これは優也も知らなかった。


 冬夜に足が速いと言わせる程ならば相当速い、そう思って間違い無いだろう。


「前回の総体では見かけなかったはず、という事はその後に頭角を現した訳か」


 優也の記憶では夏の大会では出ていなかった1年、彼のようにいきなり伸びてきて現れるケースもあって選手権では未知の相手が出て来る可能性が充分考えられる。


 去年はおそらく自分達がそういう存在だったのかもしれない。


「ま、俺ら倒して東京代表なってんだから勝って来いよ」


「言われなくてもそうする」


 幼馴染からのエールを受け取り、静かに優也は選手権へと向けて優勝を誓う。

 やるからには誰にも負けるつもりなど無い事は皆同じ、それは全国大会に出て来る全員がそうだろう。






「じゃ、お先でーす♪」


 合同練習が終わり、弥一は部員からオススメされたラーメン屋に空かせたお腹を満たそうと歩き、桜王学園の正門を抜けて大通りへと出て来た。



「弥一君!」


「…あれ?」


 そこに信号待ちの車から自分を呼ぶ声がして、弥一は足を止めて赤い車の方へと目を向ける。


 運転席に座る男性、その姿に覚えはある。



 神山太一。


 勝也の兄と予想外の久々となる再会だった。





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 詩音「あれー?神明寺先輩はー?」


 玲音「練習終わったからラーメン屋行きたがってたからお供しようと思ったのにー」


 半蔵「1人ですぐ帰って行ったぞ」


 明「ラーメン待ち切れなかったみたいだ…」

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