第336話 東京と岐阜、それぞれの予選


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 高校サッカー選手権、岐阜予選の3回戦。牙裏は東洋林(とうようはやし)学園との試合に臨む。


 3回戦まで勝ち進み応援に来る観客や生徒は増えて来て1回戦や2回戦の時よりも会場は活気があった。


「牙裏GO!GO!牙裏ファイトー!」


 チアガールによる華のある応援、これが男子達のやる気を漲らせてくれる。



「あ〜、やっぱチアは良いわー。可愛い子達に応援してもらえると張り切れるし格好良い所見せればワンチャンお付き合いとか…」


「出来ると…いいね」


 正二の目はチラチラとチアガールの方へと向いている、アップ中というのもあるのに加えてじぃっと見続けるのは駄目だと思いチラ見を繰り返していた。


 そんな友人の姿に五郎は苦笑しながら話に付き合うしかない。


 この日も五郎は控え、変わらずゴールマウスには加納が立つ。正二も何時も通りスタートはベンチからだ。


 1回戦、2回戦と違うのはこの試合から狼騎がベンチに入っているという事ぐらいだった。

 流石に3回戦まで来ると相手も手強くなり、万が一があり得るので今回狼騎を控えさせておく。



 試合が始まれば相手の東洋林が上手くパスを繋ぎ、攻撃のリズムを作ると左サイドへと展開。


 牙裏の丸岡が相手のサイドハーフと競り合う中で相手は強引にクロスボールを蹴って牙裏ゴール前へと放り込んで来た。


 低いボールとなるがこれは但馬が飛び込んでダイビングヘッドでクリア。


「(3回戦まで来ると敵も良い動きをしてくるか)此処集中なー!」


 クリアボールを拾い、前へと送った後に春樹は手をパンパンと叩きチームに集中するよう促す。


「(ま、歯ごたえある相手の方が試合勘取り戻しやすいから歓迎するけど!)」


 より手強いならそれを食って自らの糧に、経験値へと変える。

 春樹はニヤリと笑みを浮かべて相手チームを観察していた。


 全国大会を万全で迎える踏み台にする為に。



 前半22分、東洋林の猛攻を凌いだ牙裏が攻勢に出て行く。

 佐竹がドリブルで中央突破、そこに上がっていた春樹がフォローし佐竹とのワンツーで東洋林の守備陣を振り回す。


 前線のFWの動きに向こうは警戒するが、佐竹はそのまま出さずに自ら右足でシュートを撃っていった。


 剛球と化したパワーシュートが東洋林のゴールへと迫り、相手GKのダイブは一歩及ばずゴール左上へと豪快に突き刺さり牙裏が先制に成功。


 これでペースを掴めば更に攻める牙裏、エリア内へとラストパスに反応したFW高柳を思わずユニフォームの袖を思い切り掴んで倒してしまった東洋林。


 審判の笛が鳴ってPKの判定、これをキャプテンの佐竹自ら決めてこの日2点目をマークする。



「おーし、行ってくっかぁー!」


 後半には正二が出場し、左サイドを中心に動き回り攻守で貢献。


 後半19分には左から抜け出した正二によるグラウンダーのクロスを高柳が右足ボレーで合わせ、決定的な3点目のゴールをアシストした。



「(まだ狼騎が出なくても行けるか3回戦)」


 プレーが途切れたタイミングで春樹はベンチに控える狼騎の姿を見る。


 この試合も興味無さそうな様子であり、今回も狼の獲物としてはお気に召さないようだった。



 試合はこのまま3ー0で終了、牙裏は準々決勝進出を果たす。


 牙裏3ー0東洋林


 佐竹2

 高柳1





 同じ頃、東京の方でも選手権予選3回戦が行われる。


 会場は予選の3回戦にも関わらず入り切らない程の観客で埋まり、立見の試合はそれだけ多くの人を惹きつけていた。


 一体今日は何点取れるのか、無失点記録で注目されていたがいつの間にか攻撃でどれぐらい取るか人々は立見にそういった目を向ける。



「今年の立見は守備に加えて攻撃もとてつもない、だが隙は必ずあるはず。守備で粘り強くチャンスを待つんだ」


 相手の華西(はなにし)高校の監督は試合前のミーティングで改めて選手達へと作戦を伝える。

 守備固め、立見が前がかりに来るだろうと読んでカウンター狙いでこの試合は行くようだ。



「サイドの氷神兄弟、中央の緑山に注意だぞ!」


 この3人の動きを特に警戒し、徹底マークにかかる。

 華西の守備陣はそれぞれコクンと頷いた。




 立見と華西の試合が開始されると作戦通り、明と詩音、玲音の3人にそれぞれマークが付いて立見の攻撃を封じ込めに入る。


「カチッと固めて来たなぁ…」


「こっちー」


 翔馬がボールを持つと、そこに弥一がパスを要求。送られたパスを左足でトン、と浮かせるとそのまま左足で右サイド前方へと狙って思い切りボールを蹴っていった。


 右サイドには詩音が居るが、マークはされている状態だ。


「(大きい、外だな)」


 流石の弥一も焦ってパスミスをした、そう思ってラインを割るであろうボールに詩音をマークするDFは見送る。



 だが出ると思われたボールは急に曲がりを見せ、カーブしていくと何時の間にか右サイドを詩音に代わり上がっていた田村がこのボールを受ける。


「(嘘だ!?完全に出ると思ったのに!)」


 見送ってしまった相手DFが驚く間も無く、田村はドリブルで右サイドを突き進む。前線の1年に警戒するあまり田村への意識が薄れていたようだ。


 ゴール前、得意の右足で高いクロスを上げればそこに待つのは192cmの長身FW半蔵。


 いくら地上を固めようが空中戦となれば半蔵の領域、相手DFより高く飛べば高角度から前をしっかり向いた姿勢でヘディングを叩きつける。


「うお!?」


 跳ね上がって向かうボールにGKは腕を出すが、体には掠りもせずゴールネットへと入れば立見が守備固めの相手からあっさりと先制に成功していた。


「く…!」


 先制ゴールを決めた半蔵へと集まる立見の選手達、その隣で予定外の早い失点に悔しさを見せる華西。



 するといつの間にか弥一が華西の選手達の側に立っており、彼らは急に現れた小柄な存在にぎょっと驚く。


「うちが先制しちゃったけど、まだ粘りの守備で固まり続ける?どっちでも良いよー、このまま1ー0で逃げ切ってもぼくらの勝ちだし♪」


「…!」


 弥一は10ー0で勝とうが1ー0で勝とうがどっちでも構わない、失点無しで勝てればそれで良い。


 相手が攻めずに守備を固めるなら無駄に攻撃でスタミナを使う必要など無い、既にリードを奪った今立見が優位なのだから。


 監督からは粘り強く守備を固めてチャンスを待つよう言われている、だったら弥一の言葉に惑わされず作戦を続けるのみだ。

 弥一に何も言わず彼らはキックオフの準備を進める。



「(続行か、でも…迷ってるのバレてるよ)」


 彼らの心は既に迷いが生じている、それは心が読める弥一のみが把握していた。



「てぇー!」


「くっ!」


 先制して詩音が勢い良く相手へと詰め寄り、ボールキープする相手へとボールを奪いに行く。

 奪われんと華西のDMFはパスの出す場所を探ろうとした時、更に半蔵も寄って来る姿が見えれば大柄な彼による圧に押されたか、ボールを弾いてしまいタッチラインを割る。


 判定は立見ボールとなり、何でだよ!と納得する間もなくスローインを投げる選手が向かっていた。



「もっちゃーん、派手にぶん投げちゃってー!」


 弥一がそう声を掛ける先には立見の人間発射台、その異名を持つ川田がボールを両手に持つ。


「ぶん投げるっつってるぞ…!?」


「氷神兄弟…は高さ的に無理があるから、やっぱ石田か。後は緑山がミドル持ってるからその辺り気を付けようぜ」


「おう」


 華西の選手達はヒソヒソと話し合い、こう来るだろうと作戦会議を行い半蔵と明へのロングスローに警戒する。


 川田得意のロングスロー、助走を取り投げる体勢を整えていた。



「どらあぁぁーー!!」


 気合の雄叫びと共に川田はロングスローを放り投げる、勢い良くボールが放たれて向かった場所は半蔵じゃなければ明でもなかった。



 いつの間にそこに居たのか華西の選手達は誰も気付かなかった。

 ゴール前、スルスルと上がっていた影山が送られてきたロングスローに対してフリーの状態で左足のダイレクトボレーを撃つ。


 GKが懸命にダイブするも届かず、再びゴールネットは揺らされた。



 立見の人間発射台からシャドウボランチ、立見が誇るダブルボランチの活躍で追加点が生まれる。


「ナイススロー川田!」


「影山先輩もナイスゴールー!」



 守備固めで臨んだはずが前半で早くも2失点目、華西の空気は重い物へと変わりつつあった。


「これ…このままチャンス待っていいのか…?」


「失点重ねてズルズル引き離されるだけになりそうだぞこれ…!」


「攻めるべき、だよな…?」


 このまま守備を固めていたら逆効果、この作戦は駄目なんじゃないかと思えてくる。

 どちらにしろゴールを決めなければサッカーは勝てない、そしてスコアは2ー0。


 攻めるしか手は無い。だがそれを見透かすように声を上げる者が居た。


「さあー、此処で相手さん出て来るよー!しっかり守ってこうねー♪」


 まさに攻めに出ようとした時、弥一の周りに攻めを警戒するよう明るい笑顔で伝える声に華西はギクッとなった。


「お、落ち着け。たまたま言い当てただけだろ…いちいちあいつの言葉に惑わされるなよ…!」


「分かってるよ…お前こそ声震わせてんじゃねーか…!」



 もはや彼らは掌の上で踊らされていた、心が読める彼によって。




 この2点で完全な立見ペースとなり、プレーに迷いが生じて中途半端となった華西に止める術はなく、明や氷神兄弟が此処から躍動すれば彼らを中心に攻撃は一気に機能。


 攻撃で相手を引っ掻き回しまくり、気付けば前半で華西は5失点。


 此処から立て直そう、頑張って最後まで行こうという監督の声も効果は皆無。それをかき消す勢いで立見は更に得点を重ね、試合はもう決まっていた。



「(何をどうしたらこいつら止まるんだよー!?)」


 倒れ込んだまま華西の選手は頭を抱える、それは監督の方も同じで皆が同じように心で絶叫してしまう。



 結局この試合も2桁得点、立見の無失点記録を止めるよりも攻撃をどう止めれば良いのか各チームに求められる結果となった。



 立見12ー0華西


 石田4

 詩音3

 玲音3

 影山1

 歳児1





 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます!


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 想真「派手にやっとんなぁ立見、牙裏目立たんやろこれ。章の主役掻っ攫ってるやないか」


 室「2桁得点って、うち最多得点で7が精一杯なんだけど!?」


 月城「力の差あってもそんなもんだろ、今の立見が異常なだけだ」


 想真「去年の八重葉もそんぐらいやってたとちゃうんか?」


 月城「2桁はまあ、あったけど今の立見ほど多くねーよ」


 室「つまり照皇さんそれだけ多く取ってるんだなぁ…僕も頑張ろ」

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