第312話 彼女の家にて


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。









「着いたよ、此処が僕の家だ」


 輝咲と共に彼女の家の前までやって来た弥一、一戸建ての趣ある家を見上げる中で胸の高鳴りは収まらないままだった。


 これが友達の家とかならば緊張は無いが付き合っている彼女の家となると色々緊張はしてしまう、マイペースな弥一といえど例外ではない。


「さ、入ろうか」


「あ…うん」


 輝咲に手を引かれて弥一は笹川家の家へと上がらせてもらう。


「おかえりなさい輝咲ー、あら。その子が弥一君?」


「ただいま、そうだよ。昔家に遊びに来てたあの弥一君だよ」


 玄関で2人を出迎えたのは紫色のセミロングヘアーで背の高い女性だ、おそらく輝咲ぐらいあるかもしれない。


 魅力的な女性で美女と言うに相応しい容姿をしている。


「弥一君、この人が僕の母だよ。昔家に遊びに来た時会ってるけど覚えてないかな?」


「えーと……あ」


 弥一は記憶の糸を手繰り寄せていくと、幼い頃に合気道の道場で輝咲と仲良くしていた頃を思い出す。

 彼女に合気道を教えてもらい親しくなった繋がりから家に遊びに行った事もあった、その時に目の前の女性と会っている。


「輝咲の母、紗英(さえ)です。昔よく私の料理食べに来てくれてたよね弥一ちゃん♪」


 紗英は弥一へと優しく微笑んだ、彼女の母だが20代でも通じるぐらいに若々しい。


「あ…お久しぶりです紗英さん」


「あら、昔みたいにおばさんとは言わないの?」


 昔の自分は目の前の女性にそう呼んでいたようで紗英の方は覚えていた。


 魅力的なこの女性を前にそう呼ぶような無礼は出来ず、弥一は昔と違う呼び方をする。


 身長差あってすぐ前には豊かに実った胸が見え、弥一はまともに見れず頬を赤らめつつなるべく顔の方を見るよう見上げていた。


「弥一君、母さんに見惚れてない?」


 輝咲に言われて弥一は首をブンブンと横に振る、気の所為か輝咲の目は少し鋭いように弥一には見えてしまう。


「じゃあ母さん、僕は弥一君と部屋で勉強するから」


「うん、ああ弥一ちゃん。夕飯は一緒に食べてく?弥一ちゃん居るなら張り切って作るから♪」


「あ、じゃあ…ご馳走になります」


 今日は母の涼香は会社で仕事の為に弥一は家に帰っても1人、夕飯は自分で調達の予定だったが久々に紗英の美味しい手料理が食べられるとなり、断る理由は特に無かった。



 輝咲の案内で2階へと上がり部屋の中に入ると輝咲はそこで勉強の用意を進めていく。


「さっきの教室では皆が寄って来て集中出来なかったからね、夕飯までみっちりと勉強しようか」


「あはは、お手柔らかに〜…」


 逃れられたと思った勉強に再び捕まってしまう弥一に逃げる事は許されない、輝咲にそう言われれば断れず勉強するしか選択は残されていなかった。



 誰も邪魔されない空間で弥一は輝咲に勉強を見てもらい、何時しか集中して打ち込み進んで行く。

 時間は刻一刻と経過していくと玄関から新たに声が聞こえた。


「ただいまぁ〜」


「あ、父さん帰って来た。いつの間にかこんな時間か」


 輝咲は声で誰なのかすぐ分かった、父親が帰って来たんだと分かればスマホの時計を見れば時刻は6時半を過ぎている。


「そろそろ夕飯も近いだろうし今日はこれくらいにしておこう」


「あ〜終わった〜」


 今日の勉強から解放された弥一は仰向けに床へと倒れ解放感に浸る。


 それも束の間、すぐに起き上がれば輝咲と共に下へと降りてリビングへと出れば40代ぐらいの黒髪短髪の男性がスーツのネクタイを外す姿が見えた。


 この男性も身長が高く180は確実に超えていると思われる、彼が輝咲の父親だろう。

 笹川家の人間は皆身長が高いらしい。


「やあ、弥一君久しぶりだな!」


「おじさんご無沙汰してます♪」


 父親が軽く右手を上げて挨拶すれば弥一は頭を下げた。


 紗英の事を思い出すと共に弥一は輝咲の父親も思い出す。


 確か道哉(みちや)という名前で仕事は会社員だったはずだ、今もそうだとするなら仕事が終わってこうして家に帰って来たのだろう。


 道哉がスーツから着替えて再びリビングへと姿を見せれば夕飯の時間を迎え、弥一は笹川家で夕飯を共に過ごす。


 今日のメニューはビーフシチューがメインであり白米とトマトサラダが共に並べられていた。


「美味しい〜♡天国〜♡」


 勉強の後に待っていたビーフシチューを味わうとまろやかでコクのある旨味が食欲を唆る香りと共に伝わり、柔らかな牛肉の美味しさを引き立たせていた。


 ご飯との相性も当然抜群であり弥一は早くも幸せの世界へと羽ばたく。


「まあまあ、相変わらず弥一ちゃんは美味しそうに食べるわね〜。作り甲斐があるわ♪」


「紗英の料理は美味いからね、弥一君がそうなるのは分かるとも」


 道哉はビール缶を開けて仕事終わりの一杯を楽しみ、紗英は自分の食事を幸せと言ってくれる弥一を嬉しそうに見ていた。


「(そういえば、輝咲ちゃんと付き合っている事…きちんと伝えた方が良いよね)」


 両親2人が居る前、こそこそ隠れて内緒で付き合うより認められて堂々と付き合う方が良いだろうと弥一は食事しつつもこれについて言おうと決めた。



 そして食事が終わったタイミングで弥一から切り出した。


「あの、実は…僕達2人お付き合いさせてもらってます」


 道哉、紗英の前で弥一は輝咲と付き合っている事を打ち明ける。



「あ、うん。もう知ってるよそれ」


「え?」


 聞かされた道哉の方は特に驚いた様子は見せず、あっさり言われた弥一の方がカウンターを喰らったように驚いてしまう。


「勇気を出して打ち明けてくれてありがたいけどね弥一君…もう僕から既に伝えたんだそれ」


「聞かされた時は驚いたわぁ、この子もついにそういう相手と出会えたんだって」


 事前に輝咲から付き合っている事を打ち明けられており、弥一が伝えるまでもなく2人ともとっくに知っていた。



「小さい頃遊びに来ていた弥一君が輝咲と付き合う、まあ僕もそれは驚いたさ。それ以上に驚いたのは合気道の道場に通っていた君がサッカーの方で有名になっていた事だけどね」


「サッカーの事はあんまり分からないけど、弥一ちゃんが凄いっていうのは伝わったわ。大会で優勝したり記事になってインタビューに答えたりもしてたの見たしね」


 2人からすれば弥一はサッカーよりも合気道の道場に通っていた娘の友達、その印象が強かった。


 そんな彼が成長して娘と付き合う、最初に輝咲から聞いてなければ両親2人は共に驚いていた事だろう。



「改めて聞くけど輝咲は…彼と共に歩いて行くんだな?」


「うん、そのつもり」


 道哉の目線を真っ直ぐ見返して迷いなく輝咲は答える。それに道哉は小さく頷くと改めて弥一と向き合う。


「娘がこう言ってるから僕からは何も言わない、君達2人の歩く道が幸せで満ちている事を願うだけだ」


 2人が共に歩く事を道哉は止めない、父親として娘達が歩くこれからの道が幸せである事。


 それを祈るのみである。


 弥一はこれに輝咲と不幸な道は絶対歩かない事を道哉と紗英へと誓った。

 必ず幸せな道を歩くと。



「ああ、弥一ちゃん」


「はい」


 紗英からも何か言葉があるのかとそちらへ視線が向くと紗英は弥一の耳元へと近づく。



「孫の顔は早めに見せてね♪」


「!?」


「母さん!」


 耳元で言われた言葉に弥一は顔を赤くし、輝咲も同じ反応。


 道哉だけは遠くて言葉がよく聞こえず何を聞いたんだと1人だけ分からなかった。



 勉強から両親への挨拶と1日はあっという間に終わっていく。





 ーーーーーーーーーーーーーーー



 弥一「輝咲ちゃんのお父さんとお母さん改めて見ると身長高くて格好良かったり綺麗だったりとモデルさんみたいだねー」


 輝咲「ああ、まあ一応母さんは元モデルだからね。それで父さんと2人とも身長高かったから僕も伸びたのかもしれないかな」


 弥一「 それにしても……緊張したー!」


 輝咲「ごめん、付き合っている事を両親に伝えていた事を君に伝え忘れてしまって…」


 弥一「あはは、いいってー(娘さんを僕にくださいっていうの観てたけど実際伝えるのは…心臓バクバクだよー!)」

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