第287話 夏とデートとプールと


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 7月中旬、去年よりも暑いなと体に伝わってくる熱波がそう思わせる。


 道を歩く人々は暑そうにしながら小型扇風機や冷たい飲み物などで猛暑をどうにか凌いでいた。

 それはフランスから帰って来た小さな彼とて例外ではない。


「(パリとか涼しかったんだなぁ…)」


 自販機で購入したばかりの冷たいオレンジジュースはほぼ飲み切ろうとしており、ノースリーブの青いパーカーや短パンと涼しげな格好で弥一は待ち合わせ場所の駅前広場に居た。


 高校サッカー界のみならずUー19にも入り名は広まってきている弥一、黒い帽子やサングラスをかけて正体は隠している状態だ。


「すまない、待たせたね弥一君」


 持っていたオレンジジュースを飲み干したタイミングで待ち人は到着、現れた輝咲は上下黒のシャツとレディースパンツが180cmを超える彼女をその辺りの男よりイケメンに見せていた。


「ううん、全然♪行こっかー」


 輝咲の姿を見て一気に表情を明るくさせた弥一、2人で手を繋いで歩き始める。


「フランスの大会、日本より大きな相手ばかりで大変だったよね」


「大きかったねー、特にアメリカとか2mを超えるでっかいの居たからさぁ」


「ああデイブ・アーネストだろう?サッカーに限らずスポーツであそこまで身長差あるのを僕は初めて見たよ」


 歩きながら弥一は輝咲と共にフランスでの戦いを振り返っていた。


 海外勢との試合で大きく印象に残ったのはやはり日本人には無い体格とパワー、それに度々日本が苦しめられるシーンはあったものの今回のUー19はそれを跳ね除けて初めての優勝を手にしている。


 それほど大きな大会ではないとはいえ今回の国際大会の舞台を制した事で日本に対して世界の関心は高まったかもしれない。



「本当に大変なのはやっぱ来年のUー20ワールドカップかな、その時どの国も凄い必死に来ると思うからね」


「確かにワールドカップと名が付いてるし、出たいだろうね各国」


 弥一はフランスの戦いよりも更に大変であろうUー20の戦いを見据えていた。


 来年のアジア予選からが本当の戦い、国際大会を制したからと言ってそこは気が抜けないだろう。


「ま、でも今は存分に休んで遊ぶよ♪息抜きしないとインターハイ持たないからねー」


 あはは、と明るく笑う彼の顔は輝咲から見て幼い子供みたいだった。


 それは世界と戦うDFには見えない、だが輝咲はこういう彼の顔がとても好きで弥一を見て彼女も釣られて笑みを浮かべる。



 2人で喋っている間に目的地の場所に到着、そこは都内で有名なプール付きの遊園地だ。


 弥一達のようにデートで訪れる男女や家族連れの姿が主に目立つ、輝咲は此処のチケットを2枚貰っておりこの場所を選んだのも輝咲の方。


 受付でチケットを確認した係員に通され、弥一と輝咲は遊園地内へと入る。



「プールこのまま行こうか」


「うん♪」


 輝咲の言葉に弥一は頷いて答えれば2人は手を繋いだまま真っ直ぐプールのある施設を目指して園内を歩く。


 この時間帯は人気あるアトラクションは混んでいる、長時間の炎天下で待つよりもプールで涼んだ方が良い。




 それぞれ男女の更衣室へと一旦別行動となり弥一は一足先に水着へと着替え輝咲が来るのを待つ。


 するとそこに弥一へと近づいて来る水着の女性2人、弥一は自分へと近づく気配に気付いた。


「ねぇねぇ、君もしかしてサッカーの神明寺君?」


「すごーい、こんな所で会えるなんて!」


 共に20代前半ぐらいの女性、それぞれ大人の魅力ある2人で弥一を知ってるとなると高校やUー19のサッカーを見てる可能性は極めて高い。


「えっと、似てるって言われるけど違いますー。僕サッカーやった事ないから」


 だが弥一は自らを偽りサッカーをやっていないと嘘を付く。


 此処はよく似た他人で通すつもりだ。


「え?違うの?」


「似てるけどなぁ…でもよく考えたらそうだよ。フランスから帰って来たばかりの代表選手がこういうプールで遊んでる訳無いからね」


 フランスから帰って来たばかりでプールにて遊ぶ代表選手は今まさに目の前に居るが彼女達は弥一の言葉を信じてそうだった。


 まじまじと弥一の顔を見ていた片方の女性はふと笑みを浮かべる。


「でも、この子はこの子でさ…可愛くない?」


「うん、マジ好みどストライク♪」


 弥一へと2人の女性が近くまで迫る、有名人じゃなかろうが好みの子となって狙いを定められていた。


「え?あのー…僕ちょっと人待ってて」


 心で読んで弥一はこの後言われるであろう言葉に対して先回りし断ろうとしていた。


「その人も一緒で良いからさ、お姉さん達と遊ばないー?」


 だがそれでも弥一を逃す気は無いのかお構いなしの水着女性2人。あわよくばその連れも弥一のような子ならお得と考えていた。


 これが絡んで来たのが男相手ならまだいくらか対処の手段はあったのだが相手は女性、どう断ろうと弥一が悩んでいると。



「そこのお姉さん達、僕の連れが何か?」


 現れた輝咲、その姿は黒いビキニ姿で女性2人もスタイルの良さを誇っていたが輝咲はそれを超えるスタイルだった。


 思わぬ連れの女性の登場に弥一へ近づいていた女性2人は一瞬言葉を失う、間に輝咲は女性達へと近づくと頭1個分程小さい彼女達を見下ろす格好となる。


「ひょっとして連れが何か失礼でもしたかな?そうだったら謝るよ」


「…!?」


 輝咲の王子のようなスマイルを近距離で見て2人はイケメンに口説かれるような感覚になっていた、この分だと輝咲の2人よりも立派な谷間など忘れて目に入ってなさそうだ。


「行こう弥一君」


「あ、うん」


 輝咲が持ち前の王子のような魅力で2人を魅了させた間に輝咲は弥一の手を引いてその場から共に離れて行った。



「全く、僕がいない間にああいう女性達を引き寄せるなんてね」


「ごめんー…強く断りにくいしどうしようってなっちゃった」


「とりあえず僕の側を離れないようにするんだよ?プールの外でも中でもね」


 想像以上にモテてしまう弥一、輝咲はこれ以上引き寄せる事が無いように弥一と常に側にいるようにする。


「(うーん、僕が輝咲ちゃん守るつもりだったんだけど…何か違っちゃったなぁ)」


 流れるプールの中で輝咲と楽しみつつも弥一はナイトになるつもりが現実は立場が逆転している事に気付く。それでも弥一は輝咲が楽しそうにしてるからいっか、とすぐにプールデートの方へと戻り満喫する。




「ぷはっ…!」


 水中を泳いでいてそこから顔を出し、水に滴る輝咲の姿。その姿がとても美しく見えて弥一は輝咲に見惚れていた。


「どうしたんだい弥一君?」


「え?輝咲ちゃん綺麗だなぁと思って見てた♪」


「はは、流石にそうストレートに言われると僕も照れてしまうな」


 そう言いながら輝咲は言われて悪い気はしない、好きな相手からそんな風に想われて見てくれるのは嬉しく思えた。


 こうして2人は楽しくも甘い一時を過ごしていく。





 ーーーーーーーーーーーーーーー




 弥一「今回は僕らのプールデートだねー♪」


 輝咲「そうだね、君が逆ナン受ける所を見たのは驚いたけどね」


 弥一「あれは僕も驚いたかな…上手く断る方法何か無かったかなぁ?」


 輝咲「正直彼女達の前で弥一君との仲を見せ付けようかと思ったけどね、まあとりあえず大きなトラブル無しで良かったけど…フランスでもああいうこと無かった?」


 弥一「無いよー、フランスの時は立見の2人一緒だったしー」


 輝咲「それなら良いが、ああいう狼な女性は君に近づけさせたくないな」


 弥一「(あ、ちょっと怒ってるかも…)」

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