第282話 元チームメイト同士の闘い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『ベルギーの守備をついに打ち破り日本先制ー!神明寺のキックからこぼれたボールを歳児が押し込んだ!立見の2人がヨーロッパの強豪相手にやってくれたー!!』
『神明寺君またあれ無回転蹴ってましたよね!?あれは遠めでもドンメルといえど中々取れないと思いますし混戦の中で歳児君もよく決めてくれましたよ!』
これまで中々ゴールを決められなかった優也、頭ではチームが勝てるならば自らのゴールなど二の次だと割り切って考えていたつもりだがやはりFWとして体は得点を欲していた。
そして大事な1点が決まると溢れ出す思い。
「うおーーー!!」
猛々しく吠えてフランスの空へと向けて突き出される両手。
普段クールな優也がやらないであろう事だが流れるフットボーラーの血が、魂が滾り抑えきれなかった。
優也を中心に喜びの輪が広がり弥一はゴールを決めた優也へ後から飛び付いて抱き着いた。
「優也ー!もう美味しい所持ってっちゃってさぁー!」
「良いところに転がってくれたおかげだ」
一本ベルギーの方は後半に失点を許し、守備陣がこれに下を向いてしまう。
「まだ負けてないだろうが!」
そこにすぐルイの声が飛んできて全員が顔を上げるとルイへと向いた。
「日本には過去に何度かリードされてるけど追いついたり逆転したりしてきた歴史があるだろ!俺達もそれが出来るはずだ!」
ベルギーは日本にリードされた事はA代表で何回かあった、その度に同点や逆転としてきており自分達の代でもそれが出来る力があると強く言い切る。
「そうそう、時間勿体ないし速く再開するぞ!」
アドルフはボールを持って急ぎセンターサークルへと置きに向かう。
だが日本の方はまだゴールを喜んでおり中々キックオフが出来ない。
審判がこれに注意しようと向かいに行くが次の瞬間に日本イレブンはすぐ各自がポジションへとつく、これに審判は軽く息を吐けば試合再開のキックオフの笛をすぐ鳴らした。
ピィーーー
試合が再開すると息を吹き返したようにベルギーがワンタッチの素早いパス回しで日本を翻弄、そして彼の声も聞こえてくる。
「ガンガン揺さぶれ!」
ルイが此処で調子を戻してきて司令塔として再び声を出し始めていた。
そしてルイにパスが出た瞬間、彼へと強く体を当てる人物が居る。
「!?」
「(復活したお前に仕事はさせない!)」
先程点を決めた優也がルイをピッタリとマーク、それは遡る事キックオフ再開前。
「優也、大仕事した後はルイのマーク頼むよー」
「俺があいつをか?」
歓喜の輪の中で優也が弥一を背負っている状態となっていて、そこに耳元で弥一からルイをマークするよう伝えられた。
「1回崩しかかったんだけどね、また立ち直りつつあるみたい。復活してドラマチックな大活躍とか御免だからね、ひたすらしつこく行ってほしいんだ」
「…分かった、俺がやろう」
弥一の事だ、これが勝つ為の最善策なんだろうと優也はルイのマークを引き受けた。
得点を決めた後に優也がする事はしつこいぐらいにルイの徹底マーク、それだけだ。
ルイは体をぶつけ返し、テクニックではなく力で対抗して優也を振り切ろうとしている。
そしてより強く当たられた優也はがくっとバランスを崩してしまう、これを見たルイは勝負が決まったと優也から視線を外せば右サイドを走るトーラスがフリーだと気付き左足を振り上げパスを送った。
「!?」
次の瞬間ルイの顔が驚きに染まる、パスを出した直後に優也がサッと出した右足がボールへと当たりパスコースを変えて球はタッチラインの方へと向かい割っていったのだ。
「振り切ったと思ったか、最後まで目を逸らすなよ」
僅かに笑みを浮かべた優也はルイに対して英語で語りかけていた、これが伝わったかルイの目がギロッと睨む目に変わる。
「調子に乗りやがって日本人が…!」
意識は強く優也へと向けられた、それも強い敵意を持って。
後半30分が過ぎてベルギーの攻勢、日本の弱点と昔から言われている縦へのロングボールを最終ラインからセインが放り込みに行く。
『ベルギー長いボールを放り込んで来た!しかし青山が頭で跳ね返す!』
この試合は想真と番の位置を途中から変えている日本、190cm近く競り合いに強いフィジカルを持つ番はベルギーの長身選手に中盤の空中戦で競り勝ち、放り込まれたロングボールを跳ね返していた。
普段より前のポジションに出て中盤の空中戦によく参加するようになった番はこの試合空中戦でどんどん競り勝ってくれている。
こうなるとベルギーは最も高いアキレスを前に出したくなるが日本の前線には室がいる、アキレス無しで室の高さには中々対抗するのが困難であり不在の間にカウンターを喰らえばというリスクを思うとその手段を取れずにいた。
「こっちー!」
状況をなんとしても打開しようとアドルフが動き出し、走りながら右手を上げてボールを要求、この時にベルギーは中盤で繋いでいきルイへとボールが行った所だ。当然の如くルイには優也の執拗なマークが付く。
だがルイは先程よりも冷静でありパスをトラップしたかと思えばボールは優也の頭上を越えて自身もそれを追いかけ、優也の方は想定外だったかこれに動けなかった。
それでも諦めずにルイを追いかけて食らいつきに行くが今度は間に合わない、ルイはそれよりも一歩速く右足でグラウンダーのスピードあるパスを出していた。
久々に行ったルイからアドルフへとパス、しかしこれを黙って通すわけがない。
「貰いー♪」
弥一がルイのパスを読んでインターセプト、此処でもベルギーの攻撃を実らせなかった。
「(カットしてくると思ったよ、ヤイチ!)」
「!」
いつも通りのインターセプトで攻撃を断ち切る、これまでの相手は想定外のカットを受けて驚いていたが彼に関してはそうくるだろうと弥一のプレーを読んで既に動き出していた。
アドルフの動き出しはこれまで弥一が相手にしてきたどのFWよりも速く寄せはもうそこまで来ている。
ボールをすぐ前に出そうとしていた弥一だがそれよりもアドルフの足が伸びてくる方が速く、蹴り出した弥一のボールは弾かれてセカンドボールとなると誰よりも速く動き出したのはそのアドルフだ。
「っ!」
これに弥一も向かうがアドルフの方が一歩速く向かっており、彼の方が先にボールに追い付く。
呑気にトラップしてる暇は無い、相手はその隙に詰めてくるはずだ。
相手するDFの力をよく知るアドルフ、この後のプレーに迷いなど無い。
ボールへ追いついた刹那、そのままアドルフは右足を素早く振り抜き渾身のシュートを日本ゴールに向けて放つ。
この時弥一がスライディングで飛び込んでいたが僅かにボールへ届かず間に合わない。
矢のような勢いで日本ゴール左上へと向かっていた、この状況で精度や力を兼ね備えたシュートをアドルフは撃って来たのだ。
同点ゴール、そう思われたがボールに対して両腕が伸ばされて来る。
日本のGK藤堂が左上を狙ったシュートに素早く反応して飛び付いていたのだ。
剛球と言ってもいいアドルフの右足シュートを藤堂は両腕に当ててボールを弾き出すのに成功、再びボールが溢れると素早く想真が向かい蹴り出してクリア。
『防いだ!凌いだ日本!ベルギーのエース、アドルフのシュートを藤堂スーパーセーブ!!日本の無失点を途切れさせない!』
『アドルフはやはり危険ですね、ですがこのまま守り切ってほしいです日本!』
「ああ畜生!」
上を向くと両手で顔を覆い決めきれなかった事を悔やむアドルフ、弥一を突破し寄せられる前にシュートを撃つ事は出来たが最後に藤堂のスーパーセーブに阻まれてしまうのは流石に想定外だ。
「もう一本だ、行くぞ」
「!…おう!」
そこにルイが軽くアドルフの背中を叩き声をかける、彼なりの励ましだと幼馴染は気付き前を向いて笑みを浮かべた。
まだまだ攻められる、同点どころか逆転も行ける。2人とも試合を捨ててはいなかった。
「アカン、流石にアドルフは1人じゃ無理や!俺ら2人で止めに行くしか…」
「ううん、僕1人でやる」
アドルフが優れたストライカーというのは分かっていた、弥一を持ってしても抑えるのが困難と分かり想真は2人で徹底マークで抑えようと提案するが弥一はそれを拒否。
「なんでやねん!それが無理やから………!?」
納得行かず想真は弥一に近づき肩を掴もうとしたがその動きが止まり何も言えなくなってしまう。
弥一に笑みが全く無く殺気のような雰囲気が纏わりついている、普段とは全然違うその雰囲気に想真は背筋がゾッとした。
「大丈夫だよ…もう、この試合アドルフに一本のシュートだって許すつもりは無いから」
アドルフの姿を見据えて彼の相手は自分に任せてほしい、想真へ伝えた後に弥一は彼へと集中する。
藤堂のスーパーセーブが無ければ確実に1点を献上していたであろうアドルフのプレー、あんな事はもう二度と起こさせない。
弥一のアドルフを見る目は獲物を狩る時の目、この試合で極上の獲物と出会った弥一はそれを逃す気など無かった。
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詩音「日本先制したよー!」
玲音「流石神明寺先輩と歳児先輩!立見の黄金コンビ健在だねー!」
半蔵「しかし相手はベルギー…今までの歴史を思うとリードしていても全然安心出来ないぞ」
明「現にアドルフが此処に来て良い動きを見せている…その上ルイの調子が戻りつつある…日本にとっては不味い流れだ…」
詩音「大丈夫だよー!神明寺先輩が負けるわけないし!」
玲音「神明寺先輩ファイトー!アドルフなんかに負けるなー!」
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