第251話 今のチームに足りなくて求められるもの
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
フランスのパリは6月のこの季節、日本と比べて日差しは強いが気温の方は低い。動き回る選手達にとってはサッカーに適した気温なのでこの気温の低さはフィールドを走るには良いだろう。
大会が間近に迫ったUー19日本代表は全体練習を行い、連携の確認をしていた。
「もうちょっと早く出せってー!」
「えー、今のは溜め作った方がええやろ?」
月城から光輝、そこから再び月城へと素早いワンツーで行くつもりだったのだが出すのが遅いと月城が文句を言えば光輝は溜めて緩急付けた方が良いと反論。
自分の高校と違って共に居る期間が短く限られてしまう代表の集まり、そこで連携を高めるのは中々大変な事だ。
「っ!?」
白羽と政宗のデュエル、ボールを持った白羽に対して身構えていた政宗だが一気にトップスピードに乗ったドリブルに対応出来ず白羽が政宗を抜き去る。
「(さっすが快速ドリブラー、スピードあってキレっキレなドリブルかましてくれるねー。けど!)」
その瞬間に弥一はダッシュをかけて白羽の方へと迫り狙うは一瞬足元から離れたボール、だがそれは白羽の罠。
自分の元に戻るようスピンをかけてあって弥一を誘き寄せる餌、これでそのままボールごと弥一の右を抜き去りにかかる。
しかし罠を最初から見抜いていたか弥一は白羽へとしっかり体を寄せていて思うようにプレーをさせない。
「(やりづら!高校No1ってのは伊達じゃないか!)」
弥一を抜くのは困難と瞬時に判断すると白羽は弥一と競り合う中でお洒落に左の踵で後ろへと流す。そのボールを受け取ろうとしているのは想真、そこに先程白羽に抜かれた政宗が今度は想真に付いていて2人はボールの奪い合いとなる。
そして想真がこの奪い合いを制してゴール前へと低く速いグラウンダーのパスを送るが、弥一がそのコースへと飛び込んでいてボールを蹴り出しクリア。
「交代ー、神明寺に代わって大野入れー」
弥一が抜けると代わってクラブユースから選ばれたCBの大型選手が参加、弥一は一休みと用意されたドリンクを口にする。
「元々3年程イタリアでやっていただけあって海外への適応力が高いですね君は」
「あはは、海外での経験をしっかりアドにさせてもらってますってねー♪」
目の前に現れた監督のマッテオ、彼を前にしても弥一は何時もの調子で明るく笑って会話していた。
「流石かつて最強と言われたミラン…ジョヴァニッシミの一員、と言うべきでしょうか」
「その監督に改めてそういうの言われるとなんか恥ずかしいなぁ」
弥一は留学時代にイタリアの超名門、ミランのジョヴァニッシミに身を置いていた。そしてマッテオはかつてジョヴァニッシミで監督をしていて2人は留学の時から知り合った選手と監督という仲だ。
マッテオは日本語を話せるが弥一はあえてイタリア語で会話、なので今2人の会話はそれが分かる者でなければほとんど何を言ってるか分からない状態である。
「弥一、君から見て今の日本代表はどう見えてます?」
弥一とマッテオの前ではフィールドにて動き回り攻守で争う選手達、マッテオから今の自分のチームについてどう思うか問われると弥一は彼らのプレーする姿を眺めている。
「綺麗過ぎて荒々しさがあんま無い、良くも悪くも今までの日本代表と同じって感じかなぁ」
「やはりそうですか」
忖度なしで今の自分の代表チームについて外から見た弥一の感想にマッテオはなるほど、と頷いた。
「私も同意見です、サッカーは上手い。それこそ技術に関しては五輪やA代表に匹敵する程かもしれない、ただ…戦うとなるとどうなのか」
フィールドを見つめるマッテオの表情は険しい、今のままで彼らは海外のサッカーと戦えるのか。その為に合宿を重ねてきていた。
世代上の大学生との練習試合を行ったり体格で優れる相手を想定した。だがそれはあくまで練習、本番ではまた色々と違ってくるだろう。
「常に冷静に、正々堂々とサッカーをする。フェアプレーを重んじるのは日本人らしく実に美しいと思います、ですが全員それでは相手がなりふり構わずのパワープレーで来た時や狡賢い相手にはたして対応出来て勝てるのかと」
「まあ、まさに負けてるね。パワーあって高さある相手や狡賢い相手に結構失点したりとかしてるから」
マッテオの言葉に弥一は代表の試合をテレビやスマホで見ていて海外の相手にゴールを破られたシーンを思い浮かべる、中には逆転負けを喰らった見ていて悔しく思う試合もあった。
「かと言って全員が狡く汚くなって日本らしくない、となってもそれはそれで問題でしょうけどね、理想としては日本人らしい正々堂々でフェアプレーな部分を残しつつ僅かでも狡賢いマリーシアを持つ事。私はそれを目指しています」
「つまり…全員良い子な中でチームに少し悪い子を混じらせる、そんな感じかな?」
「そういう事です、このチームに必要なのは悪い子ですから」
ほぼ優等生が集まった代表、その中に一部マリーシアを心得ている者を入れていく。全員が良い子、悪い子でいる必要は無い。
フェアプレー精神、正々堂々が日本人の良い所なのでそこを無理に変える気は無いが全員それでは困る。
なので狡賢い事が出来る者達が必要だと弥一に対してマッテオは語っていた。
「てなると月城めちゃめちゃ貴重な存在だねー、選手権の時とかマリーシアかましていたし」
「その彼に加えて白羽もそうですね」
「え、彼もマリーシア行ける方?」
「彼は国内より海外の選手と戦っています、やり方も対処法も長けている事でしょう。同じ理由で藤堂もそうですから」
「なるほどー、あ、それで言えば想真もスペイン留学してたから行けそうかなぁ」
マリーシアが出来るプレーヤーに関して弥一は選手権の時に見た月城がそうだと思っていたが白羽も得意だと初めて知り、藤堂もそういったプレーに対して慣れている。
「そして何より君が欠かせないんです弥一」
そう言うマッテオの目は真っ直ぐ弥一を見ていた。
「Uー19のチーム作りとなった時、私は真っ先に君の姿が浮かんだ。ミランで何よりも硬いカテナチオを皆と共に築き上げた君を」
世界一硬い守備と言われるカテナチオ、それを名門クラブで弥一は強固な守備を当時のチームメイトと築き上げ最強のミランを支えていた事をマッテオは監督として間近で見てきている。
「今度はその力を是非Uー19代表で存分に振るってもらいたいのです」
「勿論そのつもりだよ♪それに」
「勝つためなら良い子だろうが悪い子だろうが何にでもなるつもりだからね」
弥一のやる事は変わらない、DFとして相手に失点を許さない無失点サッカー。何時だってそれを追求してサッカーをしてきた、それは日本代表に選ばれても変わる事は無い。
その為ならマッテオの言う悪い子、それになるのも迷わず実行するつもりでいる。
練習後、選手達はすぐに食事へと向かい運動後に30分以内の栄養摂取を徹底して守る。それぞれが食事を済ませた後にミーティングルームの方で監督のマッテオから皆へと告げられていた。
「初戦のアメリカ戦、スタメンが決まりました」
マッテオがスタメンを決めたと言った後に富山はそのメンバーを読み上げる。
「GK、藤堂」
まずGKで選ばれたのは海外選手との試合経験が豊富な藤堂。
「DF、仙道(佐助)、神明寺、大野」
DFから弥一が選ばれ、選手権でも戦った佐助やユースの大型CB大野との3バックを組む。
「MF、三津谷、白羽、月城、仙道(政宗)、八神」
MFから5人、本来DFである月城や想真が前の方のポジションで採用されていた。政宗と想真がダブルボランチとなる形の中盤だ。
「FW、照皇、室。以上」
FWの2トップからは高校No1ストライカーの照皇、そして高校の巨人で知られる室が選ばれる。
日本のシステムは3ー5ー2、中盤を厚めにしていく布陣だ。
選ばれなかった大門に優也に辰羅川はいずれもベンチからのスタートとなる。
このメンバーで日本は平均身長において今大会1番高いと言われるアメリカを迎えての初戦、そこが日本の世界への挑戦の第一歩であり負けられない試合だ。
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詩音「僕らは留守番で出番少なくなっちゃった~」
玲音「日本から皆のを応援するしかないね~」
明「…神明寺先輩が留守の間、フォルナの世話を頼まれてるからちゃんとしよう」
フォルナ「ほあ~」
半蔵「大事な猫だからな、世話は丁寧にするんだぞ」
明「分かってるから…」
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