第248話 空の旅を経て彼らはフランスに降り立つ


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 日本から飛行機は飛び立ち、両翼を広げて優雅に上空1万m程の高さを保っている。


 弥一達はフランスを目指し現在ファーストクラスの飛行機に乗っていて最高クラスの座り心地や快適さを誇る席で空の旅を満喫していた。


「2人ともこっからフランスまで長いからね、此処で今のうちに休んだりしておいた方が良いよー」


「ああ、時差の事もあるしな」


 この中で唯一海外に行った経験を持つ弥一は日本からフランスまでかなり長い事を伝え、優也は空の景色を眺めながら話す。


 日本の東京からフランスまで約14時間、日本とフランスの時差は7時間で日本の方が進んでいる。


 時差については今のうちに調整した方が良さそうで何時もと休むタイミングを少しずらす必要があり、眠気が来ても眠らずフランスの時間に調整しなければならない。


 向こうで大会が行われている間はずっと現地に滞在するのだからそのまま日本の時間感覚でいると不便だ。



「失礼致します、お食事の方をお持ちしました」


「あ、ありがとうございます」


 そこへ機内食を用意し、運んで来たファーストクラスCAの女性。それに大門はぺこりと頭を下げれば彼の目の前に豪華な機内食が用意され、弥一と優也の方にも同じ物が置かれていた。


 機内に同乗する一流シェフの手によって作られる料理、洋食や和食と素材に拘った食材を厳選して調理した食事は絶品ばかりだ。


「ファーストクラス最高~♡美味しい~♡」


 弥一はメインディッシュの和牛を使った肉料理を味わえば蕩ける食感、美味しさが口いっぱい広がりあっという間に弥一を幸せの世界へと導き試合を戦い抜いたご褒美としては最高だった。


「確かにこれは美味い…」


 和食の新鮮な刺身を口にすればクールな優也も唸るぐらいに感じる美味さ、食を自然と進ませてくれて彼の目の前には空の皿が早くも目立ち始める。


「(一生に一度しか乗れないと思うし、今のうちに食べておこう!)」


 滅多に無い機会で最初は高いチケットに萎縮していた大門だが、此処まで来たら思う存分に堪能しようと優也同様に和食メニューの寿司を片っ端から一口で食べていく。



 試合後で腹を空かせた食べ盛りの高校生3人にとって量より質を重視した食事を平らげる事は実に容易い、その証拠にいずれも早々と完食していた。



「向こうの時間に合わせるとしたら日本時間の夜に寝たら駄目…起きてるにしても何しよう?」


 食事を終えて手持ち無沙汰となってしまった大門はとりあえず窓から見える空の景色を眺める、そこから広がる光景はまさに空の世界。


 地上では見る事の出来ない上から見る雲はとても新鮮だ。


 こうした景色が機内のゆったりとした席や空間で楽しめる空の旅は人から見れば究極の贅沢だとまず思われる。



「映画とか見てみるー?すんごい数の映画見れるんだよー、前乗ってたビジネスクラスでそうやって時間潰したりとかしてたしファーストクラスだったらもっと種類豊富だと思うからさ」


「あ、そうなの?じゃあ見てみようかな」


 弥一から勧められ、大門は個人用のモニターで映画を見始めた。半日ほどの空の長旅に良い暇潰しであり地上を離れての映画鑑賞もまた格別だろう。


「エッチなの見たら駄目だよー♪」


「見ないよ!!」


 からかいを受けて大門は顔を真っ赤にしており弥一はそれを「純情ー♪」と面白そうに笑っていた。





「弥一」


「うん?」


 そこに優也から声がかかり弥一が振り向くと真っ直ぐ彼は弥一の方へと見ていた、どうやら彼の方は映画鑑賞という気分ではなさそうだ。


「俺や大門はまだ海外の連中について知らない事が多い、正直日本人と比べてガタイが良いとか身長が高いとかそれぐらいの情報しか無いんだ」


「だろうねー、日本の高校で海外選手とぶつかるなんてほぼ無いからね」


 これまで戦って来た相手校の中にはパワーある選手だったりとハーフの選手も居たが、純粋な海外選手とは一度も当たっていない。

 立見の方で海外遠征もしておらず弥一以外はほぼ海外と戦ってないだろう。



「…通じるのか?今の俺達の力、サッカーが世界に」


 優也は弥一をその目で見つめたまま真剣に問いかける、自分達は世界に通じるか否か。





「日本て何かと世界に比べて身体能力が駄目、高さが足りない、世界のパワープレーに弱いとか言われてきたよね」


「ああ、何かA代表の方でそういう事結構言われてるな」


「今のこの年代はその高さも身体能力もある方じゃないかな?ほら、室の高さとか凄いし照さんの身体能力も半端なかったりだしパワーも凄い」


 昔から言われ続けてきた日本の弱点、技術は時が経つにつれて洗練されていったが世界と比べてパワーや高さが足りないのはあ変わらずだ。


 今のUー19は同年代と比べてその欠点を補う優れた選手が多い、世間からすれば世界にも通用すると期待させる程に。


「つまり通じるのか?」


「どうなんだろうねぇー、その人次第っていうのもあるし高校サッカーでやってきたのとは違うからさぁ」


「どう違うんだ?日本の高校サッカーと世界のサッカーだと」


 通じるかどうかは弥一にも分からない、座席の背に体を預けて弥一は天井を眺める。



「日本の高校サッカーが学生同士の真剣勝負だとするなら世界のサッカーはー…」






「殺るか殺られるかの殺し合い」


 優也から見てそう言う弥一の表情に笑みは無い。







「大袈裟でも脅しでもないよ、自分の人生を賭けてサッカーをして負けたら全て終わりの覚悟でやってるプレーヤーとか全然珍しくないから」


 海外勢の底知れぬ勝利への貪欲さとハングリー精神に勝負強さ、相手を谷底に蹴落としてでものし上がってやろうと、そんな思いでサッカーをしてきた者を弥一は留学時代に何人も見てきた。

 心が読める彼だからこそ彼らの気持ちがより強く伝わって来ていたのだ。



 幼い頃からビッグゲームのトラップミス一つで負けへと繋がる勝負の怖さを彼らは知っている、そんな勝負の世界を知っているからこそ世界で10代の若き選手達が早々にプロ契約して活躍する者が多い。


 彼らがこれから挑むのはそんな選手達が居る世界との真剣勝負の場。


「自分の人生を賭けて、負けたら全て終わりの覚悟…か」


 優也は弥一の言った言葉を改めて口にする、高校サッカー広しといえどそこまでの覚悟を背負ってサッカーをする者がはたしてどれぐらい居るのか。


 そしてUー19の日本代表として出る今回のUー19フランス国際大会。


 きっと弥一の言う勝利への貪欲さやハングリー精神を持った天才や化け物達が居る、なんとなく優也がそう思う中で飛行機はフランスへと目指して一直線に飛び続けて彼らを運んでいた。








 機内で過ごす事14時間、弥一達を乗せた飛行機は予定通りパリの空港へと着陸。


 手続きを済ませて彼らは空港の出入り口を出れば3人に吹いてくる異国の風、周囲に聞こえてくる話し声は日本語ではなくフランス語。つい14時間程前に日本で総体予選の試合をしていたのが嘘のようだ。



 Uー19日本代表としてフランスの地に降り立った弥一、大門、優也。


 この地で果たして彼らに何をもたらすのか。




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 優也「とうとうフランスか」


 大門「フランス語で話さないといけないよな…えー、ボンジュール…とか?」


 弥一「うん、初歩中の初歩だね♪」


 大門「フランス語もっと勉強しないとなぁ…」


 弥一「まあせっかくのフランスだし、此処でLa Briller(ラブリエ)な活躍したいよねー」


 優也「ラブリエ、てなんだ?」


 弥一「フランス語で輝くって意味だよー♪」

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