第230話 躍動する1年チーム
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
目の前でああいうプレーを見せられて上級生チームは無策のままではない。
明に対して1人がマンマークの形で張り付くようになり、これ以上明を自由にプレーさせては不味いと感じたらしい。
そして上級生達は中央を避けて左右から徹底してサイド攻撃を仕掛けていく、中央と比べてサイドは薄めだと分かり相手の弱い所は容赦無く攻める。そこは相手が新人の1年相手だろうが手は抜かない。
そこから高さある立浪達CDF相手に高くは上げず地を這うようなボールを右サイドからゴール前へと送る。
「っ!」
サッカーマシンによる速い球のクロスで慣れている上級生の部員達、このグラウンダーのクロスは力強く蹴られて速いスピードが出ていた。それを3年のFWはワントラップして素早く前を向くとシュート。
立浪はこれに対して相手がワントラップしてる間に寄せて行くと体を張って近距離のシュートを恵まれた大きな体でブロック、ボールは弾かれてエリア内から中央の外へと跳ね返って行くとそこに詰めている3年生のOMF。
ボールに追いつき追撃、かと思えば先に三笠が取ってドリブルで攻め上がると明の姿が見え、すぐ傍には相手がマークしている。
「(いや、此処は一気に!)」
三笠のターゲットは決まる、センターにあれだけの高さがあるなら存分に活用するべきと一気に縦へと高く浮かせてのロングパス。192cmを誇る長身FW半蔵はこれにゴールへ背を向けたまま飛ぶと相手DFと競り合いになりながらもバックヘッドでゴールを狙う。
ゴール右を狙ったがGKの安藤が横っ飛びで半蔵のバックヘッドシュートを両手でキャッチしていた。
1年組は何回かシュートは撃てているが上級生のDF陣や安藤のセーブに阻まれてスコアボードは0から中々動かない。
「全国の1位、2位や優秀な成績収めた中学の集まりは凄ぇなぁ。うちの2年と3年の先輩相手に互角に戦ってるよ」
フィールド外から試合を観戦している今回の紅白戦に不参加のレギュラー組、その1人の川田は互角だと試合状況を見ている。
「真ん中の高さとか1年の方があるよね、石田に三笠に立浪と」
「あー、向こう180を超えてる人そんないないからな」
互いのチームをそれぞれ見比べている翔馬と武蔵、立見の2、3年チームは半蔵のようなずば抜けて身長の高い者がいなければ180cmを超える者もCDFの2人以外はいなかった。
「(いくらこいつが凄かろうがボールさえ持たせなきゃ…)」
明をマンマークする3年プレーヤー、1年の中で特に優れたテクニックを持つと直感が伝わり彼を要注意選手と見て自ら役目を買って出ていた。
最後までこの1年にボールを持たせない、仕事をさせない、それが自分の役割だとマークに張り付いて離れない。
「…」
その相手を明はチラッと見た後にすぐ視線を外す。
すると明が急にゴールへと向かって走り出した。
「っと!?」
ゴールへといきなり走る明に相手も追いかける、急な動き出しで振り切る気かと思ったのも束の間。そこから明は急ブレーキしたかと思えば反転。
前へと走ってたはずが今度は急な逆走でゴールから離れる。この動き出しの連続に相手を翻弄し、明はフリーの状態だ。
今ボールは1年が持っていて右SDFが明の姿に気づけば彼へとボールを預ける。
明が再びボールを持つと彼をマークしていた3年が追って来ていた、これに対してダブルタッチで相手を左右へと揺さぶり縦へと一気に抜けて明は3年の先輩を抜き去るのに成功。
だがすぐに2年の選手が迫っており二段構えの守備で明を止めにかかる。それを予測していたのか明は慌てる様子など無く相手の頭上をふわりと超えるボールを左足で蹴り、2年の頭を球は超えて行くが距離が長く明では追いつかない程だ。
明は頭を超えて自らも抜き去ってのドリブルを狙ってはいない、このボールは左サイドの空いているスペースへと落とすパスとなっていてそのスペースに出たボールへと左の玲音が走り込んでいた。
「(ナイスパース♪)」
詩音に続いて自分まで明からのパスを受け取るのをしくじる訳にはいかないとばかりに明のループパスを器用にトラップし、そのまま左からエリア内へとドリブルで切り込む。
すぐ近くに相手DFが迫って来ている、目の前にはGK安藤のみ。玲音は左斜めの位置から得意の左足でゴールを狙いシュートを放った。
ゴール左上を狙ったシュートに対して安藤は反応、右手で玲音のシュートを弾き出してゴールを阻止すればボールはゴールラインを割っていき主審役の間宮は1年チームのCKを指示。
「あー!くっそぉ~」
今のシュートを決めきれなかった事に玲音は頭を抱えて悔しがると、詩音がまだチャンス続いてるからと玲音の肩を叩きなだめていた。
CKのチャンス、これに対して高さのある立浪が上がって行くのが見えたが明はこれを見て何か言いたそうにしている。
ただ上手く声を出して伝える事は出来ないので明は立浪に向かって右掌を向けると首を横に振るジェスチャーを見せた。
「ん…?どうした?」
立浪はそれに気づくと明へ近づき、どうしたんだと尋ねる。
「…今は、上がらない方が良い」
「え?けど高さあるターゲットは揃えておいた方がいいだろ」
「いや、待った」
明はDFの要である立浪に対して今は上がるべきではないと小声ながら伝えると、立浪はより確実に得点を狙うなら高さある自分も加わるのが良いだろうと意見を返す。その中で半蔵が割って入る形となる。
「明の言いたい事はこのCKを防がれ、万が一向こうのカウンターが飛んで来たら1点の危険性が高くなる…ビハインドの状況ならともかく前半の今まだそこまで慌てて点を取る状況じゃない、そういう事か?」
「…ん」
半蔵の言葉に対して明はこくんと頷く、今はそこまで高いリスクを取るべき場面じゃないと。消極的だと思われるが攻めに出過ぎてカウンターで1点を取られるというのは有り得る話で実際の試合でも起こる事だ。
相手は試合に出ていないとはいえ全国制覇を成し遂げた立見サッカー部、立浪が前に出ている隙を見逃す訳が無い。
「やることはもう…決めてあるし…」
「え?」
「…石田、耳」
明は半蔵へと小声でぼそぼそと伝える、それを見ていた立浪に詩音は声をかけると玲音も続く。
「とりあえず此処はちょっと任せてみよっかー。実際カウンター喰らったら困るからね」
「前線には僕達も居るし、後ろはよろしくー」
「…ああ、じゃあ今回は下がって守備に専念しとくわ」
自分が上がれば後ろはガラ空きというのは立浪も理解しており、此処は皆に合わせて守備へと下がりセットプレーの攻撃参加を今回は見送る。
「CKを蹴るのはあの1年か…やっぱ高さあるあいつに合わせるんだろうな」
「ショートで一旦そっちにやってタイミングずらして来るのもあるかもしれない、…というかあいつがCKでどんなボール蹴ってくるのかまだ分からないからなぁ」
明がボールをセットしてるのが見えて相手DF陣はテクニカルなボールを蹴って来るかもしれないと、これまで明が見せてきた技術を思えばその系統の球が来ると予想している。
他と違って明は公式戦に出ておらずデータが無い、だがどんなボールで来ようが弾き返すとそれぞれ声を掛け合いマークにつく。
左コーナーから明のCK、ゴール前には長身の半蔵、奥には詩音。コーナー傍には玲音の姿がある。
彼がどんなボールを蹴るのかフィールド外のレギュラー組が見つめる中で明が右手を上げて合図した。
助走からゴール前へとまるでシュートを撃つように力強く右足で蹴るとボールは真っ直ぐゴール前、弓矢から放たれた矢の如く速い球が半蔵へと向かう。
半蔵へ来るとDF陣は分かっていた、ただその向かって行くボールが予想外に速い。明からそのような球が来るとイメージ出来てなかったかDFは反応が遅れてカット出来ず半蔵は勢いよく飛んで来るボールに頭で合わせ、ゴールへと叩き込んだ。
安藤が反応する間も無くボールは左のポストを叩きながらゴールマウスへと入る。
そしてゴールが認められれば1年組は半蔵と明へと集まって行き、それぞれ祝福。
「半蔵ー、美味しい所持ってってー!」
「格好良いじゃん、このー!」
「いや、今のは俺じゃなくて明のボールが良かったおかげだって!」
「…合わせて決めた石田の力だろ…」
自分じゃなく明の力だと言う半蔵に対して今のは決めた半蔵の力だとアシストを決めても明は相変わらずの小声だった。
「(力強い、そして速くて正確。これテレビで見るプロの人が蹴るようなレベルだよね)」
フォルナを撫でつつ弥一は明の蹴ったボールを振り返っていた。
曲げたりはしない直線の速い球、それに加え正確。フィールドで自分を表現している彼は思ったよりも高いポテンシャルを持っている。
弥一のフィールドを見つめる目は楽しげに光っていた。
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弥一「暑い日が続いて来たから見てくれる皆さんもサッカーする僕達も水分補給しっかりしないとねー♪」
摩央「水分補給はマジ大事、これは欠かさないようにしとこう」
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