第204話 ぶつかり合う闘争心


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「今日2ゴールと活躍の照皇誠君に来ていただきました、見事な2ゴールで得点ランキング首位を独走してますね!」


「チームメイトが良いパスをくれるおかげです、自分の力はまだまだなので」


「八重葉学園、予選から此処までずっと3点差以上の大差と無失点で勝ち上がり前回以上に圧倒的な強さで皆驚いていますよー」


「チームの皆が日々成長したり素晴らしい力を持った1年達が入り、それぞれが噛み合っている成果だと思います」


「決勝戦は昨年のインターハイで八重葉を0点に抑えている立見高校が相手となりますが決勝に向けて意気込みは?」


「誰が相手でも自分達のする事は変わりません、全力でプレーをして勝利する。ただそれだけです」


 勝利インタビューに応える照皇、2ゴールを決めて勝利しても彼は全く浮かれている様子は無い。ゴールパフォーマンスも特に彼の場合は無く、右拳を突き上げて応えるのみで短かった。

 わざわざカメラの前まで行ってポーズを決める派手な月城とはまるで正反対だ。










 敗北が決まり重苦しいロッカールーム、真島の選手達は皆が椅子に座っていて項垂れ涙する者が多数。


 八重葉へのリベンジ戦に臨み持てる力を全て出し尽くしたつもりだったが結果は4-0、またしても絶対王者の前に敗れ敗退となってしまう。


「…お疲れ、うん。皆よくやった…諦めず最後まで走ってくれて、本当…ありがとな…」


 監督はその選手達へと声をかけ、その声を詰まらせていた。悔しいのは選手だけではない、監督も同じ気持ちで涙していた。


 選手達は八重葉へと必死に挑み勝利を目指し走り続けた、彼らを勝たせる為の作戦を活かしきれず、勝たせてやれなくて決勝の舞台に連れていけなかった事が悔しい。




 そしてそれ以上に絶望し、涙していたのはロッカールームの隅で体育座りしていた真田だ。


 悔やんでも悔やんでも悔やみきれない退場、焦ってボールを取りに行き月城に踊らされた結果がこれだった。


 チームを救うどころかもっと酷い状況に追い込んで真島を敗北へと導いてしまった、自分の膝に埋まり隠れている彼の表情は誰よりもどんよりと暗い。


 3年の最後の大会が終わり、監督の最後の挨拶も終了。これで真島は今日は解散となる。




「すいませんでした!」


 そこに真田が立ち上がったかと思えばチームの皆の前まで行き、両膝と頭と両手を床につけて土下座をしていた。


「おい慶太、お前そこまでする必要なんか…!」


 いくらなんでも重く受け止め過ぎだと峰山が真田へと駆け寄り頭を上げるよう言うが真田の頭は上がらない。


「俺のせいで真島が負けて、チームに迷惑かけて、先輩達を優勝に導けなくて…俺…」


「勝手に全部背負うのが格好良いと思うなら止めとけ」


 口を開いた鳥羽が頭を下げる真田へと屈み、ぐいっと頭を上げさせる。そこで涙を流す真田と鳥羽の目が合った。



「てめぇだけが全部悪いと思うと思うか?お前をそこまで追い詰めた俺らに責任は無いと思ってんのか?八重葉相手に1点も取れなくてシュートもろくに撃てなかった俺達じゃなくお前が全部悪いと?」


「っ…!」


 真っ直ぐ真田の目を見て離さない鳥羽の目、真田が退場を喰らった以上に鳥羽はゴールを決められなかった事を誰よりも悔しく思っている。


 真田が退場する前から既に真島は3点ものリードを許し、八重葉にペースを握られ何も出来なかった。


 唯一のチャンスであるFKも天才GK龍尾に完璧にキャッチされて自慢の武器も通じない状態、それでも足掻いて走る、普段の華麗さを捨てて貪欲に走った。


 それでも越えられなかった果てしなく高い王者の壁。


「責任はこっちにあるんだよ、自分で勝手に背負って責任に押し潰されて後の真島を引っ張れなくなる方が大問題だろ。人の責任まで勝手に持ってくな」


「鳥羽…先輩…」


「主力が大勢卒業すんだぞ、お前がこれで駄目になったら真島終わっちまう。いいのか?終わっても」


「……嫌です…!」


 鳥羽の言葉を受け、真田は決意と同時に涙を流し泣き出すと鳥羽は真田の背中をポンポンと叩く。




「(…本当は、俺よりお前の方がキャプテン向いてたかもな)」


 2人のやり取りを見守っていた峰山、意外と面倒見の良い鳥羽を見て自分よりその役目に相応しいかもしれない。


 後輩を慰める彼の姿にそう思えた。










「いったたた…」


「享、もう演技よくねぇか?」


「あ、バレました?」


 ロッカールームから最後に出て来た月城、着替え終えて出てくれば腰を痛そうに押さえているが龍尾は気づいている。


 彼の痛そうにしているのが演技であると。



 世界と戦う事も考え、練習を積んできた龍尾はそういうのを見てきて知っている。月城がそれを使った事も。


 月城は押さえていた腰から手を離し普通に歩く、彼の負傷は嘘。真田からぶつけられたのは本当だが酷い重傷までには至っていない、それを月城は酷いように見せていたのだ。


「平気だったらこっちが見破られてイエロー、最悪レッド喰らいますからね。後はSNSで「お前本当は平気じゃねぇか」とか思われないようにずっと痛そうにしてる必要あるんで」


「じゃあそれこそこういう所見られないように注意だな、日本だとお前それ悪童になるからよ」


「これで悪童なら世界中が悪童だらけなりますってー、みんな当たり前のようにこれやってますし。日本が遅れてるんスよ」


 龍尾と月城は互いに笑い合って話している、学年は一つ違うが彼らは気が合う様子。




「つか今日も俺のゴールパフォーマンスについてあの頭かってぇ先輩「煽るようなパフォーマンスはするな、無駄に動くな」とか言いやがって、お前関係無ぇだろうが!って言いたくなりますよマジで!」


「相変わらずマコとは合わねぇんだなぁ」


 同じ天才でも月城は龍尾と仲は良いが照皇の事は良くは思っていない、月城がゴールを決めてパフォーマンスをした後に照皇から注意されてその不満を愚痴っていた。


 監督でもなくただの一個上の先輩に何でそんな言われなきゃならないのか月城の中で納得がいかない様子だ。


「ま、あんま悪く言ってやんな。お前が嫌いでああいう事言う、そんな訳無ぇよ。あいつなりにお前を思って言ってんだろ」


「そうスか…?」


 照皇は誰かを嫌ってああいう事を言うような人間ではない、ましてやサッカーでそれは無い。


 彼と付き合いある龍尾はその事を知っており愚痴を聞きつつも月城を宥めていた。









「それじゃあ皆、早めに帰ってよく休んでおくように。今日だけでなく明日もちゃんと体を休めてね」


 会場の外へと出て来た立見の面々、それぞれが此処で解散となって決勝に備える。行われるのは明後日であり休めるのは明日1日のみだ。


 今日の最神との試合も激しかったので早めに体力回復に専念する必要がある。


 弥一も皆と同じように早めに帰ろうとしていた時、彼に声をかける人物が居た。






「神明寺」


 自分を呼ぶ声がして振り返ればジャージを着た人物、立見の物ではない。それは八重葉が着るジャージの物だ。


 弥一がその顔を見上げれば目に映るのは照皇の顔だった。




「ああ、照皇さん今日も流石の大活躍だねー♪あの真島を寄せ付けないなんて、うちだと結構手を焼いてたんだけどなぁ」


「仲間の力あってこそだ、俺はたいした事はしていない」


 陽気に照皇へと挨拶する弥一、それに対して照皇は表情一つ変えずに会話していく。



「まさにドラマだよね、去年の春に練習試合で全国に出てこいって言われたのが選手権の決勝で戦う…ってあんまりドラマとかそういうの興味無いかな?」


「俺とてスマホぐらい見る、体を休めている時にそれでドラマを見たりはするぞ」


「うん、そこはサッカーに一筋と勝手に思ってゴメンなさいー」


 ジャージに隠れた照皇の鍛え抜かれた鋼のような肉体、それは弛まぬ努力によって得られた証。そんな照皇も24時間いつでもサッカーという訳ではない、彼にも休みの時間はあり皆と同じようにスマホを見ている。


 勝手にドラマは無関心と思っていた弥一はその事を謝罪し頭を下げた。照皇の方は特に気にしていない様子だ。




「神明寺、明後日の決勝。八重葉は立見を倒す」


「ああ…八重葉には二度負け続けてるよね」


 一度目は春の練習試合で八重葉が3-1、二度目はインターハイ2回戦で0-0までもつれてPK戦で八重葉が勝利。


 いずれも立見に1度の勝利も許しておらず八重葉が勝っていて弥一はその事を忘れてはいない。



 今の彼らは八重葉史上最強と言われており、優勝候補の筆頭として選手権を戦い圧倒的強さを証明し続けた。



「どれもお前が出場した時ゴールを取ってはいない、今度はお前を突破して決めさせてもらう」


 その中で八重葉が弥一を前に得点を決めていない。照皇としては勝ってはいるが自分の中で何処か納得はしていなかった、静かに燃える闘志が納得を許さない。


 冷静沈着な心の中で見え隠れするゴールへの熱き意欲、照皇は今度こそ弥一を突破して立見からゴールを決めるつもりだ。



「いいよ、明後日存分にやり合おっか。練習試合とインターハイの分纏めて返してあげるから♪」


 何時ものように明るく笑う弥一だが、その心の中では最強軍団を叩き潰す気満々でいる。闘争心はグツグツと煮えたぎっていた。



 王者の連覇か、新鋭のリベンジか。どちらが勝つか明後日の決勝戦で明らかとなる。


 その試合を前に互いの闘争心はぶつかり合う。

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