第190話 国立で迎える準決勝
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
開幕戦以来となる高校サッカーの聖地と言われている国立競技場。
幾多の激闘、伝説がこの地で生み出され100年以上の歴史が刻まれてきた。
その歴史に新たな1ページを刻まんと聖地へ乗り込む若獅子達の試合を見ようと10時から開場すると両校の応援団、一般客と試合開始前から出来ていた大勢の人による列が会場へとぞろぞろ移動していく。
それから20分程が経過すると選手達を乗せた専用バスが到着、先に着いたのは立見。
選手達はバスから降りると会場入りし、その後に最神を乗せた専用バスも到着。
立見と同じく国立の会場へと入って此処から試合開始に向けて準備へと入る、試合開始までは1時間半程となっていた。
「最神の事は夏の合同合宿で一緒になっていてある程度知っているだろうけど、本番の彼らをあの時と同じだと思わない方が良い」
「攻撃は前線のスピードある駒田、長身の幹本。この2トップに加えて1年の司令塔三津谷、この3人が主にゴールやアシストを決めてる。加えて八神も時に上がって来て攻撃に貢献する事があるから3人だけでなくDFの彼にも注意が必要」
試合前、各自がカステラを食べてエネルギー補給をしつつ成海と京子がホワイトボードの前で今日の最神について改めて確認する。
「向こうのDFは5バック、ただ両サイドが結構積極的に上がって来るから5-3-2というよりは3-5-2に近い。中盤は相当密集地帯になるかもしれない」
立見も中盤に5人置いている4-5-1が主なフォーメーション、最神がその通りに来るのだとしたら中盤にはかなりの人数によって敵味方の混戦状態になる事が予想される。
「僕らとか特に後ろからよく見て声かけた方が良さそうだねー」
カステラを食べつつ弥一は隣の大門へとそう声をかければ彼も頷いて答えた。
弥一も大門もポジションとしては後ろからフィールドを見渡せる位置に居る、彼らが状況を把握して味方へ素早く伝えるのが今回は何時も以上に大事になりそうだ。
密集地帯となって選手やボールを見失いパニックになってしまう事態だけは避けたい。
「今大会の最神、うちや八重葉と同じく此処まで無失点ですね。やっぱり八神想真を中心とした守備陣が固いですけどその後ろを守るGKも強いですよ」
何時も通りに摩央がスマホを操作し、その選手に関するページが表示される。
最神のゴールマウスを守る3年の正GK洞山武(どうざん たけし)、188cmと長身で関西No1GKと言われる程の実力者で想真と共にこの準決勝まで全国の強豪達の攻撃をシャットアウトしてきていた。
想真だけでなくゴール前には頼れる守護神、相当な守備力の高さを最神は持っている。
「う~ん、流石優勝候補の一角。どのポジションも強いのが揃ってるなぁ」
「そこはうちだって負けていませんよ」
隙が無さそうに思える最神の布陣に幸は改めて最神が強敵だと実感していると、此処まで勝ち上がった実績からか成海は強気だ。
「こっちも数々の試合をこなし勝ってきて、様々な特訓を経て強くなり立見は今準決勝。この国立に居る、最神に総合力で劣ってはいないつもりです」
1年前にキャプテンとして急にチームを率いなければならなくなった時と比べ、成海も頼もしく成長したと幸の目には映っていた。
最神は強いが今の立見もまた強い、それは選手達の自信となっていて優勝候補相手に萎縮などは無い。
ミーティングと共にカステラを食してエネルギー補給も済ませ、立見はアップの為にフィールドへと向かう。
入場口から外へと出ればサッカーフィールドを取り囲むようにスタンドは国立の大勢の観客によって埋まっており、立見の選手が現れると歓声が送られて来るのが聞こえてきた。
「戻って来れたねー、この舞台に」
「後は2つ勝つだけだな」
弥一がフィールドを見渡していると優也は横でそれだけ言うと先に軽く走り出して行く。
後2つ、この試合とその後の決勝戦の2つを勝って優勝する。今日も途中出場の予定だが優也はその時に備え、静かに闘志を秘めつつ準備をしていた。
その時新たにまた大きな歓声が起こっており、原因は入場口に現れた者達だ。
立見に続きアップに来た最神達、彼らの姿に試合開始前からこの国立へ駆けつけている大阪からの応援団は声を上げて応援する。
「最神!最神!天下無敵~♪東京ひとひねり~♪」
「東京もんに負けんな~♪大阪最強~♪」
「すっげぇな、あっちの応援は…」
男女問わず活気溢れるエネルギッシュな応援、更に東京代表である立見が相手なのもあって大阪代表として負けられないという気持ちが出ており応援する歌でもそれが込められていた。
彼らの迫力に田村は思わずアップする動きが止まり、そちらの方を見ている。
「おいおい、あれでビビったりとかしてんじゃねぇだろうな?」
「違ぇよ!ちょっと驚いただけだっての」
間宮に相手の応援に押されてるのかという声に田村はそんな事無いと強く言えば再びアップを続ける、全体的に声としては最神の声援が多く感じられた。
「大阪の人は凄い元気だなぁー」
「これだけの応援は今までの中で一番かもしれないな」
アップしつつ武蔵、川田の2人は大阪の大応援団の光景を見ていた。規模としては立見を超えており皆関西から此処へと足を運んで来ている。
応援は選手達の大きな力となり、こういうサポーターの存在は重要。最神の応援は対戦相手の中で最大規模を誇っていた。
彼らによる応援が立見にとってまた試合を難しくさせる可能性がある。
「合宿以来ですね、高見先生」
「お久しぶりです石神監督」
両チームの顧問、監督がそれぞれ顔を合わせると挨拶。石神は幸の顔を見れば明るく笑い、幸は石神へと礼儀正しく頭を下げた。
「立見さんはえらいレベルアップしましたね、この準決勝まで来てインターハイから続く無失点記録まだ続いてるってホンマ驚きですわ。しかも此処2試合は5-0の連続と腰抜かしそうになりましたよ」
「正直私もびっくりしてますよ、それは。生徒達が一生懸命力を合わせて共に戦って上手く噛み合ってくれたおかげかな、と」
立見の顧問ではあるが幸は自分は対して強くさせてないと思っており、生徒達が自分で動き考え努力を重ねた結果だと考えていた。
「それに関してはうちら最神も一緒ですわ、あの子らが勝つ為に、優勝する為に必死で色々考え過酷な戦いを勝ち上がって来た。その努力は…無駄にしたくない」
言葉静かながら石神は最神の教え子達の努力を実らせようと、この立見戦なんとしても勝つという気持ちが現れて来ている。だが幸も立見の教え子達を勝たせたいという気持ちは譲らない。
「今日の試合、よろしくお願いします」
「こちらこそ、良ぇ試合にしましょう」
最後に軽く走り込んでアップを終わらせようとしている弥一、これが終われば後はロッカールームへと一旦引き上げて試合開始の時を待つのみだ。
そこに想真の走る姿が映り彼は走る弥一とすれ違う。
だが彼の心は弥一にハッキリと伝わって来ていた。
「(どっちが高校最強のリベロか決めようや)」
弥一、想真の2人は共に同じDF。同じリベロ、想真としては同じポジションの弥一に負けられない強い思いがある。
「(どっちでもいいけどね、無失点でこっちが勝てれば)」
一方の弥一は高校最強リベロにそこまで執着はしていない。彼が執着しているのはただ一つ。
完封勝利のみだ。
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