第178話 新たな年を迎えて


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「Buonannonuovo!」


「え、なんて?」


「イタリア語であけましておめでとう、だよー♪」


「普通に言えってー、まあ今年もよろしくお願いしますって事で」


 年が明けて新年を迎えた元日、立見の1年組で初詣に行こうとグルチャで事前に話しており彩夏も含めた彼らで朝から立見の神社へと来ていた。


 1年メンバーで紅一点の彩夏は蒼い晴れ着を着ており華やかな感じだ。


 そこに弥一が陽気に流暢なイタリア語で新年の挨拶を合流と同時に一同へとする、今年もマイペースな感じは健在。


 元日の神社は家族連れに弥一達のような学生達、更にカップルと色々な組み合わせで大勢の人々が来ていた。


「えーと…?神社に来た時の初詣でのお参りの仕方、入口の鳥居を潜る前に会釈をして境内へと入る」


 摩央はスマホで正しい神社のお参りのやり方について検索、日本古来の礼儀作法も検索すれば一発で出て来る時代である。


「あ、潜ってた…!」


「戻れ戻れ、今なら神様やり直し許してくれる。多分なー」


 先にうっかり潜ってしまっていた武蔵、それに川田は戻って来いと声をかけて武蔵は焦りつつも鳥居の入口まで戻る。



「会釈って何だっけ?」


「おじぎですよ~、皆で鳥居の前で頭を下げましょう~」


 会釈の意味を知らなかった弥一、彩夏からのんびりと教えてもらうと1年組は揃って鳥居の前でその会釈をしてから境内へと入って行く。


「データマン、次はー?」


「俺を呼んでくれれば応えるAIと思ってねぇかそれ?手水舎の水で心身を清める、だ」


 鳥居を潜ると参道の脇にある手水舎、呼び方としては「ちょうずや」「てみずや」「ちょうずしゃ」「てみずしゃ」といくつかの呼び方が存在しているようで彼らは「てみずや」と呼ぶ。


 この手水舎の水でそれぞれ手を洗い清めると次へと進む。


「これで御神前へと進む、だな」


「賽銭箱には五円玉とか五十円玉を捧げた方が良いって聞いてる、穴が開いていると見通しがよい、運が通ると言われてて賽銭に相応しい硬貨らしいぞ」


「あ、五円玉あったかなぁ…?五十円玉はある…」


 相変わらずスマホで参拝手順を調べている摩央、賽銭箱に入れる硬貨はその二つが良いと優也は知っておりそれを聞くと大門は自分の財布に五円玉があるのかどうか調べる。今の所五十円玉だけは確認出来たようだ。


「五円玉と五十円玉を組み合わせるとより縁起が良いそうだよ、五円玉四枚だとよいご縁、五円玉三枚と五十円玉二枚でいいご縁ってね」


「115円ってコロッケ2個買えちゃうじゃんー、神様にコロッケ2個奢るような感じだなぁ」


 翔馬もそういうのを知っているようでそれを聞いた弥一はコロッケが頭に浮かぶ、食べたいと思ってしまうが今日は間違ってもそういう揚げ物は食べてはいけない日だ。


 明日には選手権の3回戦が待っている、明日の試合で影響が及ぶ物は前日に食べないように弥一もそこは気をつけていた。


「賽銭箱の前に立って会釈、それで賽銭箱に賽銭を入れて二礼二拍一礼だ」


 摩央から検索で教えてもらうとそれぞれが財布から五円玉や五十円玉を取り出して賽銭箱へそっと入れて行く、乱暴に投げ入れるのは良くないという事で此処は丁寧に行う。


 そして二礼二拍一礼をする中で一行はそれぞれ願い事をする。


 怪我が無いように、今よりもっとサッカー上手くなれるように、立見が選手権で優勝出来ますようにとサッカー部関連の願いあれば彼女が出来ますようにというのまであったりした。


 そんな中で弥一の願いはというと。



「(今年も美味しいご飯いっぱい食べさせてください、本場大分の鳥唐揚げとか人気店のオムライスとか限定の絶品チーズケーキとか、えーと後は…)」


 サッカーでの願いよりも美味い食事を食べたいという欲の方が勝り、そちらの方を神へと願っており食べたい物が多すぎてかなり欲深い。


 願う時間としては弥一が一番長く彼が願い終える頃には他の者が弥一を待っていたという状態だ。



 こうして初詣のお参りを終えると屋台でベビーカステラを購入、他にも色々出店はあるが明日の試合を控えてる身である彼らはこれぐらいは口にして初詣の雰囲気を楽しむ。


 各自スマホで互いを写真に撮ったりと彼らの様子は普通の高校生と変わらない、これが実は創部2年で快進撃を続けるサッカー部の高校とは学生服を着てなければほとんど思われないだろう。



「摩央ー、そういえば明日の相手何処だっけ?」


「何だよ見てなかったのか?」


「昨日は大門や友達や桜見の皆とパーティー状態で楽しかったからさー、その後は家帰って寝ちゃったし」


 2回戦進出の後に大晦日、大門の実家である中華食堂の飛翔龍にて存分にご馳走を堪能し対戦相手を全く調べていなかった弥一。


 ふんわりとして甘さ控えめのベビーカステラを美味しく味わう。


 まあ大晦日だからしょうがないかと摩央は責めず同じベビーカステラを食べながらスマホで対戦校を表示する。



「北海道代表の海幸(かいこう)学園、2回戦は0-0までもつれてPKで勝ち上がってる。粘り強い守備が自慢でGKもファインセーブを連発していて調子が良く此処まで2試合連続無失点だ」


「うちと同じく守備が長所のチームって事か」


 北海道の海幸学園は1回戦を1-0、2回戦を0-0のPK勝ちと得点力は低めだが高い守備力を持っている。北海道予選では失点2で終えていた。


「PKまで行ったんならその分結構精神的にも消耗したりしてそうかな?」


「試合開始時間はうちの方が早くて向こう遅かったりしたから、ダメージは残ってそうだよな」


 それぞれが明日の試合に向けて話し合っており、弥一はその中でベビーカステラを食べつつスマホで他の試合結果をチェックしていた。



 勝ち進めば準決勝で当たる最神は昨日の2回戦が初戦であり3-0と安定した試合運びで勝利し次へと進んでいる。


 反対ブロックでは真島が2-0、鳥羽がフリーキックを含めた2ゴールでこちらも3回戦進出を決めていた。


 その中でも派手な勝ち方をしたのは絶対王者の八重葉。


 照皇がハットトリックを達成する3点だけでなく大城のヘディング、村山の技ありシュートもあって初戦を8-0と大勝。照皇は3点を取ってからベンチへと下がっている。


 早くも王者の前に死角は無いという見出しの記事が出る程に際立つ八重葉の勝利だった。



 明日の3回戦が各校にとって新年最初の試合、年が明けて早々に過酷な試合が待っている…。

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