第158話 天才達との再会


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 かつて天才と呼ばれる者がサッカー日本代表で君臨していた。


 パワー、スピード、テクニック、全てにおいて日本最高峰を走りアジア最優秀選手に選ばれた実績も持つ。


 そんな彼の力を持ってしてもオリンピックのメダルに届かずワールドカップのベスト16を超える事が出来ないまま彼は引退を迎え、それからは監督としてチームを導く立場となる。



 工藤康友(くどう やすとも)


 今年のJ1リーグで東京を優勝へと導き名将としての地位を40歳になる前に既に手にし、オリンピック、またはA代表監督へ次になるのは彼だと多くのファンが答える程だ。



 その彼がノートパソコンに映し出されている映像を前に眉間のしわを寄せる難しい顔でそれを眺めていた。



『ゴール!王者八重葉止まらない、3ー0で更に突き放すー!一体誰が、何処がこの絶対王者を止められるんだー!?』



 先日行われた静岡予選決勝、王者といえど全国へ飛び立つ前に敗退してしまうかもしれないサッカー王国の激戦区と言われてきたが彼らは苦もなくあっさりと決勝まで来た強豪校を寄せ付けず点差をつけていた。


 エースストライカー照皇を中心とした攻撃陣と190cmの大型DF大城を中心とした守備陣、攻守で圧倒する決勝戦。



「お前の相手になる者はもう日本の高校サッカーではいないだろう、去年既にお前と八重葉は偉業を成し遂げた。インターハイ、選手権、高円宮杯と」


「ああ、自分が言うのもなんだけどな。八重葉に集ったサッカーエリートという名の化物集団のおかげさんで全部行けたよ」


 元日本代表の天才と同じ家でリラックスしてくつろぐ高校男子。


 天才工藤康友の遺伝子を受け継ぐ一人息子の工藤龍尾、静岡の寮暮らしだった彼は東京で行われる選手権に備えて東京にある実家へと帰って来ていた。




「タイトルは全て取った、高校サッカーに居てもこれ以上の成長は無い。一刻も早くプロに来るべきだ」


「分かってる、今度の選手権で優勝して親父の居るプロの世界へ飛び込む。それが俺の高校サッカーのフィナーレだよ」


 龍尾はまだ2年であり高校サッカーはまだ1年続けられるが父、康友はこれ以上龍尾がそこに居る事を良しとはしない。


 プロへの登竜門と言われる高校の舞台で龍尾は八重葉と共に高校タイトルを総ナメし既に充分過ぎる結果を残している、ポジションは現役時代の父と違うが10年に1人の逸材、その天賦の才を見せつけて高校No1GKの座を揺るぎないものとした。



 彼にこの日本の高校サッカー界はあまりに狭い、早く舞台をプロへ移し本格的に始動し活躍すれば近いうちにオリンピック、A代表の正GKとしてやって行くのも決して夢物語ではない。


 近年の日本には腕の立つGKというのが中々現れて来なかった、日本で名キーパーと呼ばれても世界のストライカー相手にDFの守備もろとも破られる事が多々あって日本は守備が駄目だと散々言われて来ている。


 世界だけでなく同じアジア相手でも中々完封が出来ない時もあって守備は不安視されるが、龍尾はそれを払拭する可能性を持っているGKだ。


 親の贔屓目と思われそうだがこれまで数え切れない程にプロ選手を見てきた康友は龍尾なら通じると確信していた、その為に早くプロに上がってほしいと誰よりも願う。



 その道を早く進む為に龍尾は今度の選手権を高校サッカー最後の大会にすると康友と共に決めていた。













「取材ですかー?」


 立見高校の校長室に呼ばれた弥一、優也の2人。目の前には校長席の椅子に座る校長の姿。彼らはアナウンスで呼ばれ校長室へと来ており幸も彼らに付き添う形でこの場に居る。


「ああ、インターハイに続き選手権も全国出場を果たした彼らを早いうちに取材したいとの事だろう。無論キミ達の意思は最優先だがね、今度は他校も交えてという形になるそうだが」


「受けます受けますー、何処と一緒かなー♪」


「出来る事だったら…受けます」


 校長の言葉に弥一は何時もの明るい笑顔で取材を快く受け、優也は表情を変えず取材に応じる。


 有力選手である弥一と優也への取材は梅雨の時期の予選でもあった。


 立見の守備を支えながら数々のスーパープレーを披露した弥一、後半に出場し高い決定力でゴールを決めて歳児タイムで有名となった優也。



 高校サッカー界に彗星の如く現れたニューヒーローとも言える存在を記者は放っておかないだろう、立見自体も此処まで春からの公式戦をずっと無失点で来ているのだからそこも興味惹かれたのかもしれない。



「うむ、では受けるという事でよろしいかな高見先生?」


「生徒達がこうおっしゃってますから、彼らに任せようと思います」


 最後に校長が幸へと最終確認を行うように視線を向けると幸はそれに頷いて答える。



 今度は立見以外の他校も交えての取材、それは翌日行われる事となってその日2人は全体練習へと戻り今日の日課をこなしたのだった。










「うわー、北海道以来の豪華なホテル~」


 ホテルのロビーにあるフカフカな椅子へと腰掛け、周囲を見回す弥一。


 都内でも高級という方に入るホテルが取材の場所と向こうは中々豪華な場所を指定してきた、プロでもないただの高校生を取材するのに少々規模が大きいのではと思えてくる。


「何を聞かれるか知らないが…手の内とかそういうの調子乗ってポロっと言わないようにしろよ?」


「分かってるって、あ~ふかふか~♪」


 選手権の前に立見の手の内を見せて対策されでもしたら全国の戦いで大きく不利となってしまう可能性がある、チームの迷惑になるような事は避けようと優也は弥一にそう伝えると弥一は座り心地の良いソファーを堪能していた。


 こいつは分かっているのかと弥一の姿に優也はため息をつきたくなってくるのをペットボトルのミネラルウォーターと共に飲み込んでおく。


 立見サッカー部への取材という事で弥一と優也は部のジャージをそれぞれ着用して来ている、豪華なホテルとは場違いに思えて来るが記者の方が表紙の為にジャージにしてほしいとの事だった。



 今日は他校も交えての対談という形だが、その相手はまだ来ていない。


 来ていないが弥一達、そしてこれから来るであろう相手の方もお互い今日一緒に対談となる相手を知っている。




 そしてその相手はやって来る、弥一達と同じジャージではあるが当然ながら立見の物ではない他校の物だ。


 先程まで豪華な椅子を堪能していた弥一も彼らが来ると意識はそちらへと向いていた。





「よお久しぶり、立見の1年坊主達」


 現れたのは優也と同じように表情を変えず冷静沈着な男、八重葉の2年エース照皇。


 弥一達へと軽く右手を上げて挨拶し笑う緑の帽子を被った男、同じく八重葉の2年GK龍尾。



 今回は絶対王者八重葉を交えての対談であり、立見から攻守で活躍する弥一と優也が来たように八重葉からも攻守を支える2人の天才が出て来て再び彼らは出会う事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る