第143話 超攻撃的なチーム


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「音村学院が負けたぁ?」


 準決勝が終わり立見がロッカールームにて勝利の余韻に浸っていると、同じAブロックで立見とは別でもう一つの準決勝が行われていた。


 そこで摩央からその場の立見イレブン達に伝えられたのは決勝に勝ち上がって来るであろう音村学院の敗戦が知らせられたのだ、それに対して間宮は着替える手が思わず止まり意外そうな表情を浮かべる。


「はい、5-3で西久保寺(にしくぼでら)高校が決勝進出です」



 西久保寺高等学校。


 名門校ではない新鋭チーム、聞き覚えがない名であるがそれについては摩央が詳しく調べていた。


「西久保寺サッカー部は創部5年、これまで最高戦績はインターハイ予選の1次予選トーナメント進出。それが今年は2次トーナメントまで進んで今回の選手権東京予選ではノーシードから勝ち上がってます、これまでの総得点は36で失点は11」


「こっちより試合数多いとはいえ取ってんなぁ」


 立見が免除されている最初の3試合を彼らは戦っており多くのゴールを決めている、相当攻撃的なサッカーと思われ失点の方もそれなりに重なって2桁まで相手に得点を許していた。


 彼らが無失点で終えた試合は12-0と派手なスコアで勝利した初戦の方だけだ。



「そこまで、とりあえず今日の所は各自休み明後日にまた改めて話しましょうね。皆お疲れだと思うから!」


 手をパンパンと叩き話しを此処で止める幸、まずは試合で消耗した身体を休める方が大事であり各自帰り支度をしてロッカールームを後にする。








 インターハイの予選と違い選手権予選の決勝は1週間後、夏の厳しい日程と違いこちらはまだ楽な方で何時も通り完全休養を経てから月曜に立見高校へ通う。


 朝練に授業と一通り終わると放課後を迎え、立見サッカー部員達は部室に集まっていた。


 その彼らの前にある大型モニターから映し出される映像に全員の目が行く。



 映し出されたのは立見と同じブロックでもう一つの準決勝の試合、音村と西久保寺の戦いだ。


「音村の方はやっぱりトータルフットボールだよな」


 立見にとって難敵である音村学院、3年である豪山は彼らと何度か試合をしてきたので音村のサッカーを知っている。


 全員攻撃、全員守備のトータルフットボール。キャプテンの3年島坂を中心に高い実力を持ち、この選手権で彼らはそのサッカーに更なる磨きをかけてAブロックの優勝候補にも上げられていた。


 その音村学院に勝利した西久保寺高校、どのようなサッカーを展開するのかと見てみれば試合前のフォーメーションに皆が注目する。



「前線にFW4人の中盤に2人の4バック…4-2-4かこれ、中盤の2人の運動量えぐいぞ」


 モニターに映された西久保寺のフォーメーションを見て成海は呟いた。


 4-2-4は中盤の2人が攻守を兼業する攻撃的フォーメーション、前線に攻撃の枚数を増やしてFW4人に中盤の2人がそのサポートに入る。


 それは守備の時もそうだ。DF4人に加えて中盤の2人も守りに参加、MFは運動量が求められるポジションだがこのフォーメーションの場合は特に高いスタミナは必須だ。



 そして試合は音村のキックオフで開始され、ボールを持つ音村の選手達に対して序盤からFWの選手達が積極的にプレスをかけに行く。


「うわ、いきなり凄い行くなぁ」


 音村DFへとFW達4人がそれぞれ詰め寄って行く姿に影山は序盤ゆっくりかと思っていたようで、プレスにいきなり走る西久保寺FWにやや驚く表情を見せる。



「彼らの特徴は見ての通りハイプレス、序盤からでも積極的に相手自陣でボールを持つ相手へと詰めて行きショートカウンターへと繋げる」


「北村のリトリートとは逆ですねー」


 サッカーの守備戦術の一つであるハイプレス、相手陣内でボールを奪う為に前線から積極的にボールを持つ相手へとプレッシャーをかける。西久保寺のFW4人はそのハイプレス戦術の為だ。


 京子が西久保寺の戦術について説明しているとフォルナの世話をしている弥一が会話に参加、自分達が試合した北村のサッカーを頭で思い出しつつ言っていた。


 弥一の言うリトリートは自陣に引いてブロックを作りゴール前を固める守備戦術でリトリート守備と呼ばれる、北村が行ったサッカーがまさにそれであり次に戦う西久保寺はそれとは対極に位置するサッカーを行う。



 序盤から来るハイプレスに音村DFはパスミスが生まれ、乱れた所に西久保寺の方がボールを奪いそのまま抜け出して行きGKと1対1。


 突進してきたGKを躱し、FWが無人のゴールへ蹴り込んで西久保寺が先制。序盤の奇襲に成功した形だ。



 そして音村のキックオフで再び試合が再開されるとまた前線のFW達がハイプレスを仕掛ける、先制した事により勢いに乗っているように見えた。


 しかしやられっぱなしではない音村、素早くパスを回して音村のプレスを掻い潜ると右サイドへとスルーパスが出され島坂が抜け出していた。


 右に抜け出す島坂、サイドを走るとゴール前に走って行くFWへと低いクロスを右足で上げてFWはこれにダイレクトで合わせ蹴り込む。


 西久保寺のGKはこのボールに届かず今度は西久保寺のゴールネットが豪快に揺れて音村が同点に追いつき1-1。


 序盤から殴り合いとなっていた。




 西久保寺は前線でハイプレスをかけていくと同時に攻撃の時は両サイドバックも積極的に上がって行く、それはまるで4-2-4というよりも2-4-4に近い。


 とことん攻撃的であり失点のリスクを恐れていない、それが上手くはまり此処まで多くの得点を取っているのだろう。


「FWで特に鍵となるのは中央の182cmの長身ストライカー栄田雅史(さかえだ まさし)、チーム1の瞬足を誇る辻道也(つじ みちや)。この2人が特に多くの得点とアシストを記録してる」


 FWの中でも特に要注意な2人、黒髪で短髪の182cm長身で高さ自慢のFW栄田と茶髪で短髪であり身長はさほど無さそうだがスピードは西久保寺で随一の辻。その2人がモニターに映し出されると京子は2人を要注意と見て部員達へとマークするよう伝える。



「ホントにこれ、殴り合いだよなぁ」


「だな…両方攻撃的ってせいもあるだろうけど」


 そう話す川田と武蔵の前に映るモニターでは辻が左サイドを走り、ゴール前に居る栄田へと正確な左足のクロス。


 これに栄田はヘディングと見せかけ頭で落とすポストプレー。そこに上がっていた中盤の選手が右足で蹴り込み音村のゴールネットを再び揺らす。



 壮絶な点の取り合いは続き、最後には栄田が5点目となるシュートを右足のインステップキックで豪快に決めてダメ押し。


 これが5-3のスコアで終わった準決勝。



 失点は多いもののゴールをその分決めており取られたら取り返す力を持っている西久保寺、リスク覚悟の超攻撃的サッカーと立見はAブロック決勝戦を戦う。

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