第140話 来年の悩みを解決するには


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 準決勝へ勝ち上がった立見高校、これで東京のAブロックBブロック共にベスト4が出揃う。


 Bブロックの方では桜王と真島が順当に勝ち上がり、立見の居るAブロックは立見の他にも音村学院が勝っており立見が彼らと戦うとするなら決勝になるだろう。



 その立見は今日も練習、無論試合の翌日の完全オフによる休養を経てからだ。


「もっとプレス厳しく行け!パスの方は判断素早くだ!」


 フィールドで数人がかりがボールを持つ相手へ迫り、ボールを持つ方は迫り来る相手を躱しターゲットへとパスを出す。


 動きが甘いと成海の声が飛ぶ。



 実戦形式の練習、片方がパスを回して片方がプレスをかける。パス回しとプレス、攻守の練習であり更にパス側がプレス側にボールを奪われたらそこからすぐ攻守は交代。


 パス側がプレス側となってプレス側がパス側となる。


 攻撃から守備、守備から攻撃の切り替えの意識を素早く行う為だ。



「中盤の枚数多い4-5-1のシステムを使ってるからプレスの強化ですね~」


 白い猫のフォルナへとキャットフードを皿へと盛ってご飯を上げつつ彩夏はフィールドで動く選手達を猫の世話しつつも見ていた。


「元々プレスってあの通り走り回るから体力の消耗が激しいからな、だから基本的なスタミナ強化トレーニングに加えて省エネ走法のナンバ走りが活きて来るって訳だ」


 摩央が見つめるその視線の先で走り回る選手達、腕を必要以上に振らずの走法を最初の頃と比べれば物に出来ている。


 4-5-1は中盤の枚数が多いシステムなので中盤のプレスは必要不可欠、MFには特に運動量が求められる。


「加えてこれまでの試合経験とか合同練習とかでチームはレベルアップしていってるし、どんどん強くなって楽しいね立見ー♪」


「ああ、どんどん強くなってる…」


 そこにマイペースにして明るい声が何時の間にか摩央と彩夏の会話に参加していた事に摩央はハッと気付く、見ればそこには右手でスポーツドリンクを飲む弥一が隣に立っていた。



「サボりかよ弥一」


「人聞き悪いなぁ、ひとっ走りしていて今休んでいるだけだよー」


 弥一の方は別のグループで軽いランニングに出ていて今帰って来た所、それでドリンクを飲んでいる時に2人の会話が聞こえてきたのでそこに参加してきたという訳だ。


「ただ、4-5-1かぁ…」


「何か気になる事でもあるんですか弥一君~?」


 練習風景を見つめてふと弥一は呟いた、その声が聞こえ彩夏はご飯を食べるフォルナから弥一へと目を向ける。


「今のシステムって成海先輩や豪山先輩がいるから機能してるんだよね、長身で身体の強い豪山先輩が1トップで身体を張って成海先輩が中盤の皆を引っ張ってくれてるおかげで」


 フィールドに居る成海と豪山、弥一の目がその2人を捉えていた。


 立見のキャプテンと副キャプテンは今年3年生でこの選手権が高校最後の大会、来年はその2人がいない。


「あの2人がいなくなった後に今のシステム、ちゃんと機能するのかなって」


「ああ…そうだよなぁ、要の2人だし」


 立見の4-5-1は成海、豪山が居て成り立つシステム。中盤をリードする成海に長身で身体を張れる豪山の2人がいなくなればシステムは機能しなくなる可能性大だ。


 その2人に代わる選手も層の薄い立見にそのような者は今いない。


 来年運良く即戦力となれそうな選手が入ったとしてもすぐにそれが成海や豪山の代わりになる、その望みは薄いだろう。どんなに優れてようが中学サッカーから高校サッカーともなれば試合時間はまた変わる。


「来年どうなるんですかね~、海外からすっごい強い外国人留学生の人が立見に来てくれるとか~?」


「漫画みたいだな、そうなったら。つか来るとしたら…弥一関係でイタリアから来る可能性ある訳だよな?」


「えー?向こうで立見行きたいとか言ってたの多分いないと思うけどー…日本に観光行きたいっていうのは何人かいたかな」


 来年の話となり彩夏は海外からの留学生に期待すると、それが来るのだとしたら摩央は弥一がイタリアに元々留学していたのを思い出し、イタリアから日本に来る者がいるのでは弥一に聞くと向こうの知り合いで日本に留学するというのは弥一には聞き覚えが無い。


 代わりに聞いたのは観光に行くなら此処が良いという日本のスポットをそれぞれが言っていったぐらいだ。



「でもまあ、解決するなら一番良い手っ取り早い方法があるよー」


「なんだよ?そんな魔法の手段あるのか」


 しゃがみこんでご飯を食べ終えたフォルナの頭を優しく撫でる弥一、来年の問題を一気に解決出来る手段に心当たりがあるようで摩央が弥一にその方法はなんだと問う。




「成海先輩と豪山先輩居る間に選手権で全国制覇を今年達成する」


「…!」


 その場から立ち上がった弥一は摩央の目を見て迷いなく言い切る。


 彼らの高校最後の大会で優勝する、それで優れた選手達が立見に集って来るだろうと。当然言う程簡単な事ではない、むしろ最も難しいものだ。


「今年達成って、全国の強豪とか全部ぶっ倒さなきゃならないだろ…」


 全国制覇となれば避けられない全国の強豪達との戦い、夏に合同合宿をした関西の最神第一も強豪であり彼らも対戦となると要注意の高校。


 そして高校サッカー界の絶対王者八重葉学園。


 立見をPK戦で下してから彼らを止められる者は誰もおらずインターハイを圧倒的強さで連覇達成し、今年の選手権も間違いなく出て来るだろう。


 優勝候補筆頭として。



「おーい神明寺ー、次入るようにー」


「あ、はーい行きまーす!」


 そこに先輩部員から弥一へ声がかかり次の組に入るよう言われ、弥一はフィールドへと向かう。


 その時彼は途中で立ち止まり摩央や彩夏の方を見ると弥一は言う。


「対戦する相手は勿論全員倒すよ、誰が相手でも」


 弥一はその後にプレス側へと入り練習に入る。


 他がプレスに行ったかと思えば弥一だけは違う方向へと入って行く、かと思えばそこにボールが行って弥一はインターセプトに成功。最短時間での攻守切り替わりとなる。



「(相変わらずサッカーだと強気な奴、いいさ。お前が本気で全員ぶっ倒すなら俺だって全力でサポートするまでだ)」


 弥一とは初めて出会ってから半年程の付き合いとなる摩央、その中で彼が普段マイペースだがサッカーでは本気にして強気だというのが分かり今もそれは変わらない。


 彼は本気でライバル達を倒して全国制覇を狙っている。


 これに応えようと摩央もスマホで次の準決勝の相手について調べ始めていた、少しでもチームが楽に有利に戦えるようにと。




「よっ、と!」


 弥一へと迫るプレス、それに対して弥一は相手の頭上を超えるボールを蹴って先に居る優也へと渡す。


 次の試合や決勝戦、更にその先の全国に向けて弥一に立見サッカー部はそれぞれの技に更なる磨きをかけていく。

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