第8章 女神のエールと共に挑む秋の戦い
第124話 凛々しき女子からの誘い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
8月の暑い季節を練習しつつ休暇を繰り返し、無理なく効率的にチーム強化へと時間を費やしてきた立見。
最神との合同合宿を経て更に総合力や連携を高め、秋や冬に備える。狙いは勿論選手権、全国出場とその先の優勝だ。
更に時は経過して9月へと入り夏の猛暑がようやく和らぎ、見慣れた緑の葉が紅葉へと変わりを迎える時期。
「文化祭?」
放課後を終えてサッカー部の部室前でウォーミングアップのストレッチで身体を温めている弥一、傍でフォルナが座ってそれを見ている中でその話はスマホでスケジュール確認している摩央の口から出た。
「一昨年とか去年は選手権ので忙しかったりしたけど、今年は免除されて2次から登場だから参加出来る事になったんだってよ」
9月のこの時期、立見では文化祭が行われている。サッカー部はこの時期では支部予選に備え練習に集中しなければならないが去年の予選ベスト8、更に今年の夏に東京予選を優勝しているので立見は途中の試合を免除。
今年の東京予選の選手権は2次トーナメントから立見が登場となる、その時は春と違い全チームが立見に注目して倒しに向かってくる事だろう。
「文化祭ってどんな感じなんだろ?」
「え?さあ、なぁ…」
「あれ、摩央もそこは詳しくない感じ?」
「俺そういう祭りとかあんま出てなかったから」
文化祭について詳しくない弥一は摩央に聞いてみるが彼の方も詳しくはない、互いに文化祭には疎いようで具体的なイメージは出て来てなかった。
「学園漫画とかで言うなら、焼きそばやフランクフルトの屋台やったり劇だったりバンドに漫才と皆の前で出し物を披露するとか」
現実の文化祭に詳しくないので摩央は漫画で見た知識から引っ張り出して来て語る。
彼が見てきた漫画では祭りにある食べ物の屋台を学生がやってたり、大勢の観客の前で出し物を披露して楽しませるというシーンがあった。
「それでうちの部は何をするのかな?」
「餃子や杏仁豆腐の屋台に決まったみたいだぞ、大門が文化祭の話を家でしてたら重三さんがすんげぇ乗り気になってさ。鉄板とか貸してもらって餃子の焼き方とか教えてもらう事になったんだよ」
「あー、何か乗って来てくれそうだよね重三さんなら」
他の運動部が屋台で定番の物をやるであろう中、他と被りにくい餃子と杏仁豆腐をチョイス。それも中華料理屋の人間による指導が入るのでかなり本格的な物になりそうだ。
大門の祖父、重三の性格を知る弥一と摩央は彼の指導する姿が容易に想像出来た。
「食べたくなって餃子や杏仁豆腐つまみ食いはすんなよ?」
「しないよー、売り物余ったら貰うけど」
美味しい食べ物に目がない弥一に摩央は自分達の作る物はつまみ食いしないよう釘を刺しておく、流石に弥一もそこまでして味わうつもりは無いが余ったら貰う事は考えていたようだ。
「売れ行き悪いって事だろそれ、良いから行ってこい」と摩央は弥一を練習へと送り出した。
この日はセットプレーの攻守、更に1対1や1対2等デュエルや数的優位不利の攻防を想定しての練習が行われて1日はあっという間に終了する。
翌日を迎え、何時ものように眠い朝を乗り越えて朝練をサッカー部の皆と共にこなした弥一は授業を受ける為にすっかり通い慣れて馴染んだ教室へと入る。
「ねえねえ、女子バレー部は文化祭何やるか決まった?」
「劇の方に決まりそうかなぁ。王子様役が笹川先輩なのは確定として」
「あー、分かるー!笹川先輩が王子様は絶対合う!その辺りの男子より似合うと思うからね!」
女子の方で今度の文化祭について話が盛り上がっているのは弥一の耳にも届く。
その辺りの男子より王子が似合うという辺り笹村先輩なる人物が女子というのは伝わった、どうやら同じ女子の間でも相当人気の高い人物らしい。
そういう事を考えている間に授業の時間を迎え、教師が教室へと入る。この日は弥一の苦手とする日本史から始まり弥一は個人的にいきなり正念場を迎えつつあった。
「あ~、乗り越えた~」
昼の休憩に入る頃には弥一は机に頬をつけており、序盤の修羅場を乗り越えた安堵感でいっぱいだった。
楽しみな昼休憩、購買部の美味い飯を食う楽しみが無ければ朝の授業を受けるモチベーションを保てなかったり午後の授業を乗り越える事は到底出来ない。
とりあえず後1分ぐらいこうしてようと机に突っ伏したままの弥一、その教室に突然の訪問者が現れる。
「失礼、キミ。このクラスに神明寺弥一君は居るかな?」
「!?あ、は、はい。あの席に…いえ、呼んで来ます!」
立見の女子制服を着ていて声をかけた1年の女子よりもだいぶ背は高い、艷やかな紫のショートヘアに凛々しく整った顔立ち。まるでモデルのようだ。制服のリボンが1年女子の黄色に対して長身の女子は緑。
つまり訪問に来た人物は2年の先輩となる。
「弥一君、弥一君!笹川先輩が君に用事だよ!」
「ふあ?」
そのまま夢の世界へ突入しそうになっていた弥一を止めるかの如くクラスメイトの女子に身体を揺らされ、強引に意識を覚醒させられると弥一は教室の入口付近へと視線を向ける。
此処で弥一と笹川なる長身の女子と初めて視線が合うと、弥一は席を立ち自分を呼んだ女子の方へと歩いて行く。
「えーと、僕に用事って?」
「此処だと少々騒がしい、場所を変えよう」
周囲を見ればサッカー部で注目される弥一とバレー部で人気の女子、その2人が共に居るのは自然と人々の目は向く物だった。
此処で気軽には話せないと弥一を連れて笹川はその場を後にする。
校舎の外へと出て来ると、ベンチに2人で腰掛けて座り話はそこで改めて行われる。此処は先程より一目は少なく落ち着いて話すには良い場所だ。
「えーと確か、笹川先輩でしたっけ。女子バレー部の」
弥一は朝に聞いた女子達の話を思い返していた、その時の話に出た人物と今目の前に居る人物を照らし合わせればそれが笹川なる先輩の女子というのが分かる。
「ああ、僕の方で正式に自己紹介させてもらうなら2年の笹川輝咲(ささがわ きさき)だ」
女子の方は堂々と自分の名前を弥一へと伝える、劇で王子役が似合いそうだと輝咲は言われてるが雰囲気や仕草を見て弥一もその役が似合いそうだと思っていた。
「っと、あまり長話をしてキミの貴重な昼休憩を潰す訳にはいかない。単刀直入で言うとしようか」
輝咲は弥一に用がある、どんな用事なんだろうと弥一は彼女の次の言葉を待っている。
「今度の文化祭で行われる女子バレー部の劇にキミも出てもらえないかな?」
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