第79話 火花散る決勝前
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
6月18日 日曜日
17日土曜日に代表が決まる準決勝の試合を乗り越えて来た2校がこの決勝戦の舞台に登場する。
夏の東京代表は既に決まっている、立見と桜王。
桜王は大方の予想通りだが立見の代表決定は最初全くほぼ全員が予想していなかった、真島が桜王と共に代表となる予想が多かったが立見はその予想を覆し決勝戦まで勝ち上がったのだ。
それも支部予選から戦い此処まで9試合連続無失点、更に途中出場の優也が9試合連続ゴールと2つの記録を伸ばし続けている。
真島を倒した勢いで立見が東京王者となるのか、それとも優勝候補筆頭の桜王が返り討ちにするのか、新鋭と名門による注目の試合だ。
決勝戦の会場、多くの観客に両校の応援により席が埋まっていきスタンドは既に満員。2校の応援席では応援の準備が着々と進められていく。
そんな中で早速歓声が上がる、先に会場に姿を見せた高校が現れたのだ。
真島を破り今年のインターハイ全国大会出場を決めた立見。彼らがフィールドへとウォーミングアップにやって来ていた。
「よ、弥一!今日もかましてくれよー!」
「歳児ー!10試合連続ゴールやってくれー!」
準決勝で活躍した弥一、優也への声援が特に多くなっており記録を支える攻守の要の二人なので人気は自然と高くなっていた。
観客への声援に明るく応える弥一に対して優也は黙々と軽くボールを蹴っている。
何時の間にかクールスナイパーという異名を貰って覚えられているので優也の反応はある意味裏切らなかった。
立見の選手達の動きは軽快であり前日の試合疲れを感じさせない程だった。
よく休んだり事前の食事だったりカステラが効いているのか、それとも決勝戦へのモチベーションの高さか分からないが動きが重いという事は無い。
会場に来たのが立見は12時だがそれより1時間半前に彼らはカステラを含めた軽食を済ませている、試合に合わせてのベストなエネルギー摂取をしていた。
6月なので蒸し暑さが敵となるだろうから摩央や彩夏達がタオルや飲み物を多めに用意とベンチも総動員で動く。
決勝に向けて出来る事は全部やってきた、後は試合する彼ら次第だ。
「「大門頑張れー!」」
弥一、優也への声援が多い中で大門へ声援を送る声が聞こえた。
その声に大門が気付き正体はすぐに分かった。
「皆来てくれたんだ」
「お前何時の間に可愛いサポーター付いたんだな」
同じキーパーのアップに付き合う安藤は大門に対してからかうように言いつつ彼と同じくスタンドの方へと視線を向けていた。
視線の先には小学生ぐらいの子達、大門が彼らにサッカーを教え、共に汗を流す仲間でもあるFC桜見の子達がこの決勝戦を見に来ている。
その声援が大門にとって嬉しく思い心強かった。
彼らの期待に応える為にもこの試合も精一杯やろうと大門は心に決めた後に安藤と共にアップを続ける。
そこにまた歓声が大きくなる、立見の対戦相手が此処でようやく姿を見せたようだ。
安定した強さで順当に勝ち上がり、立見と共に昨日東京代表を決める準決勝を4-0で制した現東京No1チーム桜王学園。
歩いているだけで王者としての貫禄が伝わって来るのは練習試合の時の八重葉以来になる。
「(ふうん、代表決まったから決勝の連戦となるこの試合はある程度落として来るのかと思ったけど…取る気満々じゃん)」
彼らの心を弥一は密かに覗いていた。
いずれもが決勝戦に勝つ、そんな強い気持ちを持って決勝に臨んでおり前日戦い代表を決めた安心から決勝のモチベーションはそんな高くないのでは?と思われたがそんな事は無かった。
名門校、王者としての意地とプライドか、彼らはこの東京王者の座を取りに来ている。
彼らは立見の使うフィールドと反対側のフィールドにてアップを開始。
「あ、ボールくださーい」
「ん?おう」
弥一は田村へとボールを要求すると、田村は弥一へと軽くボールを蹴り渡す。
「(とりあえず一発見せとこ!)」
蹴り渡されたボールを綺麗にトラップし、少しリフティングしてボールを慣らしてから地面へと置いた。そして少し距離をとり離れると、ステップを踏んで右足でボールを蹴った。
ゴールマウスから25m程、それは昨日弥一がスーパーゴールを決めた時とほぼ同じ距離で弥一は再びキック。
ボールは完全にゴールマウスの右へと外れるボールと思われたが急激なカーブがかかって曲がりゴールを捉えている。
そして吸い込まれるようにゴールマウスへと入り観客からは驚きの声が上がっていた。まさに今のは昨日のフリーキックの再現だ。
そのキックは桜王の面々も見ており、多くが弥一の今のキックを目撃した。
「大丈夫か?試合前にあれ見せて…」
自慢の武器をそんな披露するのはパフォーマンスとては大げさ過ぎる気がして武蔵は弥一に駆け寄って声をかける。
「ちょっとした足慣らしも兼ねてね、見なくてもどうせ昨日の試合動画で向こう見てそうだし。改めてそう思わせといても良いかなって」
自分のフリーキックはもうとっくにバレている。
それは弥一とて百も承知であり、その上で弥一は昨日と同じキックを此処で蹴ったのだ。
まるで今日もこれで桜王のゴールを狙う、今日もこれを蹴ると桜王にそのイメージを強めさせようとしているかのように。
桜王も立見の準決勝、真島との試合を無論チェックはしていて弥一のフリーキックは見ていた。
この試合もあるかもしれない。あのワールドクラスのフリーキック、そのチャンスがあれば弥一が上がって蹴るのかもしれない。
今の弥一のキックを見てそのイメージは益々強くなる。
決勝戦は笛が吹かれる前から既に始まっていた。
「よ、優也」
「…冬夜」
黙々とアップする優也に近づいて来る人物、桜王の1年で優也の旧友である広西冬夜が話しかけて来た。
「人生分からないもんだよな、入った高校分かれたと思ったら1年目でこんな大舞台で戦うなんてよ。それもお前は今有名人だ」
「それについては俺もビックリしている」
「そうは見えねーわ」
互いに違う高校へと分かれ、それがサッカーの大会。それも公式戦の決勝戦と漫画やドラマのような展開を思わせる。そんな事は優也も冬夜も予想しておらず顔に出してないとはいえ優也も驚くような事だった。
「派手なパフォーマンスを試合前に見せる事もあるもんだな、今の準決勝決めたあれだろ?」
「…」
派手なパフォーマンス、つまり弥一のキックの事だ。それを冬夜は言っており優也は答えない、手の内を明かすような事はチームの為に言わない。いくら友人相手とはいえ軽々しく言うべきではなかった。
「まあ、答えられねぇか」
返答は冬夜の方も期待していない。元々彼が口数少ない事を立見より付き合いの長い冬夜は分かっていた。
「ただこれだけは言っておく。10試合連続ゴールはさせねぇ、東京王者になるのは桜王だ」
口数の少ない旧友へと冬夜は告げる。この試合優也に活躍はさせない事を、そしてこの試合を制するのは桜王だと。
「負ける気は無い、俺も。立見も」
それに対して優也はハッキリと返答。立見が試合に勝つ、そして密かに10試合連続ゴールを狙っている。
互いに譲る気は無い。優也と冬夜の間に火花が飛び散る中、決勝のキックオフ開始は刻一刻と迫っていた…。
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