第75話 獲物を狙う眼
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
前半はもう40分を過ぎ、それほど長いアディショナルタイムも取ってはいない。
審判の笛はもうすぐ吹かれるだろう。
それでも集中力を切らさず真島の攻めを立見は守り、凌ぐ。
クロスボールに対して間宮が頭でクリア、更に浮いて流れたボールを今度は川田が頭で前へと運ぶ。
此処に鳥羽が再び詰めて行こうと走って来る。
だがその前に審判の笛が吹かれる、前半終了の笛だ。
『此処で前半終了、立見対真島の準決勝は0-0。立見の成海のミドルシュート、真島の鳥羽のフリーキックと惜しい得点チャンスはありましたがスコアレスで折り返しです』
『得点動きそうでしたが動きませんでしたね。どちらも最大のチャンスを逃し、凌いだので後半どうなるのか楽しみですね』
「驚いたよなぁ、鳥羽のキック良い所飛んでてゴールかと思ったし。あのキーパーよく止めたもんだよ」
「そうそう。ファールしてあの位置でのフリーキック、立見の無失点これで終わりかって俺も思ったし」
「…………」
他校のジャージの格好をした生徒達が先程のシーンを振り返り会話している、その後ろで一人静かに腕を組んで試合を静観する同じジャージを着る男が居た。
彼らの姿にTVカメラは見つけ、注目した。
『おっと、これは驚きだ。静岡予選を制して早々に夏のインターハイ全国出場を決めた王者八重葉の面々がこの準決勝を見に来ています!』
TVカメラは真っ直ぐ八重葉に、腕を組む照皇誠へと向けられる。
その照皇の視線の先には川田と談笑しながらベンチへと引き上げる弥一が映っていた。
「はぁ~」
真島のロッカールームで鳥羽は大きく息をついて椅子へと腰掛けて、マネージャーから渡されたスポーツドリンクを飲んで喉を潤す。
「なあ…俺のキック、コース甘かったか?」
「甘くねぇよ。むしろエグい所突いてて完全に1点だって思ったぐらいだ」
傍に居る峰山へと鳥羽は自分のキックは甘かったのかと尋ねるが峰山からすれば鳥羽のフリーキックは100%に近いパーフェクトな物だった。
少なくとも彼のキックが不調だという事は無いだろう。
自身でも確かなキックの手応えを感じており行けると思っていた、だが結果はあの通りだ。相手GK大門が鳥羽のフリーキックを止める事に成功、大柄とはいえ1年のキーパーにあのようなスーパーセーブで凌がれるのは想定外だった。
「切り替えるんだ鳥羽、あれは相手のキーパーを褒めるしかない」
そう言って声をかけたのは真島の監督。このまま動揺が後半にまで持ち込まれてはならないと監督は全員へと後半に向けて話しだした。
「前半0-0、まだスコアレスだ。ボールはこちらの方が持っている、攻撃も守備も粘り強く行けばいずれまた俺達にチャンスはやって来る。それを今度こそ逃さなければ良い、それだけだ」
監督の話に真島の選手達は皆が真剣になって耳を傾け、聞いている。
「冷静に落ち着いて真島のサッカーをすれば必ず勝てる、地力では俺達が上だ。自信を持て!」
「はい!!」
「よーし、後半だ。下手にプランを変えず今まで通り攻めてくぞ!」
この一声に真島イレブンは改めて引き締め、気合いを入れ直す。後半も前半と同じように特に大きな変更はなく、真島のサッカーに変更は無い。
ボール支配率は真島が上、これを下手に動かせば立場が一転するかもしれないので真島はプランを変えない。
変える時があるとすればそれは立見が動く時だ。
「前半0-0、大きなピンチはあったけどなんとか凌いだ。これはかなり大きいと思う」
立見のロッカールーム、各自がドリンクを飲んだり汗を拭いて席に座り休む中で成海は京子と共にホワイトボードの前に居て後半に向けて話している。
「けど流石昨年の東京代表だな、攻めだけじゃなく守りも硬い。マークも簡単に振りほどけないしよ…」
この試合豪山は満足行くシュートを撃てていない、真島DFから徹底マークされているせいでそのチャンスは中々巡っては来ていないからだ。
「この流れでは前半と同じメンバーで行っても大きな変化は起こらない可能性がおそらく高い、なので後半選手交代をする。鈴木君に変わって上村君を後半から投入」
京子は交代の手続きを済ませており後半から武蔵が出場となる。前半から出場させるというのもあったが後半まで温存して武蔵のパスに慣れさせる前に、そしてハーフタイムで対策される前に此処で出す。
無論真島の方も武蔵については調べていて知っているだろうがデータと実際では全く違うはず、知られる前に立見のリズムを変える。
「武蔵、行けるか?」
「はい!勿論!」
成海に問われた武蔵は勢い良く答える、アップは出来ており出場の準備は出来ていた。
「優也、終盤のフィールド頼んだよー♪」
それぞれが後半戦に向けてフィールドへ戻る中、弥一は優也へと声をかけて終盤託すというのを改めて伝える。
「いいからお前はあの鳥羽を、東京No1ストライカーをぶっ倒して来い」
「当然」
優也からも打倒鳥羽を任された弥一、それぞれの役目を持ったままフィールドに、ベンチに分かれた。
ハーフタイムが終わりフィールドに選手達が戻って来る。その時たまたま弥一と鳥羽が同時に出て来て互いに視線がそちらへと向く。
「よぉチビ君、前半はしてやられたけど…この後半は立見の守りを破るぜ、宣言通りゴールの華を咲かせてやる」
鳥羽からゴールを取ると宣戦布告。不敵に笑いつつ鳥羽の目は弥一を射抜くように向けられている、このままノーゴールでは終われない。ストライカーとしてのプライドが現れて来た。
「ああ、鳥羽さん。ひとつ良いかなー?」
「ん?」
マイペースな口調で笑みを浮かべている弥一、だがそれは一瞬にして変わる。
「この試合もうあんたにシュートは無いから」
ぞく
笑みを消した弥一の視線、それに鳥羽は一瞬背筋が寒くなるような感じがした。
「(何だ…?この季節だってのに…つか今の目は…何なんだよ?)」
鳥羽がゴールという獲物を狙うように弥一も鳥羽という獲物を狙っている、その目が獲物を捉えて離さない。
後半戦、その狩りが始まろうとしていた…。
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