第66話 それぞれの高校の試合翌日


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 インターハイ東京予選も準々決勝まで進み、此処まで来ると強豪校の面々が順当に勝ち上がっていた。


 桜王が8-0と大差で下し、先制されたが試合をひっくり返した真島が4-1と逆転勝利を収めており東京予選の優勝候補2校が番狂わせを起こさせず勝利。


 更に北村高校も強豪同士の接戦を1-0で競り勝ち準々決勝に真島と試合をする事が確定。



 実力ある強豪校が勝ち残る中で注目されるのは新鋭の立見高校。


 守備では7試合連続無失点、攻撃では途中出場の優也による7試合連続ゴールと攻守で目が離せない記録を作っていた。



 去年の選手権予選では準々決勝で敗退している立見だが今年は勢いが違う、今年は行けるのではないかと期待を寄せる声も日に日に多くなる。





「鳥羽君、見事な逆転勝利!そしてハットトリックでしたねー」


「いや~…まあ良いボール来て蹴りやすい態勢でしたんで。パス出してくれるチームメイトには感謝ですよ、そうじゃなきゃ逆転ゴールもハットトリックも無理でしたから」


 真島高校、その校内の一室でエースの鳥羽へと取材が来ていて彼はそれに応じていた。何度も経験しているせいか緊張もなく取材に慣れてる印象だ。


「次は強豪北村との一戦となりますが意気込みをお願いします」


「勿論しっかりと勝ってその先も勝利し、全国への切符を逃さず掴んで行きたいと思ってます」


 次戦の北村、そして先の試合と全部勝ちインターハイに行くと鳥羽は言い切り表情は強気そのもの。此処で取材は終わり鳥羽は退出となった。



「(あ~あ、だり…取材する人が綺麗なお姉さんならまだ良かったけど冴えないおっさん相手じゃなぁ…)」


 取材の前では猫かぶっていた鳥羽、解放されて歩きながら軽く息をつく。取材の相手は30代か40代ぐらいの中年腹が目立つ中年男性であり鳥羽の望むような相手ではない事に内心乗り気じゃなかった。


 仮病でも使ってやろうかとも考えたが姿を見られていたので今更誤魔化しは出来ない、それで鳥羽は取材を受けたという訳だ。






「あ、あの?鳥羽先輩、これから練習なんですけど…!」


 真島のサッカー部員、1年が鳥羽の姿を見つけて声をかける。部員がこれから練習という事で練習着に対して鳥羽は黒いブレザーの制服姿だった。


「あー、体調優れないから早退するっつっといて」


「え?え?」


 それだけ言うと鳥羽は練習には行かず早々に正門へと歩いて行って帰る、その姿に後輩は何も言えず見送るしかない。



「(試合翌日に練習なんぞ効率悪すぎだっての、疲れてるしやってられるか。女の子と遊んで骨休めの方がよっぽど良い)」


 この前日に真島は試合をしており鳥羽はフル出場。これで翌日に練習はしたくないと拒み、適当に理由をつけてサボる。


 無論毎回は使えない手なので練習に出る時もあるがその時は適当に流して早退する。




 そして一度家に戻り鳥羽は制服から白い半袖シャツ、その上に長袖の黒い上着、それに合わせた同色のパンツの私服へと着替え、再び家を出て地元の繁華街へと向かう。





「えー?その人もうちょっとお洒落してきてほしかったなぁー」

「だろぉ?」


 喫茶店で派手な長い巻き髪の茶髪女子とお茶を楽しむ鳥羽の姿があった。


 相手の女子は半袖の水色シャツに赤いミニスカートと足を大胆に出しておりスタイルが良い、鳥羽と共に居る姿は付き合ってる彼氏彼女に見える。


 心地良いジャズの音楽が流れるお洒落な喫茶店は評判の良い所でありSNSでも評価は高く若者に注目されて女子の勧めで鳥羽は共にこの喫茶店でコーヒーを飲む流れとなったのだ。




 鳥羽のスマホに連絡が入り、その女子から遊びの誘いが来ていて鳥羽はその返事にすぐ答えて試合の疲れをこうして女子との遊びで癒すのだった。


「ショウちゃんこの試合凄い活躍じゃん、逆転勝利だよ♪」


 女子はスマホで真島の試合を見ていて画面には鳥羽が味方からの低いクロスを得意のボレーで合わせ、ゴールへと叩き込み2点目の逆転ゴールを決めている映像が流れる。


「開始早々気が抜けてやがったのかDFのミスで失点の尻拭いをしてやっただけよ。それさえなきゃ完封と完璧だったんだ」


 取材では言わなかった味方DFに対する愚痴を鳥羽はこぼしていた。攻撃力は高いが守備でやや難がある、それを補う攻撃で真島は勝ち上がっており昨年は桜王の要が怪我で欠場してた事もあったが破り選手権の東京代表となった。



「ま…逆転ゴールはそれはそれで見てる側にとっては楽しいだろうし普段のゴールよりも美しい華となって楽しませられたかな」


「あたしも見てたけど最初負けるんじゃないかってちょっとハラハラしてたよー」


「ほら、楽しめてる」


 鳥羽と女子は互いに笑い合い、手元のコーヒーやジュースに手を伸ばし飲む。



「でも練習サボって良いの?大変じゃない?」


「あー、大丈夫大丈夫。むしろ試合後に練習の方が頭おかしいぐらいだからさ、あんな時代遅れのスパルタ今時流行らねぇっての」


 強豪校は大体が厳しい練習の日々、真島は試合後の翌日も休みは入れず練習となっていた。


 そのスタイルに鳥羽は時代遅れだと否定し真島の一員に居ながら自由奔放を貫き通している。




「ねえショウちゃんカラオケ行こうよカラオケー♪また聴かせてよー!」


「オーケーオーケー、そう焦るなって」


 喫茶店を出た二人、鳥羽は女子に引っ張られてカラオケへと誘われて鳥羽は断らず向かう事が決まりカラオケ店を目指す。




「北村ファイ・オー!北村ファイ・オー!」


 そこに男子達の掛け声が聞こえて来て街中を歩く人々の目はそちらへと注目した。



 鳥羽や女子の耳にも届き、二人がそちらを見れば強豪北村高校の面々がランニングをしている姿が見えた。



「あらまぁ、よくやるねぇ…」


 北村も真島と同じように前日試合をこなしたばかりのはずだ、にも関わらず翌日に休養へ入る事なくランニングと練習を行っている。


 鳥羽の呟きが聞こえたのか北村の一人が鳥羽の姿に気付き視線を真っ直ぐ向けていた。




「お前、鳥羽……余裕だな。デートかよ?」


「まあご名答。そっちは熱心だねぇ、わざわざ試合翌日に此処まで走り込みとは。そちらの努力には脱帽するよ」


 鳥羽はデート中とアピールするかのように女子の肩を抱いて寄せた。



「ちっ…!お前、その鼻っ柱を今に叩き折ってやるからな。せいぜい遊んでだらけてりゃいいさ」


「心外だなぁ、別に四六時中遊んでるって訳じゃねぇから。俺は俺で効率的にトレーニングやってるし、休める時は休む方が良いさ。あ、別にあんたらのスタイルや努力否定してる訳じゃないんで、そこ誤解しないようにな」


 鳥羽の姿に男として嫉妬が入り混じってか吐き捨てるように言って北村の一人は鳥羽を睨んだ。それに対して鳥羽は涼しい顔で受け流し自らのスタイルを崩さない、これが俺の美学だとばかりに。



「行かなくていいの?アレあんた待ちじゃね?」


「……」


 鳥羽が指差す先にはこちらを見ている他の北村サッカー部のメンバー達、それぞれが足を止めており彼を待っているように見える。


 言われて彼はそのままメンバーの方へ合流し再び走り込みを再開する。



「なにあれ?感じ悪いの」


「気にすんな、たまたま虫の居所が悪かったんだろ。案外本当は休みたいのに休めない、そのストレスもあったりしてな」


 女子は北村高校の態度に怒っている様子であり鳥羽は落ち着くよう言うと再びカラオケ店を目指す。






「キミがあの弥一君なんてね~、おばさんキミのファンだからコロッケ一個サービスしちゃう!」


「わー♪ありがとうございますー♡」



「(んん?)」


 鳥羽の耳に聞き覚えある声、覚えのある名が聞こえて思わず立ち止まる。北村高校の面々の傍にある肉屋でコロッケを買う見覚えある小柄な少年の姿。私服ではあるが見間違いはしない。



 彼の方も視線に気付き、鳥羽と目が合う。



「あ、鳥羽さん偶然~」


「これは驚きだなチビ君、北村に続いて他校のキミとまで此処で会うとはなぁ」


「北村の人達は凄いねー。試合翌日も走り込みなんて、僕とか休みたいから真似出来ないや」



 弥一は鳥羽と共に背中が遠くなっていく北村高校を見つつ買ったコロッケを一つ食べる。揚げたてでサクサクの衣に中身はほくほくのじゃがいも、これが美味しくない訳が無い。


 美味そうに食うなぁと鳥羽はコロッケを食す弥一を見ていた。



「この子あれでしょ?今評判の立見でちっちゃいDF君、実物の方が結構可愛いじゃーん♪」



 女子は高校サッカーを結構見てるようで立見の弥一を知っている、コロッケを食べる姿が彼女からすれば可愛くて母性をくすぐるようだ。


「立見さんは休養かい?」


 弥一の他に特に部員の姿は見えない、彼が私服という事もありそうなんだろうなと思いつつ鳥羽は弥一へと尋ねる。



「そだよ、うちは試合前日と翌日は練習入れないで完全休養スタイルだから」


「なんだ最高じゃないかそれ。真島も見習ってほしいもんだ」


 熱そうにコロッケを食しつつ弥一は立見が休養である事を教え、鳥羽は今だけ真島じゃなく立見の一員になりたくて羨ましいと思った。


「それでチビ君は今日オフで此処に来たって訳か?」


「オフじゃなきゃこういう所来れないからね、此処美味しいコロッケあるって評判だから食べたかったんだよー♪」


「なるほど、花より団子ってタイプだな」



 鳥羽が女子と楽しむ時間をオフで過ごすのに対して弥一は美味しい食べ物の食べ歩きでオフを過ごす、同じ休みでもその過ごし方は異なっていた。



「じゃ、鳥羽さんお姉さんとデート中みたいだからお邪魔虫は此処で退散しとくねー」


「そんな気使わなくていいのに、ああ。チビ君」


「ん?」


 鳥羽と女子がデート中なのは弥一にも見て分かり、早々に退散しようとしている弥一に鳥羽は呼び止める。



「あと一つ、勝って来いよ。個人的にキミらとの試合結構楽しみなんだ」


 あと一つというのはつまり次の準々決勝。これを立見が勝てば準決勝、そして代表をかけて試合する相手はこのまま行けば鳥羽の居る真島だ。


「僕らは勝つよ勿論、鳥羽さんは大丈夫?北村高校の皆さん、すっごいやる気で闘争心ギラギラな感じだったし」


 弥一は準々決勝を何の迷いも無しで勝つと言い切る、負けるとは微塵も思っていない。それより鳥羽の真島が準々決勝の相手は北村高校となって勝ち上がれるのかと逆に問う。

 弥一が見た限り北村高校は真島を、鳥羽を倒そうという闘志が満ち溢れていた。



「んなもん全国や世界で嫌って程味わってきたよ、今更あれぐらいの気迫に気後れなんざするか」


 それだけ言うと、鳥羽はじゃな、と後ろを向きながら軽く片手を振ると女子は弥一へ向けて小さく投げキッスを送ってから鳥羽の元へと合流しカラオケ店へと目指す。



 試合後の翌日、練習する者や遊ぶ者それぞれであり彼らはこの日偶然集い交差していった。


 学校によって過ごし方が色々あるなと思いつつ弥一は若干冷めてきたコロッケを食べながら街中を歩き、見知らぬ街を楽しむ。

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