第64話 東京No1ストライカーからの挑戦状


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 2回戦へと勝ち上がった立見高校、6試合連続無失点。更に優也の6試合連続ゴールと他校からのマークも受けるようになる。


 なので練習中の立見サッカー部を見に来る他校の者が見える事もあるようになってきた。



「今日も来てますね~」


「あれは去年の夏予選ベスト4の北村高校か、この先当たるかもしれないからわざわざ偵察に来たんだな」


 遠くから彩夏が見覚え無い他校の制服を着た生徒達が立見サッカー部を見学しているのを発見し、スマホで調べた摩央は彼らが何者なのかすぐ分かった。


 強くなり上へと登る者の宿命と言うべきか、調べられて分析される。此処までそんなマークを受けては来なかったがもう立見も激戦の東京予選において要注意の1つとして数えられているのだろう。

 何より彼らの築き上げた記録がインパクトあって無視が出来ないのだから。



 そしてその強豪北村高校の前でも立見サッカー部は何時も通りの練習を行う、サッカーマシンはこの日はあえて使わない。





「…あれか?噂のチビDFってのは」

「本当に小せぇな」


 北村高校の偵察、その目は軽くボールを蹴る弥一へと向けられた。


「騙されんなよ、あれで信じられないインターセプト率を誇るんだ。桜王の榊ですらそこまで行ってないってのに…」


 見た目は小柄で小学生かと思う程だが騙されないようにと一人が注意しておく。此処で名前を出したのが同じDFで東京王者、桜王の守備の要と言われる榊。


 彼でもそこまでのインターセプトが出来るのか分からない、それほどの回数を弥一は重ねている。



 相手の巧いドリブルも鋭い矢のようなパスも弥一の前で沈黙しており1回だけならまぐれだろうとなるが支部予選の1回戦を除く全試合でそれが出来るとなると流石に相手の油断や奇跡、それでは片付けられなくなってきた。


 あの見た目で信じられないが弥一は間違いなく東京で上位に入る巧いDF。そう認識せざるを得ない。






「ねえ君、今日この後って暇?予定無いなら遊びに行けないかな?」


 その時偵察する彼らの耳にナンパするような声が聞こえてきた、声がする方向を向けばお洒落にセットされたような金髪のショート。身長は175ぐらいといった所、こちらも他校の制服を着ているが彼は北村の一員ではない。


「えー?それ皆に声かけてない?」

「そんな誰彼構わず声なんかかけたりしないって、君が特別可愛いからつい声かけちゃってさぁ。芸能界とかに居ても違和感無い女の子いたら声かけるのが男としての礼儀ってもんだよ」




「何だ?あの野郎、こっちが真剣に偵察してる時に女をナンパしやがって…」


 金髪の他校の男子はまんざらじゃない様子の女子から連絡先をスマホで教えてもらっている、イケメンでナンパ成功してる所を見て嫉妬からか北村の偵察の一人がチッと舌打ちして苛立ちを見せていた。



「って、あいつ…!」


「え?」


 その時偵察のもう一人が気付く、あのナンパしていた男が何者なのか。









「あ、あの金髪の人…!」

「ん?どした大門?」


 大門の背中を押して柔軟を手伝う弥一、その時大門が前方に映る女子と共に居た金髪の男子の姿に気付いた。リアクションを見る限り大門は驚いている、彼が何者なのか弥一は知らない。



「神明寺君、あの人だよ。真島のエースでUー16日本代表FWに選ばれてる東京No1ストライカーの鳥羽尚弥(とば しょうや)だ」


「へえ~、東京の…」


 北村の偵察も当然その存在を知っており、だから彼の存在が分かると驚いていた。鳥羽尚弥、全国大会にも出ている有名人であり名の知れ渡った名ストライカーだ。


 皆が驚く中で弥一は特に驚かず鳥羽の姿を見ている。



「おーっと、聞こえたぜそこのでっかいキーパー君よ?」

「え…!?」


 鳥羽は大門、そして弥一の方へと歩いて来た。これに弥一は柔軟の手を止めて大門はその場から立ち上がる。



「東京No1じゃない、全国No1ストライカーだ。そこ間違えんなよ?」

「あ、は…はぁ。すみません」


 得意げに鳥羽が大門へと右手人差し指で指して言い切る、自分こそが日本一のストライカー。そう言い切る彼の自信は底知れない、だがそれだけの実力を持つ事を大門はテレビで見て知っている。


 華麗なテクニックに力強いシュート。更にスピードも速い、選手としての能力は間違いなく東京トップクラスだ。



「全国No1、て事は鳥羽さんってあの八重葉学園の照皇誠より強いのー?」


 そこにマイペースな弥一の声が鳥羽へと問いかける。全国1、それを語るなら避けては通れない存在。高校No1ストライカー照皇より上なのかと。




「当たり前、あの坊主に負けやしねぇよ。照皇を抑えてるなら俺も抑えられると思ってんなら、アテが外れたなチビ君」


「あれ?知ってるの僕の事?」


 鳥羽が弥一に対して照皇を抑えたと言うのが聞こえ、彼はあの練習試合の事を知っている様子。特にテレビカメラとかそういったものは入ってなかった練習試合だったにも関わらずだ。


「知ってるかい?少年達、女の子の情報網ってのは侮れないもんだ。チビ君が前半だらしねぇ立見イレブンに怒って怒鳴ったのだって聞いてるし」


「あー、あの若気の至りな所までお恥ずかしいね~」


 情報は知り合いの女子から鳥羽は聞いているようで彼自身があの場に居なくてもそれで練習試合の事は知っていた。



「まさかそんな、東京…あ、全国No1ストライカーの方がわざわざ見に来てくれるなんて」


「そんな驚く事でもないだろ?あの通り北村とか来たりこの前の立見の試合の時とか桜王の奴らもわざわざ見てたらしいし、もう俺らと同じお前らもマークされる立場になってんだよ」


 恐縮そうな大門の肩を軽く叩いて鳥羽は笑うが、その後に真顔で二人に対して伝える。立見も真島や桜王のようにマークされる存在へと変わっているのだと。


 もう彼らはただの新設サッカー部ではない、強豪の一人として数えられている。



「ま、出来る事なら立見には準決勝まで無失点で来てくれる事を願うわ」


「準決勝…と言うと」


「その方が俺ら真島がゴールを奪う時、より凄さが際立ってくれるんでね」


 準決勝まで立見が来る事を鳥羽は願っている。順当に勝ち上がれば準決勝の相手は真島、夏のインターハイ東京代表の1校を決める重要な一戦で東京を代表する強豪と当たる事になる。


 そして鳥羽は挑戦状を突きつけていた。



 立見の無失点記録を破るのは俺だ、心からもそんな強い想いが弥一には感じ取れた。



「それは……」


「やれるもんならどうぞー?勝つのこっちですけど」


「!?」


 大門が言いかけた時、弥一が遮るかのようにマイペースな声で鳥羽に対して返事を返す。



「ほお…言うね、照皇を抑えて此処までの試合勝って天狗になってるって言うならそろそろ此処で鼻へし折られた方が良いんじゃないか?1年」


「折られる程の長い鼻無いから大丈夫ですよー」



 鳥羽に見下ろされる弥一は相変わらずマイペースに笑っていてその姿勢を崩さない。





 そこにボールが流れ、鳥羽の後ろにまでボールが転がって来た。


「あ、すみません。ボールー…」


 立見の1年部員がボールを取るようにお願いしようとすると。






 トン



 鳥羽は後ろを向いたまま踵でボールを上へと上げ、頭で更に上へと上げた。



 そして振り向きざまに右足でボレーシュートを撃つと、勢いよくシュートはゴールマウスへと正確に向かいゴールへと入って行った。


 急に来たボールに対して高度なテクニック。更に華麗で正確無比なコントロールボレーを見せて鳥羽は力を見せつける、ボールを要求した1年は呆然としていた。



 東京No1ストライカーは伊達ではなく、豪山や優也とはまた違ったタイプのFWだ。




「じゃ、これから女の子と遊ぶ予定なんで。またな少年」


 ゴールを決めて何もなかったかのように鳥羽は手を振り、歩き去って行く。



 そしてそのまま北村の偵察隊の近くまで歩いて来ると。




「あんたらもきっちりへし折ってやるよ、立見の前にな」


「!」


 同じ東京の強豪、北村にも鳥羽は宣戦布告していた。


 北村の視線を背に受けながらも彼は正門へと歩きスマホをいじっている。この後おそらく先程ナンパした女子と遊ぶのだろう。




 北村のみならず真島、それもエースでUー16の日本代表FWからマークされている。そしてその鳥羽からの挑戦状。



 無失点記録を破らんとする牙に対して弥一は静かに口元に笑みを浮かべるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る