第62話 人気が上がる立見サッカー部


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 支部予選、1次予選を勝ち上がり立見は2次予選への切符を勝ち取る。


 この2次トーナメントを勝ち上がった上位2校が東京代表としてインターハイ全国へ出る事が出来る、各都道府県での代表校は基本1校だが東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、北海道。この7つは例外で2校が代表となれるのだ。


 去年の立見は選手権の方では惜しくもベスト8で終わったが今年はインターハイから2次トーナメントまで勝ち上がり、その上此処まで全試合無失点と立見サッカー部への期待が上がって来ている。

 このサッカー部の活躍は立見高校全体に良い刺激となり各運動部もそれに続かんと奮闘していた。



「すげーなサッカー部!」

「神明寺君あんなにサッカー巧かったんだー!」



「あははは、いや~まあね~♪」


 2次トーナメント進出を決めた日から2日後の学校で弥一はクラスメイトから称賛を浴びており、サインも求められたりしたらマイペースに笑って書いてあげていた。


「何時かはテレビカメラのレンズにサインもするからお楽しみにー、全国マジ行くからねー♪」


 テレビや動画で見ていてよくプロのスポーツ選手がカメラ越しにサインを書いているのを見ていて弥一もそれが格好良いと思って自分もいずれは書いてみたいと思っていたのか、クラスメイトに向けていずれ書く事、そして全国に行く事を宣言すればクラスは盛り上がる。



「すっかり人気者だよなぁ…ったく、調子乗ってサインとか。それで天狗になってプレーに影響とか無しにしろよな…」


 主務としてサッカー部の一員である摩央はスマホ片手にちやほやされてる弥一の姿を席から眺めており、モテ期が来て調子乗ってやらかさないだろうなと呟いたりしていた。


「主務もしっかりな、縁の下の力持ちって大事だぜ」

「!お、おう…」


 いきなりクラスメイトの男子から肩を叩かれエールを送ってもらい戸惑う摩央、多くの競技が関わるスポーツ校なので一般生徒も表で活躍する彼らを支える存在も見ており重要だと皆分かっている。


 自分の事は見られないだろうと思っていた摩央は声をかけられて悪い気はしなかった。



「いや~、サッカー部凄い事になりましたね~。此処良いですか~?」


 昼休憩、何時もの木の下に弥一や摩央に大門といった馴染みの1年達が此処に集い昼食を取ろうとした時に新たな来客の姿があった。


 同じ1年マネージャーの彩夏が弁当を持って彼らの前に来ていた。


「あ、良いよ。どうぞ」


 大門は彼女へと席を作ってあげると彩夏は座り共に昼食を食べる。



「あんなに人に囲まれるなんてコーナーキックの密集以来だよ」


「クセでその場で高くジャンプして頭ぶつけないようにねー」


「ああ~、大門君は身長高くてジャンプ力ありますからね~。頭ぶつけたら一大事ですよ~」


「しないから…!」


 マイペースとのんびり屋、似た者二人に囲まれており人に囲まれた経験が試合のコーナーキックぐらいしか無い大門はクラスでの出来事をいじられていた。



「歳児君とか特に凄い人気みたいですよ~、あの通りクールで影あるイケメンという要素に加えて予選の全試合ゴール記録続いてますからね~。一般の女子はほっときませんよ~」


「あいつ姿見せないと思ったらそういう事か。一番のスターになってたんだなぁ…」


 元々この木の下の特等席は最初優也が見つけた場所であり最近は弥一達が入り浸るのが当たり前となっている、その優也はまだこの場所に現れていない。



「ねえ、歳児君来てない?」


 その時二人の女子生徒が木の下で昼食をとる弥一達へと声をかけてきた。一人は同じ1年で覚えがあるがもう一人は知らない、1年の制服のリボンが黄色であるのに対してもう一人は緑。つまり2年の先輩だ。


「いや、僕達も彼を待っているんですけど来てませんよ…?」


「そうなんだ。お弁当作ったから食べてもらおうかと思ったけど、じゃあ彼に会ったら渡してくれる?」


「あ、良いですよー」


 大門の優也はいないという言葉を聞いてガッカリする2年の女子生徒、優也へと弁当を作っていたようで彼に届けるつもりだったようだ。

 そこで同じサッカー部なら彼に会うだろうと思ったか弁当を代わりに渡せないかと頼んでくると弥一はあっさりとそれを引き受けて弁当を受け取る。


「私も歳児君に、お願いしますー!」


「おおっ?」


 隣の1年女子まで弁当を託して来て弥一は弁当を2つ託されてバランスを崩しそうになるが事前に大門が弁当を支えてキャッチ。

 この反射神経とキャッチングは流石GKだ。



 そして女子二人が去った後。





「……ゆっくり飯も食えない」


 物陰から優也は登場し、何時もの場所へとようやく腰を下ろす事が出来た。


「居たなら出てくればいいのにー、この人気者めー」


 そう言いながら弥一は優也へと弁当箱2つ、女子生徒からの預かり物を差し出す。



「ああいうの、苦手なんだよ。…というか俺一人でこれは食い切れない」


 既に自分で買ったパンもあり昼食は既に足りてる優也。今この追加の弁当を一人で食べるには彼だけの胃袋では容量不足だった。


「じゃあ食べ物を粗末にするのは人として駄目ですから皆で食べちゃいましょうか~」


「そうしよそうしよ、あ!美味しそうな海苔弁当だー♪」


 彩夏はそれなら皆で食べようと提案し、弥一が真っ先に賛成して弁当箱を開けると可愛い雰囲気の海苔を使ったご飯や意外と言えば弁当を作った彼女に失礼な話ではあるが惣菜の種類は中々栄養バランスが考えられており見た目も楽しませるこだわりの弁当だ。



 優也がそれぞれの弁当を少し食べれば皆で分け合い、食べ盛りの高校生達にかかっればあっという間に2つあった弁当の中身は空っぽになる。

 弁当箱は優也が預かりこっそり返しに行くという事になった。






「これ全国に出たらもっと凄い事になるんじゃないですか~?」


「2次トーナメントからこれだから、まあ凄いだろうな。全国行ったら」


 放課後終わりまで時間があり昼を食べ終えた一同はサッカー部の人気について話す、全国だともっと凄そうと変わらないのんびり口調で彩夏が話すとこちらも変わらずスマホに触る摩央は全国出場すればそれこそスターだろうと次の対戦相手のデータをチェックしている。



「それを思うとやっぱり八重葉とか学校でも凄い人気のように思えるね」


「だよねぇ、優也みたいに照皇とかも弁当いっぱい差し入れとかされそうだろうしー」


 大門の頭に浮かぶ、全国とくれば外す事の出来ない絶対王者八重葉学園。


 その高校のエースでありNo1ストライカーの照皇辺りはそれこそ優也以上に人気で弁当の差し入れが途絶えなさそうに思える。



「でも照皇さんって私遠くから見た事ありますけど滅茶苦茶真面目そうでお弁当とかそういうの受け取らなさそうで余計な間食一切しなさそうですよ~」


「あー、多分あの人受け取らないねー」


 彩夏から見た照皇のイメージには弥一も同意見だ。照皇はかなりのストイックと弥一も聞いており、サッカーに対する姿勢は誰よりも真剣。


 冷静と情熱を兼ね備えた高校を代表するスタープレーヤーの一人が女子からの差し入れ弁当を片っ端から食べる姿がむしろ想像出来ない。

 彼の友人である例の帽子の男子なら別だが。



「甘いものとか苦手そうと思ったけど美味そうなカステラ食べてるの見た時は人は見かけによらないなぁーって思ったよ」


「あれはまあ八重葉の伝統儀式のようなものだけどね…」


 思い出すのがカステラを食べる照皇の姿、最もそれは彼に限らず八重葉全員が食べていたのだが。あのカステラ美味しかったなぁと弥一はその味を思い出しており大門はああいう効率的なエネルギー補給も大事なんだなと学んでいた。




「まあでも皆さん、有名になっても天狗は駄目ですよ~。それで俺様になって女遊びに走りまくって堕落とか流石に笑えませんから~」


「誰がそうなるか」


「そんなモテるの優也ぐらいしかいないから大丈夫だよー」


「おい」


 冗談なのか本気なのか分からない彩夏の調子乗って女遊び走らないようにというのに対して弥一はそんなモテるのは優也だけだとマイペースな笑いから彼へと流せば優也はその弥一の頭を軽く小突いた。



 強くなり、人気も上がって行く。その中で謙虚にいる事は難しいかもしれない、何処かで調子に乗る事はあるだろうがその時は仲間同士互いが引き戻すだろう。


 良い雰囲気のサッカー部1年の光景は休み時間終了のチャイムが鳴るまで続いた。

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