第61話 人から見たサイキッカーDF
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1次トーナメント決勝、これに勝てば2次へと進出出来る大事な試合。
この日立見と試合する1次から登場となったシード校の岩城高校、前の試合6-0で勝ち上がって来た強豪の一角であり今年こそ真島や桜王の東京を代表する2校を倒す事を虎視眈々と狙っている。
「おーし。この試合もしっかり勝って2次に進んで行くぞ、守りは成海と豪山の動きから目離すなよ」
岩城を率いる人物、黒髪短髪で後ろを刈り上げている。身長176cmのキャプテンでエースFWの森岡康(もりおか やすし)は守備陣に立見の要注意とされている二人を試合前日にも伝えたが改めて気をつけるように此処でも伝えると彼らもそれに応える。
チームの士気、雰囲気は前の試合大勝をしている事もあり上々だ。
「今年は立見の守りも侮れないよな、此処まであいつら支部予選を戦ってまだ失点0だぞ」
「その記録も今日までだ。俺らでぶち破ってやろうや」
立見の守備を破れなきゃ次には進めない、だったら立見からゴールを奪い無失点記録を止める。
それをやるしかない。そして自分達ならばそれは可能だと森岡は確信している、真島や桜王の壁を破ろうとしているぐらいなのだから新設校の守備ぐらい破れなくてどうすると。
天気に恵まれ快晴、午後の2時からキックオフとなりコイントスを終えて先攻を勝ち取った森岡はセンターサークルへとボールをセットし開始を2トップを組むチームメイトと共に待つ。
「(しかし小さいDFだよな…ああいうのが居て何で連続無失点が出来るんだ?この過酷な東京予選で)」
森岡の視線の先にはチームメイトと談笑でもしてるのかマイペースに笑う小さなDF、弥一の姿があった。
身長が致命的なまでに低い、150にも届いているのか怪しいぐらい。小柄なDFはそのハンデを乗り越えようと鍛え上げ、身体も細く筋肉がその分あるとは思えない。
軽いショルダーチャージであっさり吹き飛んでしまうだろう。
「(まあいい、どんなDFだろうがブチ破る。これぐらい奴らを倒す為の練習だ)」
負けるとは全く思ってない森岡、立見の守りをこの先に居る真島や桜王の守りを破る練習と思って利用させてもらおうと企んだ。
中盤、成海はパスを多用してボールを回し攻めて来る。此処数試合をそのパターンが多かったと岩城の面々は知っており、成海がボールを持つとパスを警戒し、豪山へのマークを外さないようにする。
だがこの日の成海は違った。
パスを出そうと左足で蹴る、と見せかけて軽く蹴っての柔らかいタッチからのドリブル開始。意表を突かれ岩城の選手一人がボールを奪おうと向かって行く。
正面から来る姿が見えた成海はボールをまたぐ、シザースと呼ばれるフェイントの一つだ。これを高速で続けて行い、相手は構えていたが重心が崩れてくる。
その隙を見逃さず成海はスピードに乗ったドリブルで相手の横を抜けていった。
それをフォローし追っていたDFが成海を地面に倒してドリブルを阻止するが審判の笛が鳴ってファールを取られる。
幸いPKではないがゴールから25m前後、ほぼ正面からのフリーキックのチャンスだ。
キーパーの指示で壁が作られ、右に寄り過ぎだと言われ位置を修正。
ボールには成海、更に影山の姿がある。どちらも直接狙える力を持っており、どっちで来るか壁やキーパーを迷わせるつもりだろう。
そして審判の笛が吹かれフリーキックは開始。
影山は動かずそのまま成海が短いステップから左足で蹴る、ボールは壁を超えてゴール右隅へと曲がって行く。
岩城キーパーはこれに触れるも弾ききれずボールはゴールマウスへと入り1点が立見へと入る。
先制点が決まりゴールを決めた成海へと立見の選手数人が駆け寄り成海は中心で喜んだ。
「(くそぉ、先制点向こうかよ!2点最低でも取らなきゃならないじゃないか…)」
最悪でも1点取らなければ負ける、そうでもしなければPK戦にも持ち込めず岩城の負けが決まる。
だが森岡はPKに苦手意識があるので出来る事ならPKは避けたいと思ってる。最低1点ではなく2点、それを取りに行かなければならない。
キャプテンの森岡を中心に岩城が攻勢へと出る。早いうちに同点に追いつきたいので当然の判断だった。
「うぉわ!」
岩城の左サイドバックが上がって行き、チャンスを作ろうとするがそこに田村の守備が阻んで来る。ボールを受けた瞬間を田村は狙っており、ボールを奪取。
「上がって来るぞ左!」
田村はスピードある立見のサイドバックと岩城は分かっている、彼のスピードで此処は駆け上がると予想して警戒している。
だがそれを裏切るかのように田村は大きくロングパス。
反応していた豪山はDFラインの裏を抜け出して走る、岩城DFは手を上げてオフサイドをアピールするが旗は上がらない。
大胆にもGKがエリアを飛び出し、頭で処理しようとするがこれに豪山が競り勝ちヘディングはゴールへと転がっていき、そのままゴールとなった。
2-0、前半で2点差がついて岩城は3点取らなければならなくなってしまう。
前半終わる前に1点返しておきたい岩城は早々キックオフ。急いで攻めようと立見ゴールへ果敢に攻めて行く。
「(ん?あのチビ何処に消えた…!?振り切ったか?)」
森岡が弥一の姿を探すも何処にもいない、マークを振り切れたのかと思い邪魔はいないと判断し真ん中でパスを要求。
そして味方へのパスを受け取ると
ピィーーー
「!?」
オフサイドの判定を取られ、立見からボールに触られる事なく奪われる形となる。
満足行く攻めは出来ず2-0で前半が終了。
「(こんな守り硬かったか立見って!?)」
口ではキャプテンとして周囲を鼓舞して奮い立たせてきているが、森岡の内心では困惑があった。
去年までの立見の守備と全く違う。オフサイドトラップを仕掛ける巧さ等そういったのは無いと記憶している。
だがこの試合で既にいくつかトラップにはまり、それに加え森岡は弥一の姿を見ていない。彼は本当にあのフィールドに居るのかと疑うぐらいだった。
「なあ、あのチビDF…試合中何処に居たとか分かるか?俺あいつの姿見てないんだ」
「え?あいつ最終ラインにいただろ」
「そうか?俺はチビが中盤の後ろ付近に居た気がするけど…」
「いや、サイドじゃないのか?」
森岡の問いに弥一が何処に居たのか、選手それぞれが別の位置で見たと言う。
それは益々困惑させる。
何がどうなってると問題が解決しないまま岩城は後半戦を迎える。
後半攻める岩城、森岡は弥一を後半開始の時は姿を見ている。それが今は…。
「(またいない!?あいつ何処に!)」
森岡はまたも弥一の姿を見失う、そして味方からすれば森岡がフリーになっていると見える。そして当然チャンスだと見てグラウンダーの長く鋭いパスを送る。
「いっただきぃー!」
「!?」
このパスを狙ってたかのように弥一はパスコースを読んで飛び込み、インターセプト成功。
森岡にボールを渡さない。そしてボールを素早く影山へとパスし、弥一は後ろからコーチングで伝えて行く係となる。
「(全く気づかなかった…!こいつ、まさか自分の身体の小ささを逆に利用して紛れ、姿を消して死角からのディフェンスをしてたってのか…!?)」
死角をつく、それはFWの立場としてもDFの死角をつく攻撃というのはやっていた。
だがこうも巧くこちらの死角を突いて来る守備というのは森岡の経験に無かった。
ピィーーー
オフサイドで再びボールを取られたり、更に弥一だけでなく周囲の守備陣もしっかり守っており彼らの守りの前にエリア内のシュートを1本も撃つ事が出来ない。
ゴール前にやっと高いクロスは上がるも長身にして長い手足に加え跳躍力のある立見GK大門がこのクロスをキャッチして数少ない岩城のチャンスを潰す。
そして後半30分、優也と武蔵が途中出場。
するとボールを受けた成海がDFラインの間を通すスルーパスを蹴り、それに反応して優也が抜け出し飛び込んで行く。
岩城キーパーはまたも大胆に飛び出すがこの動きを優也はよく見ておりボールをトラップすると冷静にキーパーの飛び出しを躱し、優也は軽く右足で蹴って流し込む。
3-0。
決定的とも言える3点目が立見に入り岩城イレブンはがっくりと肩を落とす。
「(強い…今年の立見…特に、あのチビ)」
森岡はショックを受けつつも得点した優也を祝福する弥一の姿を見ていた。
もしかして彼が常識を根底から覆す活躍をするかもしれない、小学生ぐらいの小さな彼が高校サッカーを揺るがすような。
弥一と戦った森岡は何となくだがそんな予感がしたのだった。
試合はこのまま終了、立見がこの試合を制して1次トーナメントを勝ち上がり2次への進出を決めた。
立見3-0岩城
成海1
豪山1
歳児1
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます