第39話 仲間と共に切り拓く、そして始まりへ


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 2年の年が終わり季節は再び新たな年を迎える、中学3年。中学生活最後の年だ。


 勝也の実家に再び成海と豪山が集い炬燵に入って新年恒例の高校サッカーをテレビで見る、去年も見た光景だが去年と違うのは今年は宿題に追われてはいない事だ。

 なので気楽にサッカーをテレビで観戦が出来る。



「なあ、勝也。倉石とはどんな感じよ?」

「ああ?なんだよどんな感じって」

「いや、ほら。付き合ってんだろお前ら」

「ちげぇよ」


 炬燵入って蜜柑を食べる勝也に豪山は京子と勝也がよく一緒に居る事を知っている、それは試合の方を見ている成海も分かっていた。

 外から見れば勝也と京子が良い感じな雰囲気であるというのがよく分かり、部員の間ではあの二人は付き合ってると噂されてるぐらいだ。



 実際はそこまで行ってない、京子にサッカーを教えたりたまに遊んだりしてるぐらいでまだ恋人とまでは行っていないと勝也は思っている。

 あの遊園地の時に告白しようかという所までは行ったが踏み切れなかった。というのは目の前の友人にも服を譲ってもらった兄、太一にも言ってない。



「蹴一、お前もそう思うよな?」

「……え?あ、悪い聞いてなかった」

 相当目の前の試合に夢中だったのか成海は豪山と勝也の恋愛話を聞いていなかった。



「お前確か此処の高校行きたがってたよな」

 勝也が見る先にはテレビの中で試合をしている東京代表の名門校、試合はその東京代表の方がリードしている。

「IQ高いだろ、此処。スポーツ推薦でも無ければ地獄の受験勉強だ」

 成海が名門校を目指す一方で豪山の方は此処の学校には入るつもりは無いようだ、スポーツ推薦でもない限り自分の学力では受験失敗の確率が高いと見て彼は別の高校へ行くつもりらしい。


 中学3年、そろそろ高校の事を考えなければいけない。


 学生サッカーの中でも一番の華である高校サッカー、テレビによる全国中継。注目度は高くプロへの登竜門と言われ、此処を目指す学生のサッカープレーヤーは数多く3人もその中に入っている。


 此処からプロへの道、そして日本代表への道が開かれるかもしれない。



「勝也はどうすんだ高校?勿論続けるんだろサッカー」

「当たり前だろ。けど入る高校か……まだ決めてない」

 成海や豪山と違って勝也はまだどの高校に入るのか決めていなかった、こういうのは早い方が良いだろうが何処に入るべきか。どの選択が正解なのかまだこの時の勝也は答えを出せない。



 その前にまずは今年最後となる中学生活と中学サッカー、去年やり残した事をやってから高校の事はゆっくり考えようと勝也が蜜柑をほうばると東京の方に追加点が入り試合は決まったのだった。










 2月になるとバレンタイン、女子からチョコレートを受け取る男子の姿が学園内で目立つ。


 そんな中で成海は多くの女子にチョコ菓子を貰っていて本人はかなり戸惑っている、ルックス良くてサッカーをする姿がより格好良く映ってそれに惹かれる女子が多かったのだろう。



 それを見ていた豪山は不貞腐れており自分の方は一個もチョコを貰えていない、そう思っていると豪山に声をかける女子が現れて彼も女子からチョコ菓子を貰うと先程まで不貞腐れていたのは何処へ行ったのか。上機嫌そのものでチョコクッキーを受け取っていた。



「智春の野郎が一番バレンタイン浮かれてんじゃねーか」

 チョコを貰って喜ぶ豪山の様子に軽くため息を勝也はつく。



「貰ってないの?」

「!…悪いかよ、この通りモテないみたいだからな」


 勝也が何も貰っていないのを見て京子が声をかける、勝也は軽く両手をあげて手ぶらをアピールし何もまだ貰ってないと開き直る。


「じゃあ、はい」

「!?」

 その勝也へと京子は箱を差し出す、この箱を開けていいかと勝也は京子から許可を貰うと包装を解いて箱を開けると中身はマカロンだった。


「嫌いだった?」

「す、好きに決まってんだろ。マカロン嫌いって奴聞いた事ねぇし、ありがたく貰う!」



 勝也が京子からもらったマカロン、その菓子の味は今まで食べた菓子より美味しく、甘く感じた。









 3月、小学生時代に同じクラブで活躍した年下の弟分。弥一が親の仕事の都合でイタリアへと飛び立つ事になった。


 その旅立ちに勝也は空港まで太一と共に駆けつけて弥一の旅立ちを見送る。



 弥一とその家族を乗せた飛行機は日本を飛び立ち勝也が見上げる機体はどんどん遠く小さくなっていく。


 中学サッカーに自分に続いて飛び込んで来るものと思っていた弥一はそのステップをすっ飛ばしてサッカーの本場イタリアへの道を選ぶ。

 弥一は最初迷っていたようだが勝也はその背中を押した、早い時期にイタリアへ行く機会なんか無い。このビッグチャンスは物にするべきだろうと。


 勝也が高校をどうするか決めかねている時に弥一は勝也より上のステージへ行こうとしていた。



 弥一が日本から離れ、勝也は気持ちを新たにサッカーと向き合う。






 3年生となりキャプテンには成海が選ばれた。最上級生となった自分達が今度は下級生に教える側となり、基礎練習に励む後輩の姿に1年の時に基礎練習の繰り返しに文句を言っていた時の自分と勝也は重ねて見ていた。



 そういう事もあったなぁと3年生の勝也はくくっと笑いつつ自らも練習へと励み汗を流す。





 そして新体制となった3年目の中学サッカー公式戦、東京予選をかつてない勢いで勝ち進み、特に勝也が縦横無尽に動き回ったり声を出したりと献身的なプレーでチームを支えて前線の成海と豪山を中心とした攻撃陣が得点を積み重ねる。


 この勢いのまま予選決勝も3-1で勝利して柳石中学は2年連続で全国大会への切符を勝ち取った。





 全国大会、去年は2回戦で敗退しておりチームとしてはそれ以上の結果を今年は目標としている。


 だが勝也は違う。2回戦以上の結果で良し、ではない。目指す目標は全国制覇。それしか無い。


 1回戦を2-0で勝ち、2回戦へと進む。


 2回戦は中々両チームに得点が入らず0-0のままPK戦にまでもつれ込む、最初に柳石の方が3人PK成功して後攻の相手はプレッシャーとなったのかボールを浮かせる失敗があり更に柳石のキーパーのストップもあってこのPK戦を制し、準々決勝へと駒を進める。




 準々決勝、相手は去年敗れた優勝候補の強豪校。


 開始早々に攻め込まれて焦った柳石DFが倒してしまってゴール前でのフリーキックのチャンスを与える、これに相手キッカーが直接狙っていき壁を超えて片手を伸ばし飛ぶキーパーも届かずゴール。


 先制を許してしまう。



「まだ1点だ!行くぞー!」

 これに勝也は声をかけていき、チームの気を引き締めさせる。


 反撃に出たい柳石だがゴール前に豪山へ厳しいマーク、更にその豪山のゴールを多く演出してきた成海にもマークがついて二人にきつい守備のプレッシャーが襲う。


 確かにチームの得点源はあの二人、ただ相手がそう来る事は流石に想定している。


 マークが集中している分勝也の方は自由に動ける。リードされている今、守りに入っている理由は無い。一発勝負のトーナメント、勝負に出るなら此処だと勝也はこっちに渡すよう手を上げると味方から出されたパスを受け取る。


 そしてボールを持って走りながら勝也は成海の方を見た。成海には相変わらずマークがついている、それでも勝也は成海の方を見ている。

 これに相手はこっちの僅かな隙をつく気かと成海へパスが出されるのを警戒していた。



 だが勝也がパスを出したのは成海とは逆の方向、全く相手の方を見ずに味方へのノールックでの横パス。そして勝也はそのまま前へと走り、パスを受けた味方はそのままダイレクトで勝也へとパス。


 意表をついたワンツーから勝也は走り込みからの勢いをつけて右足を振り抜いてのシュート。


 ミドルレンジからのシュートは右隅の枠内を捉えていて相手キーパーはこれに反応し飛びつく。



 指先を掠めるもコースはそれでは変えられない、それほどの強い勢いが勝也のシュートに宿っておりシュートは豪快にゴールネットを揺らした。



 同点ゴールが決まった瞬間に勝也は天へと向かって吠える。成海や豪山といった仲間達も集い喜んだ。




 勝也が全国大会で決めたゴール、それがベンチで見ていた京子には眩しく輝いているように見えた。




 そして更にこの後PKをもらい成海がこれを沈めて逆転。


 2-1の逆転で昨年の借りを此処で返す事に成功したのだった。




 準決勝。相手は優勝候補本命、将来の日本代表を期待されるエース格のプレーヤーが何人か居て高い技術力に組織力を誇る。


 総合力は明らかに相手が上。それに対して勝也は鬼気迫るような激しい守備を仕掛け、相手に攻め込ませない。更に声を出す事も忘れず指示をしたり味方を鼓舞したりと前の試合に続いて縦横無尽の活躍を見せる。



 0-0まで持ちこたえたが後半、スピードあるFWが後半から投入されて縦の突破を許しキーパーと1対1になった所を決められて先制を許す。


 相手は研究しており豪山と成海だけでなく勝也にも注意しており、徹底した守備でこの1点を守りに行く。



 自由にはさせてもらえず1点が遠く重くのしかかる。




 そして試合終了の笛。



 0-1で敗退。


 全国ベスト4、勝也の中学サッカー最後の大会はこれで終わった。











「え?神山。お前今なんて?」

 学校の職員室である日、勝也は高校の方針について聞かれて答えを出した。それに教師の方は「え?」という反応だ。



「だから、高校は立見高等学校。そこ行きます」



 全国の活躍で勝也へと高校のスカウトは入っている、スポーツ推薦だ。勝也はそこに行くものかと思えば勝也はその誘いを蹴った。


 それもサッカー部が設立されていない高校へ行くというのに耳を疑う。








「サッカー部の無い高校行くって、サッカーやらないのか?」

 勝也が立見に行くという話は広がり成海や豪山達の耳にも入っていた、高校はサッカーを結局やらないのかと勝也は部活中に成海から尋ねられる。


「やるよ、やるけど今度は俺が一から作るんだよ。サッカー部を。勿論それで全国は目指す。立見はスポーツに力を入れてるって聞くからサッカー部の許可は出してくれるはずだろ」


 遊び感覚で部を作るのではない、勝也はこれで全国を本気で目指すつもりだ。


 しかしサッカー部の無い高校で一生徒が何も無い所からサッカーを作る。いくら人気あるスポーツといえどそれは大変な事であり、監督やコーチといった人材が都合良く新設の部に来てくれるとも思えない。


 小中と全国を知る勝也が高校に在籍している合間に全国に通用する部になれる可能性は限りなく0に近いだろう。


 それでも勝也に迷いは無い。



「俺は本気だ、蹴一よ。来年以降はお前の名門校ぶっ倒してやるから覚悟しとけ」

「………」


 得意げに勝也は成海へと宣言すると成海の方は勝也を見ながら何かを考えていた。






 部活が終わり、勝也はドリンク片手に教科書を見ていた。受験に向けての勉強を今から始めており、勉強の時間を勝也は増やす。

 立見に行くと決めたらサッカー部が無いそこにスポーツ推薦は期待出来ない、自力で自分の頭で立見に行くしかないのだ。



「…そこ、違うから」

「あ」

 問題を解いてる勝也に声をかける京子、何時ものように冷静に言うと間違っている箇所を指摘。



「立見に何でわざわざ行くの?サッカーやりたいなら部のある所行けば良い」


 京子も勝也が立見に行くというのを聞いており、京子は何故勝也がその道を選んだのか分からず理由を聞こうとしていた。




「後悔する前に……やってみたいんだよ、ドラマみたいな、漫画みたいなでっかい事を」


「でっかい事?」


「何も無い所からサッカー部を作ってそれで全国大会行って優勝する、漫画とか見てるならお前も分かるだろ」


「私が見てたのは元々あったサッカー部が弱小で全然勝てないチームから成長して勝って行くっていう話だから」


「あー、そうかい。でも似たようなもんだろ」



 ドラマや漫画のような、現実では無いだろうという事をやってみたい。そう言う勝也の顔は無邪気に笑っていた。




「立見行くなら、私も行く。そのサッカー部のマネージャー必要だと思うし」


「え?いや、そんな無理に俺に付き合う事は……」


 勝也の顔を見た京子は自分も共に立見へ行くと言い出し、勝也は戸惑った。人生を左右するような選択なのに簡単に決めて大丈夫なのかと。



「無理してない、私が望んだ事だから」


 京子の方は譲らない、もう彼女には高校は立見に勝也と行くという選択の他には存在していない。





「あー…先越されたか、まあ倉石ならしゃーねぇか」

 そこに豪山、そして後ろから成海が歩いて来た。


「どうしたお前ら…?」




「俺も立見、行くわ」

「!?」


 豪山も立見に行くと言い出して勝也は目を見開く。てっきり豪山とは別の高校になると思っていただけに彼の言葉には驚かされた。



「豪山だけじゃない。俺もだよ立見行きは」

「はあ!?」


 豪山どころか東京の名門校を目指していたはずの成海まで立見へ行くと言って勝也は信じられない様子だった。



「お、お前ら待て!成功するかどうか分からない俺の挑戦だぞ!?そんな無理して付き合って大事な高校生活を棒に振るような事…」


「お前何勘違いしてんだ?お前の為だけにわざわざ立見行きを決めるかよ、俺の頭なら立見の受験はなんとか行ける。通う距離も家からそう遠くは無い。そして一からサッカー部作って成功してヒーローになるチャンス、俺の為に立見に行くんだ」


「俺も、そういう挑戦を実際にするような奴は初めて見るし漫画みたいでこれを逃したらこんな機会一生無いだろうと思って挑戦する。お前一人で未知の挑戦を楽しむのはずるいから俺も混ぜてくれ」


「未だかつてない挑戦……凄い景色を間近で見てみたくなったから、勿論私の為の立見行き」


 それぞれが理由を言い、何も勝也の為に立見に行くのではない。それぞれが己の為に立見へ行く事を決めたのだと。




「これでお前だけ立見の受験落ちて俺らだけ合格になったら盛大にお前恨むけどな」

「あ、それは笑えない展開だな」

「成績的に勝也が一番危ない」



「わーってるよ!だから今から勉強頑張るんだろうがー!」


 茶化された勝也はムキになりつつ教科書と向かい合う、そしてぽつりとつぶやくように彼は言う。





「………ありがとな、お前ら」



 中学生活、良い仲間に巡り会えた事に感謝した。

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