第1章 高校入学
第2話 大きな彼と小さな彼
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本は4月の春を迎え、桜の木が満開の季節。
人々にとっては新たなスタートなる月。様々な目的を持つであろう人々が集い旅立つ場所である駅で暇そうにスマホを操作する眠そうな少年がいた。
短髪の紫髪、前髪は伸びてて少年の左目を覆っておりブレザーの学生服を着てなければ高学年の小学生と思われそうな低身長。
今日から新たに高校生となる杉原摩央(すぎはら まお)。
セットしていた目覚ましがやかましく鳴り響き叩き起され、眠気が残る中で駅にやってきた。目的地の駅は2駅ぐらい先、しばらく着かないなら電車の中で一眠りしようかと思ったが2駅では満足な睡眠は出来そうに無い、それどころか寝過ごして入学式で大遅刻してしまい目をつけられ悪目立ちでもすればそれは面倒だ。
摩央という少年は現実では人とはあまり関わらず生きており、彼の付き合いは主にSNSだ。スマホのアプリゲーをやっている者同士のコミュニティ等、交流はそれぐらいであり摩央はこれで特に問題無いと思っている。
現実の人付き合いなんか面倒なだけで喧嘩やいじめが起こり巻き込まれるかもしれない、だったら何も関わらず一人静かに過ごせば何か起こる心配も無い。
そうして今まで過ごしてきた過去、これからの未来でも変わらず現実でも人と接する事なく高校生活を送る。
今日が新たなスタートとなる日も摩央は普段通り一人でスマホを見ており電車が来るまで彼はその画面から目を離すような事は無かった。
通勤ラッシュ時には無慈悲に人からの圧力をその身に受ける満員電車、電車通いの者なら辛さを知っており摩央もその一人。
これから学校に行く度に満員電車の圧力を受けたくない、だが幸いにもこの電車は座席が空いているぐらいに余裕があった。来たのが各駅停車だったおかげかもしれない。
たったの2駅、わざわざ急ぎの電車に乗る必要は無い。これで軽い睡眠でも取れれば言うことなしだがとりあえずゆっくり座れるのがラッキーと思い摩央は空いてる席へと腰掛けた。
「グ~……グ~……」
駅で待っていた時と同じようにスマホを見ようとしていた摩央の耳にイビキのような声が聞こえてきた、左側から聞こえており誰か左側で寝てるのかと思い摩央はそちらの方向をチラ見。
自分のすぐ隣には人が座っているが顔が見えない、見えたのは制服。自分が着ているのと同じだ。違うのは制服を着ている人が摩央と比べて大柄だという事。
摩央から見て大抵の大人は大きく見える、だがその人物は同じ学生で身体は大きかった。
このままでは顔が見えないと摩央は大きな学生の顔を見る。
短髪と長髪の間ぐらいの長さの黒髪、顔は優しそう。悪く言えばお人好しそうに見える。いや、実際お人好しかもしれない。
何故なら彼は寄りかかって来ている人物を払い除けようとせずそのままにしているからだ。
「あ、ご、ごめん…うるさかったかな?」
「……いや…」
視線に気付いた大柄な学生。彼は摩央へと顔を向けて申し訳無さそうにしていた、これに摩央も別にいいという感じだ。それよりも大柄の彼に寄りかかる人物、彼も自分達と同じ学生服を着ている。
この眠り続けている彼も、大柄な彼も摩央と同じ目的地。同じ学校へ向かおうとしているのだろう。
「えっと…キミもこの先の立見で降りるんだよね?」
「まあ、そこの学校に今日通うんで…」
摩央は今日からそこに通う高校生、立見という駅に降りてそこから歩いて行くと目的地である立見高等学校(たちみこうとうがっこう)があるのだ。
大柄な学生はおそらく2年か3年の先輩、だとしたら気弱そうで先輩として威厳があまり無さそうで生意気な後輩に舐められる可能性は中々高いと言えるかもしれない。
「今日、ってそれじゃあキミも1年なんだ」
「…俺も?」
まるで他に1年が居るような言い方をした大柄な彼、ひょっとして向こう側で彼に寄りかかって未だ夢の世界に真っ只中な彼の事を言っているのだろうか。
見てみれば彼も摩央と同じ小柄、サラッとした黒髪は触り心地が良さそうだ。幼い寝顔に摩央も人のこと言えた立場ではないが制服来てなければ小学生じゃないかと思われる。
しかしよく寝ており、起こさない限り立見で寝過ごすのは確実。それは人の良さそうな隣の彼が起こしてくれそうなので特に大丈夫そうではあるが。
「あの寝てる彼も1年……」
「俺も1年だし、今日初めて通う学校に一人で行くの不安だったけど一緒に行く人いると安心するね」
「まあ……ん?」
摩央の聞き間違いでなければ俺も1年、この大柄な学生はそう言っていた。自分や寝てる彼と比べてこんな大きな奴が同じ1年、思わず摩央は二人を見比べる。改めて見れば大人と子供の体格差、食べてる物や量に違いでもあるのか。
「俺は大門達郎(だいもん たつろう)、よろしくね」
「あ、ああ……杉原摩央だ」
大門。それがこの大きな1年の名前、摩央と握手を交わす手が大きく摩央の手をそのまま包み込めそうだった。
自己紹介をする中まだ大門に寄りかかって寝る彼は起きて来ない、こんな電車の中で此処まで熟睡するかと摩央はむしろ感心しそうになる。
そういえば彼は誰だろう、名前は大門なら聞いているのだろうか。
「それでその寄りかかってる奴は誰?」
「えっと……さあ?」
「さあ?って知り合ったとかじゃないのか」
「いや、電車に乗って席座ったら寄りかかって来ちゃって…気持ち良さそうに寝てるから起こすのもかわいそうだと思って、着いたら起こそうかな…そう思ってこのままなんだ」
やはり最初に思った通り大門はお人好しだ。摩央だったらうざいと思って寄りかからせない、どかして席移動ぐらいはしている。
目的地に到着するまで彼の名前はまだ謎に包まれたままか。
『まもなく~立見~立見~、出口は右側です』
電車の車掌のアナウンスが聞こえ目的地が近くまで来ている、それが聞こえれば大門は寄りかかっていた少年の身体を揺らした。
「起きて、起きて。立見着くよ、キミはそこの学生なんだろ?」
「ん~………んあ?」
大門に身体を揺らされ、ようやく夢の世界から帰還した少年。うーん、と身体を伸ばして欠伸すると席から立ち上がる。それに合わせ、大門も摩央も席を立つ。改めて席を立つと大門の身長はかなり高く185cmぐらいは行っている。摩央や少年とは確実に30cm以上の差があった。
周りの大人と比べても彼を超えるどころか同じぐらいの身長の者はあまりいない。
「すっかり寝ちゃったなぁ、いやぁ悪いね起こしてもらって!」
「あ、いや…その制服。同じ制服だから同じ学校の人で目的地も同じと思ったから……えっと、何年生で?」
今更ながら大門は気付いた。見た目が小柄でも実は年上の先輩というパターンはあるかもしれない、摩央は同じ1年だったが彼も同じだと決まった訳ではない。これで2年や3年だったらさっきまでタメ口で言ってたのは失礼ですぐ謝罪しなければならない。
「ん?何年も何も僕今日から通うから1年だよ」
寝ていた少年は摩央や大門と同じ1年、見かけによらないというパターンは無かった。見かけ通りだ。
「僕は神明寺弥一、これからよろしく♪」
人懐っこい笑みを浮かべて摩央や大門へと挨拶し、摩央の方は入学初日から色々な事が朝から起こり調子が狂いそうだった。
まだ学校にも着いていないのに今まで避けてた分のツケでも回って来たのかと思わされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます