第25話 アランの企み
「クライブ殿、馬車はどうだ?」
「快適です。ありがとうございます」
アランは愛馬に乗ってついてこようとしたクライブに馬車を勧めた。いざという時の移動手段である馬を奪っておけば、逃げられないと考えたのだ。
アランは、クライブを牽制するように微笑んだ。
「客人を馬には乗せないよ。転移魔法が使えればすぐだったのだが、長旅を強いてすまないな」
転移魔法は使える人間が極端に少ない。カシムとリーリアは使えるがその事実を知っている者はごく僅か。また、魔力の核が修復したクライブも転移魔法を使える。魔法が使えるようになったクライブは以前と変わらない魔力を有していた。過去のクライブの魔力が多かったから、核の修復に時間がかかったのだろうと推測されている。クライブは僅かな時間に検証を行い、過去に使えた魔法はほぼ全て使えると確認している。
魔力を取り戻したクライブは、カシムと変わらないくらいの魔力がある。だが、敵と認識しているアランにわざわざ知らせるほど、クライブは愚かではない。
世界中を探しても、転移魔法を使える人間は数十名だ。カシムやリーリアの実力を過小評価しているアラン達は、国に転移魔法が使える者は存在しないと信じている。
アランも転移魔法は使えない。以前より訓練を怠っているアランは、通常の王族と変わらない魔力しかない。
過去では兄に負けないように努力したのだが、今のアランはそんな努力をしていない。
「クライブ殿は、防護魔法以外は苦手なのか?」
失礼な質問を浴びせるのは、アランの兄。
兄弟揃って失礼な奴らだと内心思いながら、クライブは微笑んだ。
「ええ、防護魔法は得意なのですが……」
今は魔法が使えないと見せかけた方がいいので穏やかに対応する。
しかし、アラン達はクライブを馬鹿にしたように笑っている。いくらクライブの方が身分が低いとはいえ、彼はいずれ王女の伴侶になる男。
通常ならありえない態度だ。
側近は王子達を咎めたが、王太子であるアランの兄が構わないと笑う。
一気に、アラン達への不信感が広がっていった。周りの不快感に気が付かない兄弟は、クライブに質問を続ける。
「防護魔法は、どれくらい保つんだい?」
「……1週間程度でしょうか」
「そうか。もうすぐ国に着く。歓迎の宴を開こう。早馬で到着を知らせておく」
「光栄です」
微笑む王族達の悪意に気が付いたクライブは、心の中でため息を吐いた。
その日の夜、周りにいる敵を全て魔法で眠らせてから、クライブは魔法でリーリアの元に帰還した。
「予想通りだな。俺は魔力なしだって糾弾するつもりみたいだぜ」
「性格は前と変わらないみたいね。あの人達、大事な発表があるからって触れ込みで世界中の要人を呼び寄せてるわ。わざわざ転移魔法の使い手を雇ってる」
「大量に王族を集めて、俺に魔力がねぇって証明するつもりだろうな」
「そうでしょうね。あの人達、クライブの光り輝く魔力の核が見えないのかしら」
「見えてたらあんな顔して俺を馬鹿にしねぇだろ」
「確かにそうね。お父様やお母様、クリストファーお兄様も、カシムお兄様から習うまで核の確認方法を知らなかったし……」
「うちは全員使えるから感覚が麻痺してたんだけど、留学してから珍しいって知ったよ。知ってからは魔力の核の話は人にしなかった。なんとなく相手の強さが分かるし、色で得意な魔法も分かるし、かなり便利なんだ。カシム様は、王家に伝わる魔導書で覚えたらしい。リーリアも魔力の核が見える事はできるだけ内緒にしておけよ」
「分かったわ」
「俺を舐めてくれてる方がやりやすいけど、呼ばれた王族達の中には核が見える人もいると思う。そしたら、俺が魔力無しじゃないと証明できる」
「証言も大事だけど、手っ取り早いのはクライブが魔法を使う事ね。あいつらがクライブを糾弾したら魔法で教えてね。転移でお父様を連れて来て、正式に抗議するわ」
「頼む。なんもしてこないならそれで良いけど……多分ありえねえよな。抗議されりゃ、あの王太子もタダじゃすまねぇよ」
「アラン様のお兄様?」
「ああ、あの人も俺が魔力なしだと思ってる」
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