第24話 希望の欠片

「リーリア、頼むから無理しないでくれ!」


「嫌よ! 無理するわ!」


「いい加減にしないとカシム様とクリストファー様を呼ぶぞ!」


「もう呼ばれている。リーリア、そのままでは魔力が枯渇して気絶する。いい加減やめなさい」


クリストファーがリーリアを止めようとするが、リーリアは止まらない。


「枯渇しても、寝れば全て回復するわ!」


そう言い、魔力をクライブに与え続ける。


婚約発表から1週間、滞在していた賓客が少しずつ帰り始めた。国王と王妃はそれぞれ要人の見送りで数日不在となっており、城の最高責任者は王太子であるカシムだ。


リーリアはアランと会った日から、毎晩寝る前に気絶寸前まで魔力をクライブに注ぎ込んでいた。アランの態度から、彼も過去を知っていると判断したのだ。


リーリアの焦りを理解している兄達も可能な限り魔力をクライブに与えている。しかし、兄達はいざという時に国を守らねばならない。リーリアのように大量の魔力は与えられない。


リーリアはクライブの家族にも話をして、協力を要請した。コーエン侯爵家の者達も城を訪れクライブに魔力を与えている。


おかげで、クライブの魔力の核は以前とは段違いのスピードで修復されていた。今にも割れそうだった傷は少しずつ塞がり、今のペースならあと数日で完全に修復される。


だから焦らなくて良いとクライブは言い続けた。リーリアに無理をしてほしくなかったから。


だが、カシムはリーリアを止めなかった。それどころか、自身の魔力もクライブに注ぎ始める。


「兄上?!」


「クリストファー、今日から寝る前に交代で魔力を全てクライブに注ぎ込むぞ。今日は私、明日はクリストファーだ」


「兄上まで! どうなさったのですか?!」


「アラン王子が、クライブだけを国に招待したいと言い出した」


「……なんですって?」


「あちらはクライブの魔力がないと気付いている。おそらくアラン王子も記憶が残っているのではないか? 魔法を使った時、近くにいたりしなかったか?」


「いました。アラン王子の目の前で、時を戻しました」


「術者の近くにいた者は稀に記憶を取り戻す事があるらしい。先ほど、書物をひっくり返して調べた」


「……やっぱり……」


「一刻も早くクライブの魔力を取り戻すんだ。クライブが魔力なしと判明してしまえば、リーリアとの結婚が危うくなる」


「クライブは魔力がなくても強い騎士なのに!」


「分かってるよ。だけど王侯貴族はそう思わない者も多いんだ。人々の常識を変えるには時間が必要になる。私は今できる最善を尽くす。理想だけでは国は変えられないからな。今の最善は、クライブの核を一刻も早く修復する事だ! リーリア、気絶しても良い! あとはクリストファーが上手くやってくれる! 全ての魔力をクライブに注ぎ込め! クリストファー、我々が倒れたら対処を頼む!」


カシムとリーリアは、全ての魔力をクライブに注ぎ込んだ。


リーリアが倒れ、続けてカシムも倒れるとクライブの身体が輝きを放ち始めた。


「クライブ……これは……!」


「クリストファー様……魔法を使ってみてもよろしいですか?」


「ああ、やってみろ!」


クライブが幻影魔法を使うと、美しい虹が現れた。


「……使え……ます……!」


「そうか! 確かに核が修復されている! 良かった! 良かったなクライブ!」


「みなさんのおかげです。本当に……ありがとうございました……! これでやっと……約束が果たせます……!」


「約束?」


「時を戻っても、この虹を見せるとリーリアと約束したのです」


「まさか、核が残っていたのはクライブがなにかしたのか?」


「半年間、毎晩魔力を極限まで使い核を保護し続けてきました。核が壊れるのは避けられませんでしたが、リーリアの魔力が多かった事もありなんとか砕けずに済んだのです」


「そうか。核が残っているのはどうしてだろうと思っていたが、しっかり準備していたんだな」


「最初は砕け散っても構わないと思っていましたが……リーリアが虹を見たいと言ったので、準備させて頂きました」


「ありがとう。妹を救ってくれて。兄上は私が運ぶから、リーリアを頼む」


妹が大好きな第二王子は、侍女に指示を飛ばし兄を抱えて部屋を出て行った。

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