第21話 婚約発表
リーリアは16歳、クライブは19歳になった。
「リーリア、綺麗だよ」
「ありがとうカシムお兄様! お母様もありがとう」
「良かったわね。クライブならリーリアを幸せにしてくれるわ」
「わたくしがクライブを幸せにするの。クライブはね、いっぱい魔法を知ってたの。だから、使えないなんてつらいはずなのよ。絶対核を治すわ。そしたら反対する人達も黙るはずよ。わたくしはクライブがいれば幸せなの」
「……リーリア……わがままを言わない良い子だった貴女は……ずっと苦しんでたのよね。クライブと会ってから、よく笑うようになって……本当に良かったわ……わがままをたくさん言いなさい。世界一、幸せになるのよ」
「わたくしはもう一生分のわがままを言ったわ。だからこれからは、わたくしのせいで傷ついた人達の為に生きるの」
「リーリアのせいで傷ついた人などもういない。幸せになってくれ」
「わたくしは世界一幸せよ。大好きな家族に祝福されて、大好きな人と結婚できるんだから」
リーリアが無邪気に微笑む。兄と母は、密かに涙を堪えた。
ドアをノックする音がして、父ともう1人の兄が現れた。
「クライブの準備は終わったよ。ああリーリア、なんて美しいんだ!」
「ありがとうクリストファーお兄様。似合う?」
「とても綺麗だよ。クライブにくっついて、うるさい奴らを黙らせてやると良い」
「アラン王子から求婚の申し出があった。既に魔法契約を交わしていたので断る事ができたよ。ギリギリだったな」
クライブには魔力がないので、コーエン侯爵家と王家で魔法契約を交わした。
他にも、批判されそうな事柄は全て契約書に盛り込んである。それでも、クライブとリーリアの結婚には障害が多い。
横やりをが入る前に早く結婚してしまおうと、王や王太子が段取りを整えた。半年後、リーリアが17歳になったらすぐに結婚する。王族の結婚としてはかなり早いスピードだ。
ふたりの結婚を実現させたのはクライブだった。国一番の騎士となったクライブに褒美を与える事になった時、クライブはリーリアとの結婚を望んだ。騎士団長の地位を望むと思っていた周囲は騒めいたが、王がクライブの望みを認めた瞬間リーリアは、泣きながらクライブに抱きついた。
リーリアが密かにクライブを好いていたと知った令嬢達は、王女の恋物語を聞きたがった。クライブと結婚するには周囲の賛同が必要だと理解しているリーリアは、惜しげもなく自らの恋心を語った。
話を聞いて感動した作家がリーリアを主人公にした物語を描き、物語が人気になると国中が結婚を祝福した。
魔力が少な過ぎると陰口を言った者もいたが、かき消されていった。
魔力が少ないと言われた事を気にして、毎日リーリアがクライブに魔力を渡しているが、魔力の核はまだ修復できていない。大きな傷はなかなか治らず、リーリアは焦りを募らせていた。
しかし当の本人であるクライブは、あまり気にしていないようだ。魔法は苦手だと誤魔化しながら騎士としてメキメキ名を上げている。リーリア達がいつもクライブに防護魔法をかけるので、防護魔法だけは得意な騎士だと思われている。
過去では外交もせず物不足で民は苦しんでいたが、今は外交を行い国は豊かになった。時折、リーリアは自身の罪深さに心を痛めているが、そんな時はクライブが支えている。
自分を律するようになったリーリアの評判は良く、狙っている王族や貴族達はたくさんいた。両親や兄達はそれらを上手くかわし、なんとか本日の婚約発表にこぎつけた。
アランが求婚の申し出を行ったと知ったリーリアは驚いた。
「なんで? 過去で求婚の申し出なんて来なかったのに!」
「アラン王子って、僕達を殺した奴だよね」
「そうよ! クリストファーお兄様が握手をしたら……」
辛そうに目を伏せたリーリアの頭を、父が優しく撫でる。
「無理に思い出さなくていい。既に娘は婚約の契約を交わしていて、解除は不可能だと断ってある。今日、全ての契約内容を公開する。それで諦めてくれるだろう」
「……あの男、しつこいのよ。顔も見たくないわ」
「今日来ているかもしれんぞ」
「王族だもの。失礼な事はできないわ」
母が顔を歪めると、魔法の得意なカシムが防護魔法を発動した。
「リーリア、私と一緒に防護魔法を準備しておこう」
「ええ! みんなにかけるわ」
「クライブには私が魔法をかけておいた。コーエン侯爵達も注意すると言っていたが、念のため会場に入る前にリーリアも魔法をかけておくと良い。魔力を使いすぎるなよ。ちゃんと残しておくんだ」
「クリストファーお兄様、ありがとう! 分かったわ!」
念入りに準備をして、王族達は会場に向かった。
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