第7話 約束
「リーリア様、ご立派になられましたね」
クライブとリーリアが再会してから、あっという間に半年の月日が流れた。
最近は、国王がうるさく接触してくるのでクライブはずっと塔に籠りきりだ。侍女達への態度も良くなり、わがまま王女は変わったと噂になっている。
「ありがとう。クライブのおかげよ」
リーリアは、背筋を伸ばし丁寧な言葉遣いをするようになったので王族らしくなった。リーリアの変化に焦っているのは国王だ。
監視を増やし、ことあるごとにクライブを呼び出し自白魔法で情報を聞き出そうとする。
だが、とある理由でクライブは自白魔法が全く効かない。得意の幻術魔法で、魔法にかかったフリをしているだけだった。
クライブがリーリアに真っ先に教えたのも、自白魔法を防ぐ方法と、かかったフリをする幻術魔法だった。現在のリーリアは、自白魔法が一切効かない。
「自白魔法をかけられたら、どうすればいいかお分かりですね?」
「幻術魔法で目を色を変えて、王位に興味を示さず静かに暮らしたいと言えば良いのよね」
「その通りです。そうすればあの男の目的が分かります。時を戻す前にそれだけは確認しておかないと……」
「分かったわ。ねぇクライブ。どのくらい時を戻せるの?」
「リーリア様がお生まれになった瞬間まで時を戻します。リーリア様を起点にしますので、リーリア様の記憶は残ります。学んだ魔法の力も残ります。今の状態で成人するまで時を稼げれば、リーリア様は誰よりも強い魔法使いになれます。侵略者が来ても、跳ね除けられます」
「クライブは? クライブはわたくしの事を覚えてるの?」
「分かりません。私の事は忘れて、国を救って下さい」
「そんな……そんなの嫌よ!」
「リーリア様、上に立つ者は時には切り捨てる覚悟も必要です」
「……分かってるわよ! でも、嫌なの!」
「陛下は……リーリア様のお父上は……優しすぎたのです。リーリア様の望みを全て叶えようとなさった。しかし、いくら国王でも全てを手に入れる事はできません。むしろ……上に立つ者ほど手に入らないものが多いのかもしれません。知らなくていい事も知ってしまう。失う時は、とても大きなものを失ってしまう。ですが、リーリア様は全てを取り戻す覚悟をなさった。家族に会いたいと泣いておられましたよね。その為には、多少の犠牲には目をつぶって下さい」
「クライブを犠牲にするなんて絶対に嫌! 貴方も一緒だと思ったから、頑張ってこれたのに!」
「……リーリア様は、相変わらずわがままですね」
「もうわがままは言わないと約束したけど……お願い……クライブ……忘れちゃ嫌なの……覚えてて……でないと……時を戻れない」
「……分かりました。起点になるリーリア様が心から時を戻したいと願わなければ、この魔法は成立しません。私とリーリア様を起点にします。そうすれば、私もリーリア様も記憶は残ります」
「ありがとう……!」
「ただし」
クライブは、じっとリーリアの目を見つめた。
「リーリア様の鍛えた魔力は、全て失われます。もう一度、鍛え直しになります」
「……それって……」
「生まれてすぐ、魔力を鍛え始めて下さい。通算5年間魔力酔い状態を続ければ体内が強化され魔力が最大値まで増えます。常にとは申しません。少しずつで結構です。子どもの頃は魔力が安定しないので、大人になるまでに累積で5年程度訓練すれば充分です。辛いでしょうが、隙を見て訓練を続けて下さい。私の事は忘れて、魔力を残して過去に戻ればそこまで頑張らなくて良いんです。毎朝少し訓練をすれば、6歳くらいには最大値まで伸びます。だから……私の事は忘れて……」
「その程度でクライブとまた会えるなら構わないわ。毎日やっていた訓練を、5年続ければ良いのね?」
「簡単に仰いますけど、ここ半年の鍛え方は異常でしたからね。あれは、騎士の訓練法です。リーリア様は何度も気を失っておられましたし、私のいないところで無茶するのはやめて頂きたいです。本音を言えば、私の事は気にしないで頂きたい。全て鍛え直すのは大変です。今までのリーリア様の努力がなかった事になってしまいます」
「また鍛えたら良いわ。わたくしは、わがままなの。クライブが記憶を失うなんて絶対に嫌! 訓練なんていくらでもするわ。お願い、また会いたいの。過去に戻ってあの虹を見せてちょうだい」
「分かりました。必ずお見せします。クライヴ・ L ・コーエンの名にかけて、お約束します」
リーリアに跪いたクライブは、剣を掲げて臣下の礼をとる。多くの主人に仕えたクライブだが、臣下の礼をとった事は一度もなかった。
クライブは、生涯リーリアに全てを捧げると誓った。その真の意味をリーリアが知るのは、時を戻ってからだった。
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