第5話 離婚

クライブは、リーリアが幽閉されている北の塔にやってきた。スヤスヤ眠っているリーリアを起こすのは忍びないが、一刻も早く終わらせたい仕事があったのでリーリアを魔法で起こす。


「リーリア様、体調はいかがですか?」


「クライブ? 急に眠くなって……」


「私の魔法ですね」


「そうだったのね。なんでいきなり寝かせるのよ!」


「お疲れのご様子でしたので」


「その顔、前と変わらないわね。まぁ良いわ。久しぶりにゆっくり眠れたし。ありがとう」


お礼を言うリーリアに、侍女達は目を見開いた。


今までリーリアがお礼を言っている姿など見た事がなかったからだ。だが、それもそのはず。


塔に閉じ込められてからのリーリアしか知らない侍女達は、リーリアを軽く見ていた。


チヤホヤされている事に慣れているリーリアにとって、態度の悪い侍女にかける言葉なんてない。


クライブは違う。

思い出補正もあるのか、リーリアはすっかりクライブに心を許していた。


「リーリア様。残念なのですが、リーリア様と国王陛下の結婚は無効となります。こちらの書類にご記入下さい」


「……もしかして、クライブはこの紙を書かせる為に来たの? また、どこかへ行っちゃうの? そんなの嫌よ!」


「ご安心下さい。王命により私はリーリア様の護衛騎士に任命されました。これからは、毎日こちらに伺います」


「そうなのね! なら、さっさと書くわ! ここに名前を書けば良い? あーもう、字が細かくて面倒ね! ねぇ! どこに名前を書くの?!」


「リーリア様、きちんと中身を読みましょう」


「え? そうなの? いつもみんなが持ってくる書類は、名前だけ書けば良いって……」


「なりません。リーリア様は王族です。貴女様のサインひとつで街が滅びる事もあるのですよ」


「そ……そんなわけ……」


「あるのです。きちんと全て読んで下さい」


「分かったわ」


リーリアは素直に書類を読み、サインをした。


「要は国を乗っ取ったからもうわたくしは要らないって事ね。結婚していた事実を抹消するくらい嫌だったみたいね。わたくしだって、仇の妻なんて御免よ。内容は読んだわ。クライブも確認してちょうだい」


「既に確認済みです」


「でしょうね。はい。書いたわよ。婚姻届の時みたいに魔力を流せば良い?」


「はい。お願いします」


結婚や離婚などの契約は、魔法で管理されている。サインと紙に込められた魔力。その2つが揃った時、契約は成立する。


紙に自身の魔力をシールのように貼り付けておけば、偽装も防げるし代理の者が書類を持参して契約できる。魔力を紙に貼り付ける魔法は、貴族や王族なら必ず習得するべきものだ。それくらい、よく使う。だが、リーリアは使えない。


彼女が出来るのは、全てが整った契約書にサインして魔力を通す事だけ。


婚姻届を無理矢理書かされた時、散々馬鹿にされた事を思い出したリーリアは不機嫌な顔をして書類に魔力を通した。


契約書は消え、リーリアは正式に離婚した。


「陛下に報告を」


これで堂々とリーリアと話せる。クライブは、喜びを隠しながら侍女達を追い出した。

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