第2話 リーリアとクライブの出会い

クライブは疲れ切ったリーリアに眠りの魔法をかけて北の塔に戻した。浄化を魔法をかけて身体の汚れを取り、修復魔法で破れた服を直す。


ボロボロだったリーリアは、美しい姿に戻った。目は瞑ったままだ。クライブのかけた眠り魔法の効果は丸一日。しばらくは静かに眠っているだろう。


念のために防護魔法をかけてリーリアを寝台に寝かせると、クライブはため息を吐いた。


リーリアを死なせるなと王命が下っている以上、今回の出来事を報告しないわけにはいかない。しかし、報告したくなかった。


「なんて言われるか分かったもんじゃねぇよなぁ。けど……今度こそリーリア様を守ってみせる」


誰かに聞かれる事を想定したクライブの言葉は、王家の影が聞いており新国王にきっちり報告された。


クライブは過去を思い出しながら、足早に主人の元へ向かう。


クライブとリーリアが出会ったのは過去に一度だけ。だが、クライブはリーリアと出会った日の事を忘れない。


「姫、ご覧下さい」


「わぁ凄い! 凄いわっ!」


まだ幼いクライブが幻影魔法で描いた虹を見たリーリアは、泣いていた事を忘れてはしゃぎ始めた。


侍女達はホッと胸を撫で下ろし安堵する。


「クライブ様のおかげで助かったわ。リーリア様がご機嫌になって良かったです。さ、リーリア様のお好きなお菓子をご用意しましょう」


「そうね! リーリア様は可愛らしいすてきな王女様ですもの」


リーリアは家族に溺愛されている。使用人達はリーリアの言いなりだ。なんでも思い通りになるリーリアは、ますますわがままになってしまう。


「姫、そろそろ時間切れです」


「えー! 早い! 早いわっ!」


「申し訳ありません。僕はまだ魔法が苦手で……」


「仕方ないわね! あとひとつ素敵なものを見せてくれたら許してあげる」


「ありがとうございます。では、海をお見せします」


「うみ?」


「はい。海の上を魔法で飛んだのです。その時の景色がとても素晴らしくて」


「見せて! 早く見せて!」


「はい。ご覧下さい」


少年の魔法は、現実のような幻を作り出す。


美しく広がる海に、侍女達も思わず感嘆の声を漏らした。


「凄い! とっても綺麗!」


「海の上を魔法で飛ぶと、とっても気持ちいいんですよ」


「わたくし、まだ飛べないわ」


「練習すればできるようになりますよ。魔法は訓練すればするほど魔力が上がり上手になるのですから」


「どうやって訓練すれば良いの?」


この発言で、クライブはリーリアが魔法を使えないと理解した。


「手を握ってもよろしいですか?」


「いいわ! 許すわ!」


「では、失礼して……」


クライブはリーリアの手を握ると、魔力を流した。


「なにこれ! あったかい!」


「これが魔力です。今、リーリア様の掌は温かいですよね?」


「ええ、なんだか不思議。温かいボールを持っているみたい」


「その温かいものが魔力です。身体に取り込んで、体内を巡らせてみてください」


「こう? わ! 凄い! 温かいものが動いてる!」


「素晴らしい。お上手ですね。これを続ければ魔力が上がります。魔力が上がれば、やりたいことをイメージするだけで魔法が使えます。空も飛べますよ」


「そんなの面倒だわ」


「そうですか? 僕は魔法の訓練は楽しいですよ。リーリア様は王族でしょう? お兄様は素晴らしい魔法使いですし、きっとリーリア様にも素質がありますよ」


「訓練したらわたくしも空を飛べる?」


「ええ、もちろん。最後に空を飛んだらどんな景色が見えるかお見せしますね」


「うん! ありがとう!」


少年の見せてくれた景色に、幼い王女は夢中になった。その後、王女は訓練を続けて少しだけ魔法が使えるようになる。もっと頑張ればよかったと後悔したのは、家族が死んだ時だ。


「もっと、もっと見たいわ!」


「申し訳ありません王女様。そろそろ魔力切れです。この魔法は、あと少ししかもちません」


「えー、そんなぁ」


「王女様が訓練すれば、いつでもご自分で見る事ができますよ。王女様ならきっとおできになるでしょう」


「仕方ないわね! わたくしは凄いから、練習してあげるわ!」


リーリアはクライブを気に入り、再会を望んだ。だが、娘に悪い虫がつくと感じた国王はクライブを排除した。王命により、クライブは留学という名目で国外追放された。クライブが祖国に帰れたのは、国が乗っ取られてからだ。


もしクライブとリーリアが定期的に会えたなら、未来で起きる悲劇は避けられたかもしれない。クライブの温かい言葉は、しっかりとリーリアの心に届いたのだから。


クライブと会えなくなったリーリアは今まで通りのわがまま王女のまま、与えられた箱庭でつまらない日々を送った。


自分のわがままが人々にどんな影響を与えるか理解したのは、国が滅んだ後だった。

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