やり直したからには、立派な王女になってみせます!

編端みどり

第1話 リーリアの後悔

リーリア・フォン・ドゥーラントは美しいだけの王女だ。


親や兄達に甘やかされ、好き勝手に過ごすわがまま王女と呼ぶ人もいる。だが、リーリアに伝わることはない。


リーリアを溺愛している王族達が、全てを覆い隠してしまうからだ。わがままで困るとこぼした侍女は処刑され、良かれと思って厳しい事を言った家庭教師は国外追放された。


王族や貴族であれば一般市民の数百倍の威力の魔法が使えて当たり前なのに、リーリアは一般市民よりも魔法ができない。


そのうち、リーリアの前で魔法を使うだけでクビになったり処刑されたりするようになった。


いつしか、リーリアの周りには甘い事を言うイエスマンしかいなくなった。その中には、リーリアを利用しようとした者もたくさんいた。リーリアは傀儡としてちょうど良い存在だった。悪い事は全てはリーリアのせいにされ、国は荒れた。


リーリアは箱庭で暮らしているだけだった。悪事を働いたのは親や兄達、そして甘い汁を吸いたい側近達。だが、民はリーリアを恨んだ。


酷い王家を見てられないので、問いただす。たった一言そう言えば、守りの結界は解除され無許可で隣国の王族達の侵入が許された。


国を守る騎士達も、文官も、真面目な者ほど彼らの侵入を許した。これで、王が改心してくれる。そう期待して。


しかし、隣国の者達は話し合いをする気などなかった。


王族だけで話をすると誰もいなくなった途端、彼等は本性を現した。突然魔法を放ち、リーリア達を殺そうとしたのだ。リーリアは何もできなかった。父や兄達がものすごい魔法を撃ち、母が必死で結界魔法でリーリアを守ろうとしている間、震えて泣いているだけだった。


どうして魔法の訓練をしなかったのか。リーリアはものすごく後悔したが、遅かった。


父と兄2人、母は殺された。だが、リーリアは殺されなかった。


それは、リーリアに利用価値があったからだ。


リーリアは隣国の第二王子の妃となり、第二王子はリーリアの国の国王になった。


話し合いで逆上したリーリアの家族に突然襲われて仕方なく応戦した。リーリアに国を治める力はないので、夫となった私が国を治める。簒奪者が作ったストーリーを人々は信じた。


国は隣国に乗っ取られたのだ。だが、ほとんどの人々は乗っ取りを歓迎した。反対したのは甘い汁を吸っていた者達で、正しく裁かれた。


その後、リーリアはわがまま過ぎるとの理由で北の塔に幽閉された。


民はリーリアの幽閉を歓迎した。


北の塔には、多くの書籍や魔道具が残っていた。1人になったリーリアはそれらを読み、魔法の訓練をして、ようやく自分の罪を理解した。


二度と塔から出られないと気が付いたリーリアは絶望し、泣き喚くようになった。


毎日届けられる食事に手を付けなくなり、身の回りの世話に派遣されていた侍女達を拒絶するようになった。瞬く間にリーリアの身なりは荒れて、痩せ細った。心もどんどん荒むようになった。


リーリアはぼんやりと窓の外を眺めるようになり、ある日……塔の窓を魔法で破壊して飛び降りた。


両親や兄達に会いたい。


リーリアの心にあるのは、かつて失った家族達だった。


「リーリア様!」


リーリアが破壊した窓の異変に気がついた1人の騎士が、リーリアに魔法をかけた。リーリアは怪我をする事もなく、騎士の腕の中にすっぽりと収まった。


「なにするの! 死なせてよ! お父様達のところに行くの! 生きていてもしょうがないじゃない。わたくしのせいで、お父様達は死んだのよ!」


「リーリア様のせいではありません。悪いのはリーリア様の為だと言い訳して圧政を敷いた国王陛下です」


「わたくしが我儘を言わなければ、お父様はひどい事をしなかった! わたくしが優しい王女だったら、民の怒りを買わなかった! わたくしがもっと魔法を使えれば……国を乗っ取られなかった!」


「後悔しておられるのですか?」


「してるわ! なんでこんな事になったのか分からない……でも……全部わたくしが悪いのよ……」


騎士の男はそっと結界魔法を展開する。表向きはリーリアを逃さない為。本当は、会話を聞かれないようにする為。


「リーリア様、厳しい事を申し上げますが何が悪いか分からないのなら、やり直しても無駄です」


男は、ずっとひとりで抱えてきた秘密をリーリアに打ち明けた。


「やり、直し?」


「ええ、私は1回だけ魔法で時を戻せます。ですが、今すぐ戻っても同じ事の繰り返しになるでしょう。私にひとつ、ご提案があります」


「提案?」


「ええ、過去に戻りリーリア様が改心すれば悲劇は避けられるかもしれません。ですがリーリア様は、なにが悪くてなにが良いのか、善悪の判断があまりついてないご様子」


「……そう、ね」


「きちんと学んでから、過去に戻るのです」


「そんな事できるの?」


「ええ、私は幻影魔法が得意なんです」


男の笑顔を見て、リーリアは思い出した。


「あなた……クライブ?」

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