第2話 告白
その場にいた
「ごめん、無理だ」
俺はすぐさま断る。告白を受けるという選択肢はない、雅子のことが今も好きだし、そもそも今雅子と付き合っているからだ。
「友達からでも」
凛子は引き下がらない。
「ごめん」
そう言って俺はその場から逃げ出した。それ以上いると良心が痛む可能性があるからだ。
「偉いよ光、よく断ったよ」
「当たり前だよ、俺の彼女は雅子だけだよ」
そう言って雅子の頭に手をやる。触れないのが残念だが、まあ十分だ。
家
「さーて雅子何をする?」
家に帰るとすぐに雅子に話しかける。学校ではあんまり喋れないから、家でその分話したい。
「そうだなー、私は幽霊だから物には触れないしなー」
「いつもみたいにボードゲームやるか」
ボードゲームとは言ってもオセロとか人生ゲームとか、そういう手札が見えても良いやつだがな。
「ボードゲームはねえ飽きた」
そう言って雅子は足をバタバタさせる。
「そんな文句言わんくてもよくない?」
「じゃあ何ができるんだろ」
雅子は転がりながら考えている。
「うーん」
「じゃあ二人でSNSを見るのは?」
雅子が恐るべき提案をした。
「お前、現代人過ぎるだろ」
二人いてSNSを見るとは、誰かに怒られそうな提案だな。
「えーでもほかにできる遊びなんてないし」
「お前、幽霊だったら人に乗り移るとかできないのか?」
俺はふと思いつきで話す。幽霊になった直後は無理だったのだが、今だったらできるのかも知れない。それで乗り移れたら、大富豪とかも出来るかもしれない。まあそれ以前に雅子の存在を立証出来るけど。
「うーんたぶんできないと思う、さっきやってみたけど無理だった」
「そうか」
「ねーえ、そんなのいいからSNS見ようよ」
「わかったよ」
そして俺のスマホでSNSを見る。
「うわあひどい書き込みしか無いね」
雅子が呟く。
「そうだな、世の中荒れてんのかな」
「これとか見てよ」
そう言って雅子は一つの書き込みを指さす。
「うわあひどいな」
その書き込みには、「正樹監督は認知症だから監督やめたほうがいい、たぶんこいつ選手の名前とか覚えてないだろ。もう老害だから死ねばいいと思う。もうこの世の癌だし」と書いてあった。
どう育てばこんなにも心無いことをかけるのだろうか。全く理解することができない。
「ねえこれも見て」
そこには「銅峰選手もう引退しろ。お前のせいでいくつの勝ちを捨てると思ってるんだ。もうお前なんかチームにいらないし、こんな成績で一億もらってるのも腹立つし、もう引退してくれないかな」と書かれていた。
さっきの書き込みの内容に引けを取らないくそみたいな書き込みだ。最近本当にこういう奴が多い。プロ野球選手だけではないのだ、芸能人に対してもこういう書き込みが多い。
本当に見ているだけでしんどくなるような書き込みばっかりだ。
「もうやめよう、いい書き込みだけ見ようよ」
俺は提案する。あえてダメージを受けなくても良いのだ。
「えーいいじゃん。私は楽しいよ」
「もう、こういうの探せ」
そこには漫画が描いてあった。それはいわゆる百合漫画というジャンルだ。
「えー光、こういうのが好きなの?」
「そういうわけじゃないけど、こういうやつ見たほうが断然良いだろ」
百合漫画というのは単に女子同士の行き過ぎた友情……カップルという感じだ。
「ふーん、私は誹謗中傷を探したほうが楽しいけどな」
「お前の心汚いな」
俺は雅子のそういう態度に少しだけ腹が立つ。もうこうなったら誹謗中傷をしている人と同じだ。
急に玄関からピンポーンと音がした。
「なに?」
「どうせ宅配便だろ、母さんがいるから大丈夫だろ」
「そう?」
「まあとりあえずこのマンガ読もうぜ」
それはいわゆる親友が女に変わってしまうタイプの漫画だ。
「はあ、なんか光の好きな漫画の傾向が分かってきた気がする」
「別に俺の趣味というわけじゃないからな」
そう言い訳しておこう。まあ出てくる理由は俺がその漫画をフォローしているからなんだがな。
「はいはい、分かってるよ、お前の趣味なんてな。俺が付き合ってやるよ」
雅子が必死で男子の真似をする。
「いや、そんなんじゃ全然ないから」
そう言って俺は笑う。雅子は最高だ。
「ちょっとーひかる、こんなかわいい子を振ったの?」
そう言って母さんが凛子を引き連れて来る。どうやら振ったのに諦め切れなかったらしい。
「ちょっとなんできてるのよ」
雅子が文句を言ってくる。俺は母さんがいるから返事できない。もちろん雅子もそんなことは知っているだろう。
だが、それでも言ってくる。当然母さんは雅子の件を全く知らないのだ。それにそんなことを俺に言われてもなあ、どうしろと言うんだ。
「ちょっとまさか光、まだ葛飾さんのことを引きずっているの?」
当たり前だろ、そんな早く切り替えられるか。というかそもそもここにいるしな。
「引きずってても何が悪いの?」
挑発的にそう返す。俺は怒っているぞ。
「光は早く次の一歩を踏み出そうよ」
「俺は踏み出せん、悪い」
「私からもお願いします。断られた理由もわかってます。けれど私はどうしても光さんのことを諦めきれないんです」
「そうか」
俺は冷たく跳ね除ける。
「それに今のままでいいんですか? いつまでも昔のことに囚われて、それでいいんですか?」
「うるさい、出て行ってくれ。お前になんの関係があるんだよ。母さんはともかくお前は関係ないじゃないか」
実際雅子がいる今の状況で別の女子と付き合うつもりはないし、雅子が隣にいる今、凛子が言っていることは的外れなのだ。それに、末広や母さんならまだしも、雅子のことを知らない人に昔のことを言われても説得力が無い。
「ちょっと光、その言い方は良くないんじゃない?」
「いいんです、急に押しかけて来た私が悪いんですし」
「光、こんなかわいい子を泣かすなんて」
もうどうしたらいいんだ、今の状況は、凛子も母さんも俺の味方ではない。雅子だけが味方なのだ。母さんも母さんだ、息子の味方も少しはしてくれよ。
「光よくやった」
味方は本当に雅子だけだ。
「光もしこの子と遊ばなかったら夕食抜きだからね」
母さんが衝撃的なことを言う。パワハラすぎる。どうして俺に寄り添ってくれないんだ。
「はあ、なんだよそれ」
もしもこれが通ってしまったらそれはもう虐待になる。親の権力をフル活用するな!
「仕方ないじゃない、私は早く新しい人生を送って欲しいのよ」
「分かった、仕方が無い。お小遣いでハンバーガーでも買おう」
部屋から出ようとする。こんな無理なことを言われてもどうしようもない。
「なんでそこまで?」
凛子が聞いてきた。君は黙っててくれ。
「俺はどうしても雅子のことが忘れられねえんだよ。篠宮さんには悪いけど、今は誰とも付き合う気がない」
そう言って俺ドアをバンと閉めて部屋から飛び出す。
「はあ、あの子ったら、凛子さんごめんね」
「いえ、構いませんよ。急に家に来た私が悪いんですから」
「でも、私としてもあの子には新しい人生を送ってほしいのよ、もう葛飾さんが亡くなった直後の光はもう大変だったのよ」
恵はソファーに座り、凛子をソファーをトントンと叩いて誘う。実際光は葬儀の場で雅子雅子雅子と叫びまくって周りを困惑させたのだった。恵としてはできるだけ光の思いを汲み取ってあげたかったが、今でもたまに見知らぬ誰かと喋っている以上、もう強硬策に出るしか無い。光を諦めたく無いのだ。
「そうなんですか?」
凛子は一礼して椅子に座る。
「そう、雅子はまだ生きているとか言い出して大変だったのよ」
「それは大変ですね」
「だから凛子さんには光を変えてくれるための起爆剤として期待してたんだけど」
恵はため息をつく。
「ごめんなさい力不足で」
「いえ、謝ることじゃないのよ、あの子が悪いんだから」
「光偉いよ!!よく部屋を飛び出した」
「褒めてくれてありがとう、まあおかげで夕飯抜きになってしまったけどな」
「私がご飯奢れたらいいんだけど……」
「……お前金持ってないもんな」
「そうなんだよね、幽霊って困ったものよ」
そう言って雅子は困ったような顔をする。
「まあでも、飛び出してしまったのは仕方ない、出かけるか」
「やったー! 光とのお出かけ楽しみ!」
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