CLOIA Ж『死を呼ぶ存在』と転生女子高生の出会いЖ
ヨシオカ フヨウ
Episode:1 始まり
人は私のことをこう呼んでいた――疫病の元凶だと。
人は私のことをこう呼んでいた――悪魔だと。
人は私のことをこう呼んでいた――
『死を呼ぶ存在』だと。
● ●
――サァァ……。
この音は……、風に揺られる木々の音か……。
あぁ、こんな穏やかな音は久方振りだ。こんな穏やかな音を聞くのは何十年……、いいや、何百年振りだろうか。
人間で言うところの耳と言う器官から聞こえる音を聞き、穏やかで心まで安らぐような気持ちを感じた私は、もう何十年……、何百年振りかわからないような気持ちを感じつつ、こんな日は滅多にないだろうと思いながら今日と言う穏やかな日を堪能する。
温かく、優しい日の光を肌があったであろうその場所で堪能し、目があったであろうその窪みの中から、視界と言う一つの窓から世界を目に……、いいや、ないから唯一あるであろう記憶に焼き付けるように見つめる。
視界と言う名の窓の外の世界は、今まで見てきた世界とは違う。明るくて、こんな私が言うのも変かもしれないが、胸の奥が温かくなりそうな、優しい世界が広がっている。
空から降り注ぐ日の光を遮る様に生い茂っている樹木。その樹木の葉からはみ出るように日の光が木の幹や枝の一部を照らし、暗闇ではないが明るくもない、一言で言うのならば影の芸術を作り出している。
大昔の文献に、この情景を物で作り、そして人々に興奮を与えた筒状の物があったと書いてあったような気がするが、生憎長年生きているせいで忘れてしまった。
絵の具で描くことができない自然で、一度しか見られない芸術の世界とは正反対に私の足元には灰色の花や薄黒い花が樹木と言う遮りのない状態で日の光と言う名の栄養を摂取している。
………………………。
いいや、この花は元々白かったのだ。真っ白で、私には不釣り合いなほど純白の花。穢したくないほど真っ白な花だ。
名は忘れた。しかしこの白い花を穢したのは私。
誰も来ないこの大地に、縛られている私が、純白の花達を穢してしまったのだ。
私と言う『死を呼ぶ異形』の血を……、人間の体に流れるような、川のように流れる血ではなく、穢れに穢れてしまい、ドロドロになってしまった真っ黒な私の血を養分としてしまったせいで……。
「………………………」
私は跪く体制で、己の下半身とその足元で懸命に生きようとしている灰色や黒、そして微かに純白が残る花達を見降ろす。
花達の花弁に、私の下半身や胴を伝い落ちていく真っ黒な液体――私の血液がぽたり。ぽたりと落ちていき、純白で美しい花弁を穢し、そのまま地面に向かって伝い落ちていく黒い血。
花の中心となる
もう何度も何度も零しているせいで、溜息をするという行為そのものを怠慢してしまいたいくらい、私は何度も溜息を零している。だからしなかった。
こんなことは日常茶飯事。もう何百年生きているのかわからない私にとってすれば、純白の花達を穢すことは日常なのだ。
そう……、私と言う『死を呼ぶ存在』にとってすれば……。
なぜ私が『死を呼ぶ存在』と呼ばれているのか。正直私にもわからない。
気づいたら私はこんな姿――人の姿というものをしていなかった。
生まれた時からなのか、それとも突然こうなったのか。そのことを考えていたのは自覚して二十数年程だと思うが、こんなにも長く生きてしまっているのだ。次第にこの姿を受け入れて、私は私としていたが、私は人ではないことが畏怖としての対象となってしまったのか、人の姿をした人々は私をこの場所に縛り付けた。
最初こそ抵抗した。人々の口々から出てくる『死神』と言う言葉に対して『何故私が死神なのか』と異議を唱えたが、誰も聞かなかった。
なぜ私が『死神』なのか。そのことについて考えたのはたったの十年。その十年が過ぎたと同時に、私は考えることを諦めた。
受け入れたと言った方がいいだろう。
人は呼んでいた。私を『死を呼ぶ存在』であり、この場所は私の墓場だと。
……、いいや、ここは私の墓場であり、墓場ではないのかもしれない。
私は何百年と自分で言っていたが、正直なところそれ以上生きているような気がする。そのくらい私はこの場所でずっと純白の花達に膝をつき、己の血で黒くなるその光景を見続けたのだ。それが何年などと言うものでは済まされないほど、私は長生きをしているんだ。
だからこの場所は墓場ではない。だがこの場所に縛られている私にとって、この縛りから逃れることを長い年月を経て諦めてしまった私にとってどこかへ行くという選択肢など――
――がさり――
「!」
また突然だ。今日はなんだかいつもと違うことが起きている。いつもは雲しかない空が青く染まり、この地に火の光と言うものをもたらしたと思ったら、今度は何かがここに近付こうとしている。
この音から察するに、人の足音だろう。
私とは違う――人の足音。先ほど聞こえた音につられるように、均一に草木を踏む音を奏でる。がさり、がさりと……、滅多に人が来ないこの場所に向かって、どんどん音を大きくしながら近づいて来る。
私はその音に対し、耳の無い体で聴覚を研ぎ澄ませながらその音が来るのをじっと待つ。
警戒するにもこの状態では、縛られている状態では何もできないが故、私は縛られた状態でじっとその人物が来るのを待つ。
それに、人ならば私自身何かをしなくともこの私を見ればすぐに姿をくらますだろう。
私は人ではない――人が言う……『死を呼ぶ存在』なのだから。
そう思いながら、何百年振りなのか忘れてしまったが、久しぶりの人が一体どんな人物なのかを見ようと、動ける首を動かし、視覚の役割を担っていたその窪みから見つめる。
人間にあるはずのその目で、視覚でがさがさと一人でに蠢く草木に視線を向けて……。
一体どんな人が? こんな辺鄙で誰も近付かないだろうこの場所に……。そんな思考が唯一機能してあるであろう脳内で浮かぶと、蠢いていた草木から『がさっ!』と、勢いよく這い出ると同時に、その人物は私に視線を向け、驚きの表れでもある行動――小さな口を開けて私のことを見ていた。
何百年以上も生きている私から見ても見たことがない――灰色の厚地の上着に赤い生地でできた紐のようなものを蝶々結びをし、それを首に巻きつけている。手に持っているものは……、荷物なのかわからないが、肩から下げている荷物に手には薄い鉄の板を持っている。下は黒い生地で作られているが膝上までしかないものでそれを腰に巻いている様な着こなしをし、足には膝のところまである貴族が履く靴下と、何の皮でできているのかわからない茶色い履物を履いた……女だった。
女は私のことを見て、呆けた口を開けたまま固まってしまっている。
血色のいい肌を紫、目のところにある丸い何かをかけ、私の血と同じ黒色の髪を三つ編みにした女は私のことを見た後、開けていた口を僅かに動かし、「あ」と声を零した後、女は私のことを見て言った。
驚きと同時に、感動や興奮が上乗せされた音色で、女は言ったのだ。
「うそ……。本当に私、異世界に来ちゃったんだ……。私、異世界転生したんだ……!」
● ●
女は言った。私の記憶にはない言葉を並べながら、女は私と言う存在を見ても驚きもせず、どころか恐怖よりも興奮が勝っているような雰囲気で――
「すごい! すごい! 本当に私異世界転生したんだっ! 一時はこんなわからない世界に来てどうなるのかなーっとか、よく見る転生物鉄板のチートスキルがなかったからどうしたらいいのかなーって思っていたけど、人に会えてよかったぁ!」
と、意気揚々と言うのか、それとも人に会えたという安心で舌が回っているのかはわからない。それでも女は言ったのだ。
『よかった』と。そして『私に会えてよかった』と――
正直、私は混乱していた。
なにせ私のことを見てにこやかに言う人間などいなかった。誰もが私のことを恐怖の対象で見、そして離れる輩がたくさんいた。そして私を――『死を呼ぶ存在』と呼び、畏怖として見ていた。
だが、この女は違う。私を見ても怖がることもなければ畏怖として見て逃げることもなく、逆に喜びながら私に近付こうとしている。
その光景を見た私は、混乱から覚めると同時に警戒の念を向ける。
なにせ私のような存在を見ても逃げない。かつこの国の物ではない変な服を着ているのだ。怪しい以外何でもない。警戒一択しか出ない。
だから私は突然出てきた女――この国の人間が着用している服ではない衣服を見ながら、私は呆れるような面持ちで女に向けて言った。まるで待ったをかけるように――私は声で女を静止にかける。
「人か。お前は私のことを人として捉えているのか? こんな姿の私のことを、人として」
「え?」
私は初対面でもある女に対して質問をした。膝をつけている状態で質問をしたことで、先ほどまで饒舌となっていた舌が一瞬止まり、女は呆けた声を出しながらきょとんっと目を丸くする。
まるで意外な質問と言わんばかりの顔だ。
……私は普通に質問をしたのだがな……。そんなことを思っていた時、女は平然とした面持ちで首を傾げながら……。
「え? 人じゃないの?」
と、当たり前のように質問に対して質問で返した。
女の言葉に対し、質問に対して質問で返された私は、何百年以上も生きてきた身でもあるにも関わらず女の言葉に対して驚きを隠せず、今度は私が驚きの顔で固まってしまった。
人ではない私に対して――『人じゃないの?』と、平然と言ってきた女に対して、私は困惑した。いいや、驚いたの方がいいだろうな。
こんな感情……、今まで感じたことがない。どころか、私に対して『人じゃないの?』と言う女を見たのは、何百年以上も生きてきた身ではあるが、生まれて初めてだ。
そう思ってしまうほど、驚いていた。
だが、私の驚きを見て女は再度首を傾げつつ、腕を組み、「あれ?」という疑念の声を上げた後、再度私のことをよく見るように視認し、そして私の上を見上げながら彼女は――
「まぁ、よくよく見れば人じゃない……のかな? 甘い匂いにつられてここまで来たけど……、本当に人じゃないね。顔や体からは煤のようなものが零れているし、顔は煤の所為で人相がわかんない。それを見れば人じゃないよね……。でも人間の足や手があるし紳士っぽい黒い服を着ている。けどなぜか膝をついている状態で、両手はなぜか背中に回された状態で、あなたの背にあるすんごーく大きな黒い十字架のようなものに鎖で縛られ、しかも体にはなんか黒いものが突き刺さっている……。え? 痛くないの? え、てかこれやばいんじゃないのかな? あ、やばっ。え、やばい! やばいやばい! このままじゃこの人死んじゃうっ! ちょっと待ってて! 私人呼んで」
と言いながら、何を勘違いしたのか、私の縛られている光景を見て慌てだした。
まぁ殆ど女の言う通りなのだが、私は確かに背にある大きな黒い十字架に磔にされている。と言っても根元のところで鎖で縛られ、そして体中に深く、深く貫通するように突き刺さる杭からは私の血が零れ出ている。
だからこのあたりに咲く花達が黒くなってしまっているのだ。
そう……、この地に縛り付けた者達の手によって……。
そんな私を見て女は突然慌てだし、人を呼ぼうとその場から離れようとした。この私の状態を見て、こんな人ではない私を見て助けを呼ぼうとした女の行動を見て、私は女の言葉を遮る様に、冷静に「いい」と言った後、驚きの目で私のことを見ている女に向けて、私は宥めるように言った。
「人を呼ばなくても、私は何百年以上もの間この状態だ」
「え? 何百年以上もの間……?」
「ああ」
女の驚きの言葉に私は頷く。そして続けて私は言う。
「それに、私のことを助けようとしても、如何なるものが私のことを助けようなど思わないだろう。私は――『死を呼ぶ存在』なのだ。助けること自体おかしい話だ。私は死なない。殺されることができない存在だ」
「………………………」
そう言って私は女に視線を――眼などないが視覚と言うもので女のことを捉え向ける。こんな私のことを助ける輩がいるなどありえない。そう言い聞かせるように言うと、その言葉を聞いた女は驚いた顔をして、そして私のことを見つめながら――
「『死を呼ぶ存在』……? それが、あなたの名前なの?」
と、女はまた質問に対して質問で返すという、長い間生きてきた私にとって意外過ぎることを平然と行う。その言葉を聞いた私は頷きもせず、首を振るうこともせず、何もしないで女のことを見る。
イエスでも、ノーでもない。
私自身わからないからこその視線での回答。
そんな回答を回答として捉えた女は、イエスかノーの返答どちらかを捉えた女はもう一度と言わんばかりに私に向けてまたもや質問をしてきた。
私のことを見ても畏怖などしていない。恐怖の対象として見ていない目で、女は聞いてきた。
「どうしてこんなところにいるの? あなたはなぜこの場所でずっといるの?」
「そのようなことは何百年もの前に私をこんな風にした輩に聞け。最も私は何百年以上もここにいるんだ。こうした張本人はもうこの世にいない」
「動けないの?」
「ああ動けない。私のことをこの場所に縛り付けた人物は王国の直属の輩だ。死んだとしても継続する封印なのだろうな」
「封印……。それって、魔法的な物? 王国って、この国を治めている国のこと?」
「魔法か……、そうだな。この世界では魔法と言うのかもしれない。そして王国のことを知らないのか? 私が知っている限り……、この国の名は変わった。『ダルガルダ王国』と言う名に」
「だ、だる、ダルメシアン王国? 随分可愛らしい名前だね」
「ダルガルダ王国だ。知らないのか?」
「うん、知らない。あなたと言う人を知っただけで、私は何も知らないよ。この世界のことは」
「この、世界のことは?」
私の姿を見て、そしていくつかの質問を聞いた女は、先程の行動がまるでまやかしであったかのように――助けを呼ぼうとしていたその場所で足を止め、その場でうーんっと腕を組んだ後で女は小さな声で『よし』と言い、女は徐に足を動かす。
今まで遠ざかる様に向けていたその足を――私に向けて、近付くように……。
私は再度混乱した。驚きもした。眼がないのに、瞼もないのに、目を見開いたかのような衝撃を感じながら――一体何が良しなんだ? と思ってしまう。
私は女の言葉に対して疑念を感じつつ、感情と言うものが豊かな女だと頭の片隅で思っていたが、前言撤回しようと思う。この女の行動は予想ができない。
ついさっきまで笑っていた。だが私の姿を見た瞬間慌てだし、私の言葉を聞いたら冷静になり、そして今――何かを決意したのか私に近付こうとしている。
誰も、私に近付こうとしなかった。
恐怖の目で私のことを見て遠ざかり、誰も私と言う存在を畏怖として見ていた。
だが、女の目に畏怖と言うものはない。
どころか私に対して敵意などない面持ちで私に近付こうとしてくる。ゆっくりと、真っ直ぐ私に向けて足を進め、そして私の近くで、私のことを取り囲むように咲いている花達に足を延ばし――
その場所に足を下ろそうと…………。
「――踏むなっ!」
「!?」
その行動を見ていた私は、無我夢中で、無意識に女に向けて叫んだ。叫ぶと同時に黒い煤の中にあった口だと思う箇所が大きく開いたような感覚を感じ、その口から黒い煙がブワリと出たような、口から感情と言う名の煤が出たかのような声で私は叫んだ。
これは比喩ではない。言い表しているのではない。黒い煙も私が見た限りのことで、口から出ていることは現実なのだろう。そのことに関して私は己の体の新しい部分を見て驚きを隠せなかった。
だが、それ以上に……、荒げる声など、何百年振りだろうか……。喉は嗄れていない。声帯も潰れていないから声は出せたが、久しぶりに私は叫んだ。
感情を露にした――本音を名も何も知らない見知らぬ女に向けて……。
「………………………」
「………………………」
女は私のことを見て驚きと言うよりも、固まった顔をして私のことを見ている。足を下ろそうとしていた行動を止められ、足を上げた状態でその状態を維持している女のことを見て、私は内心やってしまったと思うと同時に、私は困惑してしまった。
何百年もの間生きてきた私は、私をこのような状態にした輩に対して怒りの感情などとっくの昔に消え失せていた。長い間生きてきた私だからこそ、寿命と言うものを持っている人を恨んでも何の得にもならないと思ったからこそ、私は怒りなどないままこの場所で縛られ続けていた。
怒りなど、もう忘れていたと思っていた。
あったのは――花達を黒くしてしまったという後悔と悲しさだった。
だが、私は驚いた。私の中に怒りと言うものがあったことに。
そのきっかけは些細なことで、まさかこんなことで怒り表す私自身に対して驚きを隠せなかった。私にも、こんな感情がまだ残っていたとは……。
己の中にある感情に驚きながら私は困惑し、視界を泳がせながら辺りに咲いている白い花、灰色の花、黒の花を視界と言う名の窓に入れ、冷静になるために唯一ある脳の思考を巡らせると、私の声で固まっていた女が、驚きもしていない音色で……。
「お花、好きなの?」
と、平然としている音色で聞いてきた。
強張っている私とは正反対に、女は私に向けてまたもや質問をしたかと思うと、無言のまま時間をやり過ごしている私のことを見た後、女は上げていた足を、踏み込もうとしていた足を後ろに引き、そして足の向きを――進路を花達の周りへと変える。
私がいるこの地形は私のことを取り囲むように花達が咲き誇っており、その花達と樹木たちの境界線があることを示しているのか、それともその場所にだけ草木が生えないのか、花達と樹木たちの境界線には花などない。あるのは曝け出された土。
その土があるところを歩み、そして私の正面に来たところで女は再度私に向き直り――興奮、驚きなどの感情を出した豊かな顔に、新たな顔を出した後、女は緩く口元を緩ませながら言葉を発した。
目元にある何かを手で直し、その場にしゃがみながら、女は言った。
「だったら、ここで話してもいい? いろいろとこの世界のこと聞きたい」
「………………………なに? 話を聞く? 私にか?」
「うん。そう」
女の言葉に私は驚きながら言葉を返す。女の行動にも驚きは舌が、それ以上に女は言ったのだ。私と話をしたいと、この世界のことについていろいろと聞きたいと、そう断言をしながら、あからさまな居座る行動をしたのだ。
腰の布に土がつくことなどお構いなしに――だ。
明らかにおかしい。そう私は思ってしまったと同時に、女は私のことを見て、しゃがみながらにこりと笑みを浮かべたまま女は言葉の続きを驚く私に突き刺すように言う。
自分が言う言葉に対して、拒否なんてさせない。
無意識の脅迫が混じるその言葉で……。
「私、ここに来たばかり……、と言うか、転生したばかりで何もわからないし、この国に転生された理由もわからない。強いて言うとこの国のどこかに王国があるのかもわからないの。あなたに出会うまで全然人に出会わなかったし、それにあなたの元を離れた後は絶対に迷う確率百パーセントだから、あなたに色々と聞こうと思って。何かと詳しいみたいだから、話ししたいしね」
「私と……か? 人から『死を呼ぶ存在』と恐れられている私にか……?」
「そうだよ。それにそれって人がそう呼んでいるだけで名称でも何でもないんでしょ? 本当に死を呼んでいるのなら私はとっくに死んでいるもの。でも死んでいないから大丈夫」
「単純な回答だな……」
「常に難しいことを考えていたら頭痛くなるからそんなこと考えたくないのが私の性分だもん。面倒くさいし、それに質問しっぱなしだし、こっちも返答していないからそのことも踏まえて――」
ね? と言って、女はその場で座り込み、私と言う人間ではない顔を見つめながら――純白の花達を挟んだ状態で女は私に向けて言う。
恐怖も何もない顔で――女は言ったのだ。
『死を呼ぶ存在』と恐れられた私に向けて――笑顔のそれを向けて……。
「最初に自己紹介をしないといけないよね。ごめんね――興奮してて忘れていた。私の名前は
そう言って女――ユカと言う女は私に向けて手を伸ばし、まるで空に向けて握手をするような動作をしながら言ってきた。
私は現在縛られている身。手も動かせないから仕方がないかもしれないが、女の行動を見ていた私は驚きと言うよりも、女の言葉を聞きながら理解できないという気持ちを抱きながら女のことを見ていた。
女は一度死んだ。
そしてこの世界に転生してきた。
ありえない話を私に告げ、ユカと言う女は私の――人間にある眼があるところを見て微笑んだ。
何百年以上もの間生きてきた私に、『死を呼ぶ存在』として恐れられてきた私に、恐れることなく……。
そんな女の言葉を聞いていた私は、最初に抱いていた警戒がなぜ消えて、そして女が言う言葉に対して興味が湧いて行くような、新しい水が私を潤すような、いいや、もっともっとと求めているような感覚に陥っていく。
女が言う――いろんな聞いたことがない言葉。
それが一体どんなものなのか、知りたい。
これはいうなれば知識欲だ。
縛られて何もしてこなかった私はきっと、何かを知りたいという欲求に執着、固執……、いいや、この場合は摂取したかったのかもしれない。
だからだろうか、今はユカに対して警戒と言うものなどなく、知識欲と言う栄養を取りたい気持ちに駆られ……、いいや、今目の間にいる女――ユカと話がしたいという無意識の感情を優先した私は、ユカのことを見て言った。
前のめりになると、私のことを縛っている鎖が音を立てて動いたが、そんなことお構いなしに私は言う。
「確かに、自己紹介は大切だ。よろしく――ユカと名乗る女。生憎私に名前などない。だから好きなように呼んでいいよ。『死を呼ぶ存在』でも、あなたでも何でも。そして――君の要望を呑む。話し相手になろうと思う」
正直――ずっと一人はつまらなさ過ぎて岩になりそうだった。
そう言いながら私はユカのことを見る。私の言葉を聞いて、顔から『やった』と言うそれを浮かべている彼女のことを見て……。
『イセカイ』と言う場所から来た彼女のことを見ながら、私は何百年ぶりになるのかわからないが……、それでも私は何百年ぶりの会話を、談笑を行うことにした。
その背後で、ユカ以外の存在がいることに気が付かず――
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