第54話


 コバルトが少し表情を見せた。眉にしわを寄せているんだ。

「どうしてこういう時にゴーストと出会うかな」

「そりゃもちろん、誰かさんの行いが悪いからじゃないかな? ストライキをするとかさ」

 ここでコバルトは、フンと鼻を鳴らしただけではなかった。

 それどころか、不意に僕の背中へ手を回すと思ったら、潜水服の背面にある解放レバーを一気に引いてしまったんだ。

 パシュッ。

 緊急時の脱出レバーでもあるのだから、ヘルメットが肩から外れ、大量の泡と共に、カエルのように大きく口を開いた。

 そうなると空気圧のせいで、僕は生身のまま海中へ押し出されてしまう。海水に包まれ、もちろん僕は呼吸ができなくなる。

 幸いリリーがとっさにつかまえて、潜水服の中へ押し戻し、ヘルメットもすぐに閉じてくれた。

「コバルト、なにするのさ!」

「おやおやトルク、腹を立てる暇などないぞ。ゴーストのやつ、獲物を見つけたようだ」

 コバルトはそんなことを言うが、リリーも同調するじゃないか。

「ああ本当に、いま水面に潜望鏡を出したね」

「それどころか、魚雷発射管に注水する音まで聞こえるぞ。本当に1発、発射する気だ」

 相手の姿も見えないのに、サイレンの敏感な耳にはすべてが聞き取れるのだろう。

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