第51話


 だがもちろん、リリーはそんなものをほれぼれと眺めたりはしない。

「どうしたコバルト、何か用か?」

 そばへやってくると、コバルトは当たり前のような顔をしてリリーと並んだ。僕をジロリと見る。

「トルクを肩の上に乗せていないと、私は調子が出ないのだ…。かわれ、リリー」

 意外なセリフに、僕はリリーと顔を見合わせるしかなかった。

「あんた自身がスト破りになってしまうけど、いいのかい?」

「ストライキ? もう飽きた」

「いくらなんでも早すぎない?」

「いいからトルク、お前はこっちへ来い」

 そう言うのなら仕方がない。

 そりゃあ僕だって、リリーの肩よりはコバルトの肩の方が慣れている。

 僕は体を動かしかけたが、リリーの気持ちは違ったようだ。僕を肩に乗せたまま、とっさにコバルトから離れ、

「トルクを取れるものなら取ってごらんよ」

「なんだと?」

 コバルトは眉を上げたが、その時にはリリーは行動を起こしていた。波を突き破って水面に顔を出し、潜水服ごと僕をヒョイと空中高く投げたんだ。

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