第29話
翌朝になって水槽へ降りてゆくと、喧嘩するでもなく、コバルトはリリーと話し込んでいるふうだったが、すぐ僕に気づき、
「よう裏切者、この船をどうやって沈没させるか、リリーと相談しているところだ。お前も加わらないか?」
「あんたの冗談は笑えないよ」
「冗談なものか。私はいつだってまじめさ」
「そんなことより、ジークが沈んだ海域に到着したよ。もうすぐドアが開く」
コバルトはいかにもゲンナリした顔をしたが、もうあきらめたのか何も言わなかった。
30分後には僕は一人、ゆらゆら揺れるボートの上にいた。ゼブラを離れて、波間に漕ぎ出していったが、さいわい波の強い日ではない。
コバルトとリリーは長いクサリを手に、ついさっき波の下に姿を消したところだ。
仲の良い少女たちのように手をつなぎ、潜水を始める姿は、かわいらしいと言ってよかった。
こうやってサイレンが加わる作戦はもちろん極秘で、まわりは人払いがされ、船影はゼブラしかない。しかも周辺海域は空軍機によって警備されていると聞いた。
もちろん僕は、コバルトたちについては行かなかった。
潜水服を着ても、人間は60メートルか、せいぜい100メートルしか潜ることができないから。
その代わり僕はボートに乗り、海面に身を乗り出して、コバルトたちと打ち合わせをした。
「機体を発見できると思うかい?」
「燃料が漏れているのだな。かすかだがガソリンの匂いが海中を漂っている。なんとかなるだろう」
そういってコバルトたちは潜水していった。
思うに海水とは、人間には分からないだけで、実は様々な匂いに満ちているのだろう。サイレンの敏感な鼻はそれを鋭くかぎ分けることができる。
コバルトたちの姿が見えなくなると、とりあえず僕は暇になった。クレーンから伸びて水中へ消えてゆくクサリのゆっくりとした動きを眺めている他は、することがない。
だから少しのんびりすることにして、朝食代わりに渡されていたコーラの栓を抜いた。
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