第27話


「くそったれ…」

 そういうコバルトの気持ちも分からないではない。

 いつも地下プールでじっとしているコバルトにとっては、パトロールに出かけるのは『犬の散歩』みたいな気晴らし効果があるのだろうから。

 でも海軍はペットホテルではないし、サイレンもお客様ではない。

 コバルトの目がきらりと光り、また意地悪を口にした。

「もしも、いま私がストライキを始めたらどうする?」

 サイレンは軍人でも軍属でもないし、その前に人間ですらない。

 建前上、サイレンたちは好意でアメリカ軍に協力している形になっている。いつでも好きな時に辞職できるんだ。

 だから辞職しないまでも、コバルトがストライキと口にした日には…。

「僕がつるし上げられる」僕は正直に答えた。

 ネズミをつかまえた猫のような顔をして、コバルトはニヤリと笑った。

「それは面白い。リリーと一緒に見物しよう」

 僕は2つ目のニュースを披露する気になった。

「そのリリーが問題なんだよ。トーマスだけじゃなく、その次に相棒になったライダーも先日、行方不明になったよね」

「敵の流れ弾に触れたという話だったが」

「だけどついに、海軍はリリーを疑い始めたらしい。食っているとまでは本気で考えてないけど、相棒を故意に死なせているのではないかって」

「常識に縛られて、人間というのもバカな生物だな。今頃気づいたのか」

「だから最近は『人食いリリー』とあだ名がついてる」

「奇遇だな。私も『人を食った』と言われるぞ」

「あんたの場合は、そういう性格だからさ…。それでリリーの安全性を確かめるため、当分リリーは僕とコンビを組むことに決まった」

「私はどうなるのだ?」

「だから三人組になるんだよ。ほらほら急ごうよ。あそこで船が 待ってる」

 コバルトをせかして見上げると、少し先に赤い艦底が見えている。へさきの尖ったスピードの出そうな船だ。

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