檸檬のような恋をした

堕なの。

檸檬のような恋をした

「だからさ〜、最低なんだよね」

 友だちに彼氏のことを話していた。私は自分が思っている以上に怒っているようで、次から次へと悪口が飛び出してくる。

「私に隠れて浮気とかしてる癖に、いつも会ったら大好きだよって甘やかしてくるんだよ。毎回そのまま丸め込まれて有耶無耶になって終わりみたいな」

 昨日もその前も、問い詰めようとしたらのらりくらりと躱されていつの間にかその気も失せていた。

「最低だね!」

 優しい友だちはそう言って怒った。まるで自分のことのように怒る友だちを見ていたら心の中がスッキリした。誰かにこの話を共有したいだけだったようだ。

「そんな男辞めればいいのに」

「どうしたって好きだから」

 私が困ったように笑えば、友だちも困ったような顔をする。関係を切ることは考えていなかった。私には彼しかいないから。どうなったって肯定してくれる彼の優しさに甘えているのは私だから。

「今日は愚痴聞いてくれてありがとう。スッキリした」

「ううん、別に大丈夫だよ」

 この後はいつも通り、流行りの服だとか大学の単位がヤバいだとかの話をして解散した。

 ことが起こったのはその数週間後のことだった。彼氏の家にサプライズで行けば友だちがいた。私の彼氏の浮気相手は友だちだったのだろうか。それなら酷い話だ。一体どんな気持ちであの話を聞いていたのだろう。私は2人にはまだバレていないのをいいことに、ドアの隙間から2人の会話を聞くことにした。だが、事実は私の予想とは大きく掛け離れたものだった。

「お前なんで浮気したんだよ!」

「君には関係ないでしょ」

「私は莉緒ちゃんの親友だ!」

 どうやら浮気の事実に対して押しかけて怒っているようだった。

「そもそもそんな証拠どこにあるの?」

「写真もメールの内容もあるから確認すれば?」

 ばらっと地面に投げ捨てられた写真を覗いてみれば、そこには学校一の美少女と名高い女の子が映っていた。

「確かにこれは僕だね」

「言い逃れはさせないから」

「僕に何を言わせたいの。浮気しましたごめんなさい。これだけなら誰でも言えるよ。それとも何。本当は麗の方が浮気相手で好きでも何でもないってこと本人に聞かせて傷つけたいの?」

 彼は確かに私を睨んだ。手から力が抜けて持っていた紙が落ちる音が響く。友だちはしまったという顔をして気まずそうに俯いた。

「……それ、本当?」

 私がやっとの思いで出した声は頼りなくて、一縷の望みも彼の静かな肯定の返事によって打ち砕かれた。足からも力が抜けて身体が地面に落ちる。なぜか涙は出なくて、代わりに出た言葉は「別れよ」だった。

「勝手してごめん」

 帰り道、友だちが深刻な顔をして謝ってきた。確かに衝撃だったけどこれで彼との関係は一段落ついたし、正義感に従ってやったことなのだろうから責め立てるつもりはない。

「別に大丈夫だよ。むしろスッキリした感じ」

 心の中でモヤモヤしていた部分が晴れたような、そんな気持ちだった。私の心中を察したのか友だちもつられて笑った。

 家に帰ってベッドに頭を埋める。ここでようやく涙が出てきた。それは後から後から零れて、止まることを知らない。

「なんっ、で」

 彼に自分が釣り合っていないことくらい分かっていた。だから釣り合えるように努力した。見た目も中身も、彼のそばにいて恥ずかしくないように頑張った。全部無駄だった。

「いや、だよ」

 本当は嫌だ。あんなのは強がりだと私が一番知っている。どんな形でもいいからそばに居たかった。

「嘘でいいの。嘘で心地よかったの。だから、そばにいて……」

 こんな言葉ももう届かない。彼がこれから先居ないことの実感が今更湧いてくる。もう遅いと分かっている。それでも止まらない。どうしたって彼は私の全てだった。最低でも、私が本命じゃないとしても。

「大好きだよ」

 私はホーム画面に設定してある彼の写真にキスをして、そのまま気絶するように眠った。

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檸檬のような恋をした 堕なの。 @danano

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