第2話 目的
祖父の葬儀後、オレは村では比較的裕福なアンダーマン家に世話になることになった。アンダーマン家の家長『ウィル=アンダーマン』はその昔は商人として世界中を旅していたとかで、生活に余裕がある。今は東の都市『フロールン』に自身の店を持つが、今はそちらは息子に任せてこの村でのんびりと過ごしているそうだ。オレはこの家で朝、夕の食事をごちそうになり、昼間は村仕事の手伝い、その後亡き祖父の家で夜は過ごしている。
少し落ち着いたところで、先日の神とやらの話を整理してみる。
・このオレ『レイン』は『秋山 蒼汰』という学生の生まれ変わりである
これはもう理解できる。今のオレには秋山 蒼汰としての記憶が所々あやふやだが確かにある。
・オレは前世で事故で死にこの世界に生まれ変わった
・オレの死んだ事故で一緒に亡くなった数名の者もこの世界に生まれ変わった
・その数名の中にこの世界を今後破滅へ導くものが紛れ込んでいた
・オレはその人物への対処を託された
対処というのは殺すという事なのかと尋ねたが答えは「方法は問わないがその方法が一番簡単だ」と答えられた。
人殺しなどしたくは無いし、想像もつかないがそれよりも今はもっと重要な問題がある。それはどうやってそのこの世界に大きな悪影響をもたらす魂の持ち主を探すかだ。便宜上今後それを『黒の魂』と呼ぶことにする。
神曰く、自分はこの世界に大きな影響を与えられないのだそうだ。ゆえにオレに対しても強力なサポートは出来ないとのこと。そもそも大きな影響を与えられないから、元々大きな影響力の無いオレにコンタクトをとれたというのもあるらしい。(つくづく失礼な話だ)それもあり、神の本来の目的であった”大いなる清浄な魂”(今後は便宜上”白の魂”とする)の持ち主はオレでは無いという事は確定している。もともと言われていた話ではあったがやはり少し落ち込む。
しかしもっと落ち込む、もとい気が重くなるのはこの先だ。神の奴黒の魂を探し出す方法を考えていなかった。オレが尋ねた時は
― ?人間というのは、前世の絆とやらで互いを確認できるものではないのか?
と返された。さすがに呆れた。恋愛ドラマとかならあるのかもしれないが……。
何せ他の転生者は前世の記憶も無く、種族も人間とは限らないらしいのだ。はっきり言って探しようがない。
とにかくこのままではまずいので探し出すためのいくつかの指針を神から告げられた。
1. オレと年齢が同じである
2. 希少な才能や気質を持つ確率が高い
1に関してはこれは大きな手掛かりだ。これだけで大きく人数が絞られる。ただ、これは同じ誕生日という事ではないらしい。魂がこちらに来た時が同じだけで産み落とされるのには幾らかの差があるからだとか。というかこの世界で暦を正確に把握している人間がどれだけいるのだろう。
正直言ってこの世界の文明は遅れている。カレンダーも家に常備されているものでもないし、時計も個人で所有しているのは貴族か成功した商人ぐらいだという。
いや、そもそもオレはこの世界で捨て子だから正確な出生日は分からないわけであるが……(拾われたのが生後間もなくで、その日が誕生日として伝えられてはいる。この村の村長の家にはカレンダーに代わる暦表というものがありその日付も知らされている)。
まあいい。それらも踏まえて黒の魂候補者はオレの年齢の±1と考えておこう。
2については正確なことは分からない。ただ、他の世界から来た魂はこの世界では希少な存在であり、それゆえに此方の心身にも影響を及ぼす事があるのだと言う。しかしそれも絶対ではない上にどの様なものか予測もつかない。なかなか当てにできない情報だ。
3つ目の指針は神託の後、神から遣わされた動物がもたらした。それはオレの前にふらりと現れた。イヤースクワロルという動物で見た目は前世のうさぎとリスを合わせた様な姿をしている。大きさは子猫ぐらいで大きな耳としっぽが特徴的な草食動物だ。この世界では割とポピュラーな生き物らしく珍しい生き物ではない。ペットとしての需要もあるが、冒険者などはその臆病な生態を利用して、危険を察知する前世でいう炭鉱のカナリアの様に使われている様である。
オレの前に現れたそれは、一般的なイヤースクワロルとほぼ同じ姿だが少しだけ特徴があった。白い毛並みに頭の所に縦に青い線が入っていた。
いろいろな事があり無気力になっていたオレにやけにそいつは懐いてきた。無下にも出来ず世話をしようとした矢先、それが神の使いだと気が付いた。
イヤースクワロルがオレの目の前で自分の口よりも大きそうな、大き目な懐中時計の様なものを吐き出した。それと同時に以前聞いた神の声が頭に響く。
― その生き物は私の使いとして、改良したものである
― 今、その生き物が手渡したものは世界の未来の均衡を示す『裁定の天秤』のレプリカである
― 以前、悪影響を与える魂、あなたの言うところの黒の魂を探すために情報が足りないとの事だったので、これを貸し与える
― この裁定の天秤の針が0から+20になる様に世界を調整して欲しい
― この針はおよそ10年後の世界の均衡を示している
― -ならば世界は暗黒の破滅へ +ならば黄金の繁栄と導くだろう
― 但し、+も50は超えては決してならない
― 過剰な繁栄はすぐに衰退へと向かうからだ
― 貴方の行動でこの針は動く
― 取り分け黒の魂に対処できれば大きく動くだろう
― それ以外にも道はあるのやもしれぬ
― 貴方が世界を救うのだ
神の声はそこで途絶えた。
また言い逃げか、とも思う。
裁定の天秤とやらも手に取ってみる。
金属の淵にガラスの様なカバーがされており、中には分度器の様は半円のメモリと、その一点を指し示す針があった。メモリは左が-100で頂点が0、右が+100と記されている。
針は-20を示していた。
足元には、先ほどのイヤースクワロルが体を擦りつけてきていた。
ゆっくりと撫でてみる。
オレはそいつを『ブルー』と名付けた。
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