12
「正面の攻撃は俺が受け流すから、ルカは俺の後ろにいて攻撃を避け続けろ」
「しかし、それではあなたが」
「お前は、体力を温存しておけ、今は待っておけ」
シオンはそう言うと、ルカを背後に立たせた。
「まあ、後ろからくる雑魚は任せる」
「承知しました」
不承不承というのがわかる声だ。
が、確かにルカとしてもこれ以上全力で戦い続けるのは避けたい。
実際、ルカはシオンの後ろにいて同じ動きをするだけで良かった。
背後からくるような敵はいない。
いたとしても、いつの間にか集まっている町の人々が対処している。
幾度も切り結んだシオンが、ふいにアンスティスの足を切った。
そして少しだけ身をかがめると、シオンの背を踏み台にしてルカが飛びながら剣をふるう。
横、真一文字に白銀の光の筋が一本見えた。
合図もなにも出していないのに、この連携…。
見守っていた皆が息をのんだ。
「ご…… あ゛…… 」
アンスティスは唸り声を上げ、ゆっくりと倒れていく。
ルカは、それを冷ややかに見下ろしていた。
が、ふいに、ぐらりと倒れる。
張っていた気が緩んだのだろう。
「……終ったな」
「はい……」
そう、終ったのだ……
雨もやみ、もう何も心配することはない。
ルカはそのまま崩れ落ちるように倒れた。
“エレン!!”
エレノアは、懐かしい声を夢うつつに聞いた。
“ウーシェ…?”
ルカは、ぼんやりとした目で声の主を探す。
声の主は、ルカを微笑みながら見ている。
しかし、周囲は深い霧がかかっているように白く、何も見えない。
ルカは、ふと、何か違和感を覚えた。
“ウーシェ……じゃない…あなたは…”
声の持ち主の顔が、微笑みから心配そうな顔へと変わる。
「エレン!!しっかりしろッつってんだろッ!!」
……ウーシェと瓜二つのシオンだ
ルカの視点が、シオンへと合う。
そして、その後ろに動かなくなったアンスティスを見て、ほっと息をついた。
「……終ったんですね…本当に…」
夜が、明けようとしていた。
夜が明け、日も昇りつつある。
海は、明け方の陽の光を反射させ、いつものように一定のリズムで波を寄せては返している。
そんな中。
自力では動けないルカをシオンが支えていた。
子どもたち3人は、闘いはもう終ったことと、村のバリケードを解いて欲しいことを伝えに走っていた。
「……ありがとう」
ルカは、相変わらず優しげに微笑みながら礼を言う。
「あなたがいなかったら、あいつを倒す事ができませんでした。そして呼んでくれなかったら、目を覚まさなかったかもしれません」
「いや……」
エレンと呼びかけ続けた時の心が凍るほどの恐ろしさを感じていた。
目をうっすらとではあるが開けた時に、シオンは心底ほっとしていた。
まるで、自分が本当にウーシェであり、ルカをずっと見守っていたかのような気持ちがした。
「本当に…ありがとう……シオン・ガイル中央執行委員長殿」
ルカは、にっこりと笑った。
ウーシェはウーシェ……この人ではない。
いくら似ていても、ルカの記憶にあるウーシェとシオンでは違い過ぎていた。
そのことが、ルカの神経を、どこか刺激していたのだ。
今、自分のその弱さを認め、越えたのだろう。
……他人に、おもかげを求めてはいけない……
次の日
シオンは後ろ髪をひかれる思いをしながら島を後にした。
ルカ…いや、エレノアが、大丈夫だから早く中央都市へ行き、この後を確実にするようにしてくれ、と言っていたからだ。
本当の本当に大丈夫なのだろうか……
エレノアは、見舞いに来ていた3人の肩を借りながら、丘の墓の傍らへ来ていた。
ウーシェの墓により添うように座る。
潮風がエレノアの髪をなでていく。
出発した小舟を子どもたち3人が見送る。
その後ろには、エレノア。
エレノアは、墓にそっと頭を乗せ、船影と、みんなの姿をまぶたに焼き付けながら、静かに目を閉じた。
今日も快晴。
波は、寄せては返しと、一定のリズムを繰り返す……
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次で終わります
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